前編
今日も朝が来た。
この、屋根の無い家で。
僕の寝室は、この『一畳半のベンチ』だ。
鞄が枕代わりだ、寝心地は悪くない。
サラリーマンは会社へ向かう。
学生達は学校へ。
僕は・・・僕は何処へ向かえば良いんだろうか・・・。
自動販売機の釣り銭口を漁りまくる。
今日は実りが悪い・・・収穫はゼロだ。
運のいい日は700円ぐらいが入っている。
取り忘れた人は余程裕福なのだろうか。
仕方がないので、スーパーの寿司売り場で取り放題の袋のガリを数枚取り、空腹を満たす。
その後、私立図書館へ向かう。
ただ毎日を生きている、やる事が無い俺達にとっては、ここは楽園だ。
図書館に入ると、俺の足はコインロッカーが配置されている場所へと向かった。
この図書館には所謂『リターン式コインロッカー』が置いてあり、
時折、100円硬貨を取り忘れてる人がいるのだ。
俺は視線を各ロッカーの返却口へと回す。
・・・が、取り忘れ硬貨は無い。
まだ昼だから仕方が無いといえば仕方が無いのだが。
狙い目は、閉館時刻だ。
俺は図書館で本を読み、時々水を飲んだり仮眠したりして何時も通り過ごした。
そして訪れた閉館時刻・・
再びロッカーへ視線を泳がせるが、硬貨の取り忘れは無い。
残念だ。
図書館を出た俺は次の場所へと向かう事にした。
・・・向かう? 何処へ?
行き付けの古本屋で時間を潰す。
立ち読みしてもお咎め無しなのは有難い。
そして、次に俺が向かった場所は、パチンコ屋だった。
ここもまた、俺にとっては楽園なのだ。
遊技をする金などは持ち合わせていないが、
何しろここには自動販売機がある、店舗によってはリターン式ロッカーがある。
しかも、500円硬貨のタイプを配置してある店も時折あるので、
運が良い日には、500円硬貨の取り忘れを発見することもある。
そういう日は神に感謝したい気分だ。
結局、数店舗周り、発見した硬貨は合計300円だ。
スーパーへと向かい、『半額』のシールが張ってある398円の弁当を購入する。
そして、屋根の無い家へと帰宅する。
水もある、トイレもある。冷蔵庫が無いのが少し不満だが、取り立てて困ることも無い。
俺は食事を取り、暫く夜景を観賞した後に、この一畳半の寝室のベンチで眠りについた。
何度か、死のうと考えた事もあるのだが、死ぬのも面倒なので実行には移せない。
生きるのも億劫だが、それ以上に 死ぬのも億劫なんだ。