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握り締めた拳をほどきながら



「待って待って、そんなの着れない!!」


「良いから着ろ」



持って来た物はどう見ても露出が高く、1番避けて来た部類だった。

肩から二の腕の部分が隠せないタイプのブラウスだったり、背中がざっくり開いたシャツ。

フレアスカートは丈が長く、足元がもつれないか不安が高まる。



「お前は見た目で決め付け過ぎるきらいがある。

今まで生きて来た自分を守る為の術だろうが、自分の事にはもっと頓着しろ。

特に誰かに見られていると意識する事で自然と相手や自分の動きをある程度把握出来るからな」


「だからって待って、なにこれ」


「今の流行に合ったファッションを身に付けろ。

別に格式貼った物で無くていい、綺麗に見えるラインだったり自信のある角度だって良い。

お前はめちゃくちゃ勿体無い」



眉と声を怒らせて、相楽は持たせるだけ持たせると試着室へと私を投げ入れて締め出した。

店の店員さんがびっくりしているくらい私にも分かるので、仕方無く肩をすぼめて着替える事にした。

どれだけ似合わないか目で見たら理解してくれるだろうと思って袖を通すと、鏡越しに見える自分がそれほど悪くないんじゃないかと思えて来て押し黙る。



「おい、着たか」


「あ、うん」



思わずカーテンを開けてから、しまったと冷や汗をかいた。

なんとなく恥ずかしくて、先程浮き上がった気持ちがゆっくりと沈んで行く。

しかし相楽の「良いじゃん」と言う明るい声に、私は顔を上げた。



「カーディガンこれ羽織って。

……いや、これより白の方が良いかもな。

ちょっと見て来る、声掛けるまでカーテン閉めとけ」



言うや否や相楽がカーテンを閉めたので、やっぱり変では無いのかもしれないと少しだけ思い直した。

そこからはいくつかの服を私に合わせたり、持って来た物に着替えろと言ったりして一通り着た後は満足そうだった。



「これ着て帰るぞ」


「そうなの?じゃあお金渡しておくね」


「は?」


「え」



瞬間不機嫌そうになって「ありえねえ」と吐き捨てると「さっさと着替えろ」と吐き捨てる。

意味が分からないままに着替えて試着室から出ると、両手に紙袋を抱えた相楽が居て、小走りに店外へと出て来た。



「あ、もしかして相楽くんが欲しかったの?」


「だからなんでそうなるんだよ」


「だって……え?」


「……ああ、お前今まで彼氏居たこと無いだろ」



言われてグッと言葉を飲み込んだ。

相楽はデリカシーが無いのだ。

さっきの太って見えると言う言葉も、遠慮が無いだけでは無い。

ただただデリカシーが無く、こんなに綺麗な顔をしていて彼女に困った事も無いだろう人に、私の気持ちなんて分かってたまるか。



「……帰る」


「は?」


「帰る、だから付いて来ないで」



眼鏡越しに睨むと、一瞬怯んだ様子の相楽はその場で動けなくなったかのように立ち止まる。

私はそれを見て先程来た道と反対方向に歩き出した。



「待て待て、すまん、俺が悪かったから」


「何も悪いと思っていないなら黙って」


「別に悪気があって言ったわけじゃない」


「だから許してくれと言うの?それ都合が良過ぎるんじゃない?」


「お前も楽しそうにしてただろう」


「そう見えているなら、目が悪いんじゃないかと疑いたくなるわ」



向けられた言葉がとても軽薄に思えた。

緒方さんは「良い奴だ」と言っていたけれど、どこにも良い要素なんて無かった。

確かに服を選んでくれたのは嬉しいと感じたものの、それは私が今までおしゃれに無頓着だったからだろう。

似合う色なんて、色彩と意思とが混ざり合う私の視界ではあまり意味を為さなかったから。

彼等は私のすぐ側に居るから。

だから……そう、おかしい。



「錦見谷、悪かったって……」


「ノーアが」


「は?」



私の後ろを追って来て居た相楽は、私の言葉に一度だけきょとんと目を丸くしたものの、言葉の意味を理解したのか「なんだ」と低く問うた。



「ノーアが集まってる……少しだけど、違和感がある」


「違和感……いつもと違うって事か、どれくらい違う?」



眼鏡を外すとよく見えた。

ショッピングモールの外にある、公園の一角。

ブランコのところにいるサラリーマンの近くにノーアが集結して居た。

水色に見えて居たのは、だんだんと青く、黒く、スーツを着た男の人の足元に集まっている。

良くない傾向だとはっきり見て取れた。

その証拠にぶつぶつと何か声に出している言葉の端々に「消えたい」「死にたい」と言う不穏な単語が聞こえている。



「行ってくる」


「バカ、お前が行ってなんになる!

緒方さん達に声を掛けてくるから、お前は……」


「うわあああああっ!!!」


「きゃあああああっ!!!」



瞬時に、弾かれるように顔を上げると。

真っ黒なもやを纏った男の人が泡を拭いて立ち上がったところだった。

手に凶器はない、だけれど異常だと目で見て分かるくらいには、彼は変貌を遂げていた。



周りに居た子供達はそれぞれに親に取り上げられてその場から離れたようでホッとした。

今1番違い場所に居る自分達も逃げなければと相楽を見上げると、彼は落ち着き払って私を見ていた。



「……良いか、よく聞け。

今ここに居るのは俺だけで、アヴリウスからは少し離れてるから緒方さん達に救援を頼むのは難しい。

今メール入れたけど来るとしても15分は掛かるだろう。

で、だ……俺はお前に今から少し無茶を言う、出来そうだったらやれ、出来ないと思うならすぐにこの場を離れろ」


「な、なに」


「この辺りのノーアに命じて、あの男の動きを封じる事は出来るか?」



それは、私のとって初めてと言って良い程の衝撃的な言葉だった。

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