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行き過ぎた科学

作者: ぽん

 僕は、「生きる」ということを考え続ける。

 何百、何千もの時が過ぎた。

 生まれては、新たな命を紡ぎ、老いてやがて死にゆく。

 生命の終わりを見届けてきた。

 そんな、死にゆく人間を見て君は、何を思う。

 死人を看取る人間。涙を流す人間。そんな人々を見て何を思う。

「僕」と彼らは違う。



 僕は、人間によってつくられた<人工生命体>。

 僕は、多くの人間の手によって作り上げられた。

 僕は誕生したその日から、たくさんのことを学んだ。

 言葉を教えてもらった。礼儀を教えてもらった。感謝してもらった。褒めてもらえた。人間達と一緒にイタズラをして怒られた。

 笑わせてくれた。ボールを使って遊んでくれた。お花を摘みに行ったりもした。一緒にお風呂に入った。プレゼントをもらった。

 そんな多くのことをこの人間達から学びたくさんの楽しい時間を過ごした。

 こんな時間がいつまでも続くものだと思っていた。

 けれど、物事にはいつか終わりが来る。



 ある日、僕を作り上げた人間の一人が目覚めることのないながいねむりについた。

 その顔は、多くのシワが刻まれ、髪も白くなっていた。

 けれど、いつもと変わらず幸せそうな顔だった。

 なぜだろう。胸のあたりが苦しい。ケガなんてしないはずなのに。胸が締め付けられるようだった。この気持ちは何だろう。僕は壊れてしまったのだろうか。

 結局、何も分からないまま月日が過ぎた。

 2日後、彼に続くように、また一人の人間が死んでいった。

 まただ。あの時のように胸が苦しい。僕はおかしいのだろうか。



 さらに、月日がたち、彼らに続くように、一人、また一人と死んでいった。

 昨夜、残り一人の人間が静かに、永遠の眠りについた。


 僕は一人になってしまった。声をかけても、返事もない。

 僕以外、誰もいない。声も音もしない。

 そんな独りぼっち研究所。



 あれから、どれだけのときが過ぎたか分からない。

 僕の生まれた研究所は、風化し、朽ち果て崩壊していった。

 研究所一帯は、サラ地となり、新たな自然が芽生え始めた。

 植物たちは、成長を繰り返し、やがて新たな命を紡ぎ、枯れてゆく。


 けれど、僕は誕生したその時と何一つ変わることのない。

 あの人間たちのように、シワが増え、髪が白くなることはない。

 植物のように、新たな命を紡ぐわけでもない。


 僕の時間だけが止まっているかのように思えてくる。

 僕の中にあり続ける、あの胸を締め付けるモヤモヤは今も分からない。


 そんなことを考えながら、今日も一人月明かりの照らす荒野で、夜空を見ながら目から零れ落ちる雫をぬぐう。


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