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私にとってどれほど大切なモノなのだろうか



「うわあ、これはこれは」



目を丸くした高城の前には、ダークグレーの毛並みをぺろぺろと舐めながら毛繕いする子猫が居る。


それを囲む様に、緒方、日向、相楽と私が座っていた。



「……うーん、すごいね、全く違和感無いよ。

もちろん僕達がノーアを感知する術は無いのだけれど、それでもどう見ても毛並みの良い子猫にしか見えない」


「可愛いねえ、すっごく!」


「……」



じっとそれぞれが好奇心や警戒心を持ってして見つめられていた子猫は、少ししてこの場所の奇異さに気付いたのか、みゃーおと不安そうに鳴いた。



「ハルコ、ハルコ……こいつら誰、なに?」


「えーと、その」


「私は日向ミヤ!初めましてノーア!」


「誰だ?お前……ハルコの敵か?」



シャーッと歯を剥き出して威嚇する子猫に、私は思わず立ち上がって叫んだ。



「日向は私の友達よ、怪我をさせたら怒る」


「怒る……ハルコは、僕達より日向ミヤの方が好きなの?

僕達の事、嫌いになった?」


「嫌いなんてならないよ、けれどこの人達も私にとって大切な人達には変わりない。

私は誰も傷つけたくないの。

アナタ達は不安定で、今までは薄い色でしか無かったはずでしょう?

それを無理矢理呼び出した事、怒っていないの?」


「僕達嬉しかった!ハルコが声を掛けてくれた事、僕達を呼んでくれた事!

だから、僕達は形になったよ」



直接言葉として聞こえながらも、可愛らしくみゃおみゃおと鳴き声が聞こえる。

その様子に高城がそうだと両手を打ち鳴らし「ちょっと待ってて」と言い置いて席を立った。



「……ハルコちゃん、今回の事。

うちのコウタが一緒に居ながら危険な目に合わせてしまって、済まなかった」


「え?」



緒方は立ち上がると、綺麗な角度で頭を下げた。

その様子にぎょっとしたが、悲痛な面持ちで語られるのは先程の事で。



「コウタには君の護衛として付いて貰っていた筈が、危険に晒す様な事を……さらには無理矢理ノーア達に呼びかけるような危険な真似をさせた事、言い訳も出来ないくらいだ。

本当に済まない」


「…………」



ずっと頭を下げている緒方に何か言いたそうにしていた相楽だが、グッと握り拳を作って耐えていた。

私は慌てて「顔を上げて下さい」と叫ぶ。



「私、怒ってません。

私も大切な事に気付かされたので、そこに関しては感謝しこそすれ責めるなんて。

成り行きの事とは言え、自分が気付いていないからと言って済まされる事ではない事も理解しています。

気付くべきところにたまたま今回が当たっただけなんです。

正直、そんなところよりもっと他のところを叱って下さい」


「コウタは……これ以上になにをやからしたのかな?」



不安そうな緒方に、私は先程のやり取りを緒方に伝えた。



「デリカシーの無さに呆れていたところです。

いくら外面が良くても中身がアレでは、好感を持てないです」


「お前っ!!」


「コウタ?」


「ぐっ、はい……」



大人しく緒方の前に直立した相楽は、肩を揺らしながら恐怖に耐えていた。

その様子を日向と一緒になって笑いに耐えながら高城が戻って来るまでの間を過ごした。



「お待たせ……って、なんだい、どうして相楽くんはあんな隅で正座してるのかな?」


「今日一日の反省をしたいそうです」



さらりと言ってのけたのは日向で、私の口から事の全貌を明かされると「信じられない!」と憤慨した。



「女の子に体重の事はタブーなのに、最低!

年上とか年下とかそんな事どうでも良いよ、ほんっと相楽くんってそう言うところ最低よ!」


「そうだよ、同じ男としてそこは改めるべきだと僕も思う!

思いやりが足りないよ思いやりが!!」



ぶんぷんと怒りながら、高城と日向がそう叫んだ。



「済まなかった、ハルコちゃん。

コウタにはよく言って聞かせるよ」


「いや、別に緒方さんが謝る必要無いんですけどね」



思わず言うと「同じ班の仲間だから」と苦笑した。


そう言うのは、素直に良いなと感じて黙り込むと「ハルコ?」と腕の中で首を傾げた子猫に「なんでもないよ」と呟いて、そっと耳元をくすぐった。


高城はノーアに「食べられるかなあ」と言って猫缶を持って来たのだ。

ノーアは加減な顔になって「なんだこれ」と一蹴した事から、おそらく彼等はモヤの集まりであって、生き物では無いのだろうと憶測だが結論が出た。



「私、アナタ達の事勝手にノーアと呼んだけれど……何か呼び名がある?」


「ハルコが呼ぶならなんでも良いよ、ハルコは僕達にとって親の様なものだもの」


「やっぱり、君達はハルコちゃんがとても大切なのだね」


「当たり前だろう、ハルコは僕達が見えるし、何より寄り添ってくれる。

助けてくれるし、守ってくれる。

僕達はハルコが大切だし、大好きだ!」



臆面も無く言ってのける彼等に思わず嬉しくなって礼を言うと、ノーアはまた私の腕の中でうごうごと動き回った。



「……ねえハルコちゃん、この子達はノーアの集まりなわけで、この子にも心臓はあるのかな?」


「……うーん?」



じっと子猫を持ち上げてみるけれど、それらしいモノが見えない。

なぜか彼等は「集まり」として認識出来るのに、あのサラリーマンの彼に取り憑いていた時と違って確固たるモノになっている様だ。



「そうか……と言う事は、この子はハルコちゃんがノウンするのとは別に形作った、と言う事なのかもしれないね」


「ノウンしたわけじゃ無いと?」



深刻な表情になった緒方が問い掛けると、高城はゆっくりと頷いた。



「通常、ハルコちゃんが目で見て、視線や声で現象界から確立させるのが今までのノウンと言う現象だったはず。

けれどそれらは個別に意識を持って、現象界から現界させられる様子とはまた違っているよね?」


「確かに……今までの彼等はもう少し不安定だったと思う。

ノーアが不確定なモノだとして、ノウンされたノーアと言うのは方向性や意思の形が決まったモノと言う感じだろうか」


「それならこのノーアは、ハルコちゃんが意思を持って命令した事で生まれたって事ですか?」



言われれば言われるだけ、ヤバい事をしてしまったと言う気がしてくる。

今までの無意識下での現象を確立するだけでもヤバいのに、今回は自分が意思を持って現象を確立してしまったと言う事は、それだけこの確立に私の意思が乗ると言う事だ。

私はただ見るだけだと思っていたところに私の意思が入るなんて、相当ヤバい事になるだろう。

何を言われるだらうかと覚悟していた私に掛かった声は、意外な程に優しい声だった。

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