異世界で修行してたらチート野郎が来たので倒してみる
異世界で努力してたらチート野郎がきたので倒してみる
異世界転生。それは現在となってはWeb小説においておおく見られるジャンルの一つ。なんなら書籍化して、世に多く知られたものもある。
そんな架空の思想ではある異世界転生ではあるが、なんと、いやどうせ予想はついているのだろうけど、俺は架空を現実として認識した。かっこよく言ったが、つまるところ異世界に転生しました。
では、前置き話はここまでとして、俺が異世界で覚醒した瞬間から、かいつまんで話していこう。これは、きっと平凡なーーある面から見たら特殊ではあるけど、そんな俺の異世界譚である。
語り部というのは恥ずかしいっ。
***
目を覚まし目の前に広がるのは、目にしたことのない光景だった。はい、早速ダウト。
木目調があたたかい雰囲気を醸し出す天井だけど、結構見ることもある。天井なんてどこも大して変わらないというのが俺の持論、もとい感想だった。
ただまあここが俺の部屋の天井ではないという判別くらいは出来る。
なので、早速起き上がって周りを見てみようとした。したが、何故か起き上がれなかった。はいまたダウト。
体の感覚がおかしいのは感じていた。身長170はある俺の体の感覚にしては、やけに短い感覚があったのだ。
そして声を上げようとした。が、出たのは甲高く何をいるのかわからない声。これはホント。
確か保健の授業で習って興味が出た時に調べたが、赤ちゃんが声を発し始めるのは1歳くらいかららしい。それまでは喉の発達が未熟なため、「あー」とか「うー」と言った音しか出せないそうだ。
と、ここまでウソホントを入り混じらせて語ってきたが、俺は自分が何故こんな状態になっているのかわからなかった。いや、正確に言えば疑問なのだ。
だって、俺は普通に死んだんだから。雪に足を滑らせて階段から落ちて、薄れる意識とかはなく、ぷつりとテレビが消えるようにブラックアウトしたのだ。
それが何故こんな状態なのか? もしかして障害が残ったのか? 思考はしっかりしてるから、身体の方に。
何もできないのでそんな考えを巡らせていたわけだが、それも唐突に打ち切られた。
「起きたのリアム。こっちにおいでー」
そう言った女性は俺を抱き上げた。見た目麗しい女性の柔らかいに包まれた。そんなに簡単に抱き上げられるなんて……。
そこで俺の目には新しく映った。角度が変わったからだ。自分の短くなった手足が、自分の意図で動いていることに気がついたのだ。
そしてトドメ。鏡に映った俺は金髪碧眼で、赤ちゃんになっていた。
俺は異世界転生を果たしたらしい。
***
意識が覚醒して既に7年。俺は異世界での暮らしに順応していた。異世界の文明レベルは、地球の文明レベルで言えば中世ヨーロッパ。これもよくある異世界設定だ。
しかし一概に言えないとも思える。その要因が内なる魔力を以って奇跡を生み出す業の技ーー魔術の存在だ。
魔術は日常生活の基盤としても使われており、科学の代わりを務めているのだ。つまり、生活として確かに21世紀日本と比べて足りないものもあるけど、別に不便というわけではないし、勝る部分すらあるのだ。
俺も魔術は使う。5歳になった頃、父から生活に困らない範囲の魔術を教わったのだ。
そして、俺は今二つ下の妹に魔術を教えているのだ。
「その調子だ、クレア」
「うん」
天使のようにかわいい妹クレア。クレアは腰まであるふわふわで色素の薄い金髪をまとめて、魔術の練習をしていた。それも基礎の基礎、魔力操作だ。ある程度出来れば生活に使う魔道具も使うことが出来るので、必須なのだ。
「よし、いいぞ」
「ふぁあ。疲れたお兄ちゃん。撫でてー」
クレアの髪を撫でるのは嫌いじゃない。気持ちいいし、反応がかわいらしいし、なによりも癒される。こんなにかわいい妹、他にいないだろう。
ああ、幸せだ……。
***
俺はどうもついていないらしい。どうしてかって? この世界に転生するのにだって若くして死んでいるからだ。そして現在進行形で、俺は、妹は、命の危機に瀕していた。
突如として襲われた村。村は、魔物に蹂躙されていた。
「クレアこっちだ」
しっーとクレアの口に指を当てて誘導する。音は立てず、物陰に隠れるように、周囲に警戒して。
しかし、それもあっけなく破られた。
「走るぞクレアッ」
魔物に見つかったのだ。牙には血を滴らせ、ゆらりとこちらに踏み込んだ狼のような魔物。名前は知らない。初めて見たのだ。
必死に逃げる。妹と二人きりで。別に俺が村の人を見捨てたわけじゃない。優しくしてくれた両親も、隣の家に住んでいたあの子も、お菓子をくれたおばさんも、みんな死んでいるのだ。
走る、走る、走る。走れば走るほどに魔物の数は増え、群となって追ってくる。俺は妹を抱き上げ必死に走った。
これでも山中を手伝いで走り回っていたから、体力も筋力もついている。だけどそれだって限界があって、状況は悪くなるばかり。
山に入って木々の間を抜ける。重なった木々の隙間から差し込む光はうっとおしく、もっと暗くなれと毒吐く。
走る走る走る。
そして、限界は訪れた。
「きゃあっ!?」
「ッ!」
転んだ。足がもつれたのだ。するとあっという間に俺とクレアは魔物に囲まれてしまった。追い詰められた。捕食者に、食われる。
ジリジリと迫り来る魔物。妹は俺にしがみつき、何も見ないように目を伏せた。しかし、いくらそうしても現状が良くなることない。
10メートル、5メートル。
はあ、これで今生も終演か。齢7つにして命を散らすことになるとは、記録更新だな。それの大幅に。
さしたる思考もなく、感動もなく、現実感もなく、補食されようとしていた寸前。
魔物が死んだ。亡骸となったのだ。
まさか俺にもチートが? と思えども、今のは俺が何かしたわけではない。そんなもの目覚めることなど俺にはないからだ。
俺と妹を救い、魔物を皆殺しにした人物は。
「遅くなってしまいごめんなさい。あなた達しか間に合わなかった……」
後悔の言葉と供に、そこに佇んでいた。
***
俺と妹を救ってくれた女性ーーエンカルラさんはとても美人さんだ。そして、誇り高き森人種だ。
滅びた俺の村からエンカルラさんが連れてきてくれたのは、村の側にある森の、誰も立ち入らない先のさらに先にあった、森人種の村の一つだった。
村とはいえ、森の中。そして森の中とはいえ、森の中とはいえ……。俺の知ってる森ではないのだけど。
森人種が住んでいた森の木々は、見たこともないほどに巨大だった。おそらく5階建てのビルくらいはあるだろうし、幹だってとてつもないほどに太い。巨大という言葉そのものだ。
そして森人種はそんな巨大な木々の上や幹に村を作っていた。樹上生活という奴だ。
「ここでの生活には慣れた?」
「カルラさん。はい、おかげさまです」
エンカルラを略してカルラだ。言いづらいからと、カルラさんからそう呼ぶように言われたのだ。
俺がこの村に来てから既に一週間が経っていた。そう、もうあの惨事から一週間も経ったのだ。クレアもはじめは泣きじゃくっていたが、今は普通とはいかずとも、ここでの暮らしを受け入れつつあった。強くていい妹だ。
「ふふ、大人ですねリアムくんは」
「妹もいますから。俺が強くないと」
そう、俺は守れないところだったのだクレアを。あの時、もし少しでもカルラさんが来てくれるのが遅かったのなら、俺と妹とはあの魔物達の腹のなかだった。
カルラさんは一瞬で事を片付けてくれた。なんの魔術を使ったのかはわからなかったが、一瞬だ。カルラさんが手をかざすとことごとく魔物が血潮を吹き死んでいったのだ。
あまりにもショッキングな光景に俺は妹の目を塞ぎ、自分も目を伏せた。流石にあの量の死骸は堪え、吐いてしまうところだった。この世界に生まれてある程度は慣れたつもりだったが?
「ここの人達は凄いですね……」
「私達は森人ですから。魔術に長けているんです」
そう、ここの人達は魔術に長けている。それは素人な俺から見ても一目瞭然だったのだ。俺たちを救ってくれたカルラさんは当然として、他の人も日常生活においてなレベルが違った。
だから俺は決意していた。
「カルラさんお願いがあります」
「どうしましたか?」
「俺に、魔術を教えてください」
「理由を聞いてもいいですか?」
「理不尽から身を守るためです。クレアを悲しませたくないんです」
それから俺の修行は努力は始まった。前世から数えて、はじめまして『死ぬほど』努力をした。
魔術は基本4属性と呼ばれる火・水・風・土があり、誰しも1属性を有している。しかし稀に、2属性以上を有する多重属性魔術師が存在するのだ。
2属性持ちは天才とされ、3属性持ちは国でも一人いるかいないか。
しかし妹は、クレアはそれらを越す4属性持ち。歴史的にはただ一人、神話では有名な『イアンナ』と呼ばれる魔術の祖がそれに該当している。つまりクレアは、イアンナ以来の4属性持ちということになる。
そして俺は、なんと歴史にも見ない属性なし。基本4属性のどれにも該当せず、個人が有する固有属性と呼ばれる特別にも当てはまらない、無才というものだった。
しかし悲観することもなかった。魔術は属性がなくても使える基礎魔術があったからだ。身体強化や武具強化、そういった魔術だ。誰もが使えるそれを、俺は誰も達し得ない極地にまで昇華させたのだ。
これは日本人として知識を待っていたからだ。魔力がエネルギーならば、それにも効率ある信じたのだ。信じて、誰も知らない道をカルラさんにアドバイスをもらいながら進んでいった。
***
カルラさんの下で修行して9年。
クレアの「友達を作りたいっ!」というかわいいお願いに俺はすぐに頷き、カルラさんにも頼み込み国立の魔術学園に通うこととなった。
修行の一環で俺が冒険者として依頼を受けていたところ、そんなかわいい妹のお願いを誘発することになってしまったのだ。
「クレア行くぞー」
「お兄ちゃん待って」
俺は特別試験を受け二年次に編入、クレアは普通に入学試験を受けて主席合格をした。
特別試験は学園教師との戦闘。これはまあ、合格したということで、詳細は省くとしよう。
それよりもクレアだ。クレアはほんとに自慢の妹だ。筆記試験は前代未聞の満点合格。実技試験では二属性持ち(面倒事になるのでそういうことにするという約束をした)として挑み、無論こちらも満点。
学園始まって以来の天才として迎えられた。
となると、やはり言い寄る男がいるわけだ。容姿端麗なだけではなく性格良好。さらには屈指の天才ともなれば、こんな有望株なかなかない。学園には貴族も通っているが、そいつらでさえ言い寄る始末だ。
兄としては、妹の恋愛にあれこれ首を突っ込むことはしたくない。しかしながら、その妹の所為で関わらざるを得なくなっているのだ。
「リアム! 俺と戦えっ!」
「あー、お前だれ?」
「俺は葛木蓮汰だ」
「ああ、件の勇者さんね……」
異世界から、というか日本から召喚された勇者に間違いないだろう。名前からして日本人だし、中途半端に染められた茶髪がそれっぽい。
学園でも召喚された勇者がやってくると話題になっていたし、いつも一人でいる俺の耳にも届いていた。
なんでも、近くに魔王が復活するとの神託が降り、召喚したそうだ。ありきたりありきたり。
まあ、いい。とりあえずは、
「で、どゆことクレア」
「だってーー」
要約するとこうだ。
一年生は今度、迷宮探索の実地訓練があるらしく、それに向けたチームを作るらしい。これはおおよそ5人ほどで、クレアはもう仲の良い友達と組んだいるそうだ。
しかしそこに勇者くんがやってきた。彼の言い分は「俺はいずれ世界を救う。そのためにはクレアの力が必要だ。チームに入ってくれ」だそうだ。
それにクレアは容赦のない返答をした。そもそもクレアがチームを組んでいること。大して親しくもないのに呼び捨てにするなど無礼極まりないということ。そして、神託で降りた勇者の仲間にクレアが入っていないこと。
しかし勇者くんも諦めが悪い。これでもかと言いよってくる。そこでクレアは「お兄ちゃんより強かったら考えなくもない」と零したそうだ。
「お兄ちゃん頼られるのは嬉しいけど、面倒事は嫌いなんだけど……」
「お願いお兄ちゃん」
「任せておけ!」
「ありがとう!」
撫で撫で。クレアの撫でるのは日頃の癖になっている。
「てなわけで、受けてやるよ」
「よし。決闘は三日後闘技場でだ」
「決闘、でいいんだな?」
「怖気ついたのか?」
「まさか。確認だよ確認。
それはそうと勇者くん。俺が勝った場合何をくれるのかな?」
「なに?」
「決闘なんだ。こっちは賭けているのにそっちが賭けていない、なんてずるいだろう」
「なんでもいいさ。なんでもくれてやるし、なんでもしてやろう。勇者である俺を倒せたならの話だがな」
「じゃ、そういうことで。しっかり訓練しておけよー。あっさり勝ってもつまらないからな」
ひらひらと手を振りサボるのにいつもいる昼寝場に向かった。が、あっけなくクレアにバレて授業を受けることになってしまった。
***
そして決闘当日。
ただの決闘のはずが観客満員の決闘となっていた。控え室で寛いでいた俺の耳にも届くその喧騒は、否が応でもそれを知らせてくれた。
まあ、こうなることは予想出来ていた。
一方は期待を寄せられ、まあイケメンで、勇者と呼ばれる者。
そしてもう一方は学園屈指の天才クレアの兄。これだけでも期待値は高い筈だ。
が、それも決闘開始前に嘲笑へと変わる。
「聞きましたわ。あなた、どの属性にも適性がないのですよね? 諦められたらどうですか? 妹の前で無様を晒したくはないでしょう」
勇者チームの一人、公爵令嬢の金髪娘が俺を詰ったのだ。それも、会場中に聞こえるようにわざわざ風属性の拡張を使って。
それに衝撃を受けた観客達は、先とは違ったざわめきに染まった。
「あー、ご心配いただきありがとうございます。しかし、諦める要素もないのでそれはいたしません」
俺はあくまでも腰を低く対応した。相手は一応お偉いさんの娘だし、変に目をつけられても厄介だ。……もっとも、既に手遅れかもしれんが。
「クレアさんも見る目がないよ。そんなお兄さんにすがるなんて」
今度は腰に剣を携えた少女が言ってきた。これには当然、俺の後ろにいたクレアが返す。
「そんなことないと思うけどね。私、お兄ちゃんに勝ったことないし」
「えー、手加減してたんじゃないの?」
「むしろ私が手加減されてた」
ばちばちの火花が二人の間行き交っている。クレアは俺以上に怒っているようで、ほんとに兄思いのいい妹になってくれた。
「……」
そして最後勇者チームの女の子は無表情で、しかし俺にぺこりと頭を下げてくれた。
これはどうも。俺も会釈をした。
そんな一通りのやりとりも終えたところで、勇者殿が口上を宣う。
「俺は、クレアさんに仲間になってほしい。彼女なら共に助け合い、命を預けられるからだ。
だからリアム! 貴様には絶対に勝つ!勝ってクレアさんをいただく!」
勇者レンタの勇ましき言葉に会場が沸いた。勇者チームもぼんやり無表情っ子以外は勇者を讃えるように応援している。
俺は一つため息を吐き、通常時と変わらない声で言った。
「まあ、色々と言いたいことはあるが。
まず一つ、お前に呼び捨てにされる謂れはない。年長者を敬え。というか、最低限の礼儀くらい学んでこい。
次いで2つ。クレアがお前らと助け合うことはない。なぜなら、クレアお前のこと嫌ってるし。
そして3つ。これが一番重要なんだが、これは決闘ということでいいんだな? 試合じゃなくて」
「ああ。これはクレアさんを賭けた決闘だ!」
「うんうん。なるほどりょーかい。審判、こっちは準備いいよ」
「こっちもだ」
勇者くんは抜刀した。
その刀身、穢れなき純白にして無双の劔。闇を祓い、潔きを取り戻す神の一振り。その名を、
「神造兵器『聖剣エクスカリバー』か」
「そうだ。勇者だけがその真価を発揮できる最強の聖剣」
「まあ、いいけど」
神造兵器を見るのはこれで二度目だ。その独特のオーラから俺は一目でわかった。
流石は神代の時代に作られたと言われる神造兵器だ。強いっていうのはわかる。
「武器は出さないのか?」
「うん? じゃあこれで」
俺は一本の細い枝を手に取った。刃渡り……というか全長20センチほどの小枝。チャームポイントで持ち手の部分に一枚の葉っぱがある。どこにでも落ちている、小枝だ。
俺はそれを肩に担ぎ、始めようぜと言った。
「あははは! まともな武具も用意出来ないんなんて、大丈夫ですの?」
「聖剣相手に小枝って、流石にね……」
「……」
まあ、反応は各々といった感じだが、勇者くんは意外な反応を示した。
「馬鹿にしているのか? それとも負けた時の保険か?」
「これが一番使いやすいんだよ。というか、武器なんてなんでもいいだろ」
それでも勇者は微妙な反応だったが、本当なら無手でもいいくらいだ。なにせ、本当に俺には武器の種類なんて関係ないんだから。
「これより、勇者レンタ・カツラギと特級冒険者リアムの決闘を行うっ! 」
審判の宣言に観客が再び揺れた。静かな揺れだ。しかし、見る限りそれぞれの顔には驚愕という言葉がぴったりの表情が貼られている。
それは、勇者チームの女の子達もだった。……いや、無表情っ子は変わらずだけど。
しかしそんなことなど関係なく、審判は決闘開始の声をあげようとしている。
「両者準備はいいか?」
勇者くんが腰を落とした。先制攻撃、それも一撃で終わらせるつもりなのだろう。
俺は相変わらず自然体でいる。
両者の距離は5メートル。しかし、それ以外に近く感じた。
審判は一拍置くと決闘の狼煙を上げた。
「決闘始めッ!」
「ハァアアアアッ!!」
勇者くんは開始とともに踏み切り俺に急接近してきた。上段に構えた聖剣を斜めに振り下ろしながら。
ものすごい身体能力だ。これが聖剣エクスカリバーに選ばれた勇者の力。
ふん、大したこともない。
ここで聖剣エクスカリバーの有名な効果をあげておこう。
地球においても有名なエクスカリバー。アーサー王が使いし聖剣だということは知っているが、それ以上には知らない。
しかしこの世界聖剣エクスカリバーの効果はわかる。あまりにも有名な、子供なら誰でも聞くものだからだ。
主な基本性能は2つ。
1つ、悪に連なるものに対する攻撃力の上昇。
2つ、使用者の身体能力の爆発的上昇。
この2つは勇者が扱えば絶対に得ることが出来る能力だ。
さらに聖剣は勇者に応じてその性能を変化させる。過去には不壊、広域攻撃の可能化などといった変化も見せたらしい。
今代な勇者カツラギが既にその域に至っているかはわからないが、破格な性能なのは間違いのだ。
そんな最強クラスの武器を持ちながら、勇者は勇者自身にも能力が与えられている。
聖鎧と呼ばれる半透明の鎧は魔力的なもので、あらゆる攻撃から身を守るという。さらには幸運の女神の祝福を受けていて、万象全てが好転するという。
そんなチートの権化である勇者を前にしても、俺は余裕であった。なぜなら努力したから。ただの努力ではない、根拠のある努力を。
試行錯誤をした。成功した。失敗した。
強い魔物とも戦った。死にかけた。けど生き延びた。
さらに修行した。出来る事を極めた。出来る事を増やした。
基礎を延々と繰り返した俺には、どんなに苦しくても帰れる原点となる強さでがある。下地がある。そしてそれを使いこなせる。
ぽっと出の勇者に、チートに、負けるほど中途半端な事はしていないッ!
「〈強化〉」
俺は2つの強化を使った。
1つは身体強化。もう一つは小枝の強化。
どちらもありふれた、誰でも使える基礎魔術だ。だけど、極地とも言えるレベルでの行使。
そして、必要最低限の行使。
「なっ!? 逸らされた!?」
小枝に聖剣の攻撃が逸らされた。ただの小枝に。そのことが、勇者くんにはショックだったようだ。
「どうした?」
「ただの小枝じゃないのか?」
「そこらに落ちてるやつだよこれは。なんならさっき拾ってきたやつ」
「〈武具強化〉も使っていない小枝が、聖剣に耐えられる訳がないだろう!」
「なら、使ってるんじゃないか? 〈強化〉の魔術。教えんけど」
「くっ」
勇者が、誰もが認識出来ないほど瞬間的な魔術の行使。認識出来なければ、ないも同然なのだ。
勇者は再び俺を斬りつけてきた。今度は連続で。その度に俺は逸らし避ける。
やがて勇者は聖剣を杖のようにつき、息をきらして立っていた。
「なぜだ、なぜお前は平然としているッ。仮に〈強化〉をしていたとして、聖剣に耐えるとなると相当な魔力を使うはずなのに」
「教えるわけないでしょうが」
しかしこのカラクリ、凄く単純なものだった。
折れない小枝に勇者はさらなる魔力を込めて斬りつけてきていた。対する俺は最小限の魔力で最高効率の術の行使。どちらがバテるかといえば、それはもちろん勇者だった。
つまり何が言いたいかというと、俺が極地に至るまで努力したのは基礎魔術というよりか、魔力操作なのだ。そしてその果ての一つが、魔力運用の効率化だった。
魔物の森でサバイバルっ。なんていう事があり、その時は魔力消費を抑える必要があった。一か月に及ぶ生活の最中、徐々に見えてきた効率化。エネルギーがあるのなら、効率的に出来ないかという考えが、それを生んだのだ。
最小最短で最大出力を叩き出す魔力運用。極めた俺の、唯一無二の技だ。
たとえチートを使われても、決して負けないもの。
「小枝、厄介だろ? 捨ててやるよ」
ぽいっと近くに投げる。勇者くんは、それに目を見開き、怒りを堪えるように震え、そして最大出力で斬りかかってきた。
間違いなく今までで最速最高威力の渾身の一撃。しかし俺には見えている。そして、さらに奥まで視ている。
「ふっ」
無手の俺は、まだクロスレンジでもないのに斬るように右手を振り抜いた。軽く何かを握るようにはしている右手だが、そこには何も見えない。見えるわけがなかった。
「ガハッ!?」
一撃。たった一撃で勇者最強の聖鎧を破り沈めたのは、〈魔力刀〉と呼ぶものだ。
名の通り魔力の刀を生成するものだが、本来なら武具に纏わせるものだ。これは〈武具強化〉の延長線に当たる技で、使えるのは俺一人。
瞬間的に発動させるそれは、高速かつ微量な魔力の刃であり、目に見えることはない。これも、認識出来ない。
とはいえ、それだけで勇者の聖鎧を破壊出来るかと言われれば、出来ない。ならなぜ破壊することが出来たのか?
単純にカツラギの聖鎧が脆かったのだ。編み方の甘い魔力の鎧。綻びさえ見つけてしまえばそこを切るだけで、自壊する。
しかし勇者くんはそれが理解出来ておらず、地に這いつくばっている。
俺は勇者に近付き告げる。
「お前は決闘と言った。降参しないのなら、その命を散らすことになるがどうする?」
「ッ! ……降参、する」
悔しげに奥歯を噛みしめながら絞り出した言葉は屈辱的らしく、カツラギは下に俯き怒りに震えている。
そして観客も誰もが信じられない光景に目を疑っていた。何をしたかもわからない。しかし現実にそれは起こっていて、終わっていた。
チート能力は凄い。俺だって欲しいと思う。けど、それだって所詮は道具で手段に過ぎないのなら、使用者に依るのは当然だ。
だから俺は身の丈に合わない力はいらない。力に見合う努力をする。
それが俺が修行の過程で得た、信念だった。
「じゃあこれ以上クレアに関わるなよ」
と俺は大きな声で注意して、
「クレアに何かしたら容赦しないから」
と勇者くんを脅しました。
お読みいただきありがとうございます!
シリーズ化規模は感想にて受けます。するかはわかりませんが。
また「かわいい俺は世界最強〜俺tueeeeではなく俺moeeeeを目指します〜」もお読みいただけら幸いです。おそらくそうそう見ない異世界ファンタジーです