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オトモリとアムサ



古びた木目の天井。


白いガラスで作られた薄暗い電灯。


壁に飾られた草原の絵。


アムサが目を開けるとそれらが目に入った。


「ここは…ナカマルの牢屋か?」


辺りには誰もいなさそうだ。


だが牢屋にしては檻もなく警備兵もいない。


どうやら牢屋ではない。いったいどうなっているのか。


「お目覚めか?丸二日眠っていたぞ。」


その声に背後を振り替えると見知らぬ男がいた。


まるで気配を消していた。相当な手練れ。


アムサは愛剣ナグラコウを抜こうとするもどこにも見当たらない。


「残念ながら俺の前で武器は禁止だ。あんな危険なものは預からせてもらう。」


「返せ!あれは村の青曜石から作られた私の愛剣だ!貴様のような馬賊の持つもんじゃない!」


いきり立つアムサ。だが馬賊の中にこの顔はいなかった。


「俺は馬賊じゃない。あんたは森の先で袋に入って落ちていた。それを俺が拾っただけだ。」


男は盆にのった土鍋をつきだした。


「うちの弟子が作ったリゾットだ。温かいうちに食え。」


リゾット?それがどんな食べ物かはアムサにはわからなかったが、どうもこの男の言っていることはおかしい。


「貴様何者だ!馬賊が私を落とすわけあるもんか。奴等は将軍の手下だぞ!」


男は持たれた鍋とともに溜め息をつきながら床にあぐらをかく。


「姉ちゃん。あんたが誰かは知らないし、知りたくもないがこっちは好意であんたをここに連れてきたんだ。」


アムサはその男に敵意がないことを理解し床に座った。


「すまなかった。あんたも涙を狙う輩だと思っていた…」


「涙?」


「いや…いいんだ。この粥のようなもの…食べてもいいか?」


「リゾットだ。」


「なんだ?リゾットとは?」


「昔、リスが大好きな人が子供たちに〈リスおるど~〉といいながら食べたからだ。それが訛ったらしい。」


へぇ………


アムサはその味に「うまい……」と舌鼓をうった。


気が付くと全て平らげてしまった。


その様子を男はただただ眺めている。


「……先ほどは失礼しました。私はアムサ。シナノ族のものだ。」


男は「休集(キュウシュウ)のシナノ族か…また遠いところから…」と返答を返す。


「遠いと言うことは、ここはフラカマ城の近くか?」


男は首を横にふった。


「フラカマ城はここから山二つ越えたところだ。ここは神祭(カンサイ)のボラバラの町。国中の物が手に入る貿易の中継地。商いの町だ。」


話を聞いていると玄関口を開く。


小さな少年だった。


「師匠。鉄が溶けました。」


「わかったよマコロ。すぐに行く。」


男は立ち上がった。アムサは二日ばかり世話になったことを思いだし、男の袖をつかんだ。


「何か手伝えることはあるか?シナノ族は族以外の人に恩を頂いたら倍に返すのが流儀。何かさせてはくれないか…」









フラカマ城ではナカマルと軍師たちが将軍室にて話し込んでいた。


「バッテンブロウから言われたのだ。何があっても先に動くなと。奴からの指示を待てとな。」


「しかし将軍様。このままではアムサに逃げられてしまうやもしれません。おそらくまだ近くにいます。各町へ軍兵出動の許可を」


ナカマルは「ならん」と一喝した。


「バッテンブロウに国の法は通じん。もし指示を無視すればこの城を潰すと言うてきた。貴様等の軍が奴を仕留められるなら使いを出すのだが。」


その声に誰も返事ができなかった。


それもそのはず。バッテンブロウはかつて、倭人の乱で休集の兵10万人の半分をほぼ一人で潰した。


そんなバケモノに逆らえるはずない。


だがナカマルは一つの不安材料をぶら下げていた。


「アムサの存在は間違いなく他の城にもバレておる。国中から刺客が送られてくるのは間違いないだろう。」









「俺はオトモリ。こいつは弟子のマコロ。鉄細工職人なんだ。」


オトモリとマコロはアムサの前で溶けた鉄を取りだし、細い棒のようなもので色々なものを作り始めた。

その中にはアムサの見たことのないものもあった。


「これはなんだ?」


「それはマッサージチェアだ」


「?なんだそれは?」


「凝った体を解きほぐす椅子だ。昔、マサシという男がチェッと舌打ちしながら作ったことが由来だ。」


マサシチェッ………マッサージチェア…へえ…


異文化に触れたことのなかったアムサ。


村に生まれ村で育ち、初めて出た狩りでこんな結果になってしまった。


父や母は心配していないだろうか…


「あ…忘れてた。」その声はオトモリだ。アムサは悲しむ気持ちをしまいこんだ。


「あんた拾った時にトンビにつつかれたんだ。全然逃げないから籠に入れといたよ。お知り合いか?」


オトモリは倉庫から籠を持ってきた。


「セパモン!着いてきていたのか!」


セパモンは籠があることを忘れアムサへ羽ばたこうとした。


セパモンの刺さるような鳴き声が響く。


「早くこの牢屋から出せ!無礼者!とセパモンが言っている……」


「へぇ俺にはピーヒョロとしか聞こえなかったが……」







ボラバラの二つ隣の町、ラソルタ。


沢山の動物がいるこの村は神祭の放牧の中心部である。


特に珍しい動物は鼻の長いエレファントである。


先先先先代町長がその姿を見て、「えっふぁん!」とくしゃみをしたのが由来だそうだ。



そんなことはどうでもいいが馬を買うならここにかぎる。


バッテンブロウは白い仮面をはずした。


町の動物屋に行き馬を調達した。


その動物屋を出ようとした際、扉にはられた3枚並ぶ手配書。


「主人……尋ねるがこの者たちは?」


「ああ、こないだ隣町のスヒョンで強盗事件が三件起きたんだよ。その事件を起こした別々の強盗団の長たちだ。」


「この手配書をもらっても?」


「コピーしてやるよ。」


「こぴー?」


「印刷のことさ。これを作ったやつが〈媚び〉うるやつだからそれが訛ったのが由来だ。」


「へえ…」


山縛山(サンバイザ)五水梟(ゴミブクロ)あとは…」


最後の一枚……


「ほらよ、隠神(モヒカン)、これで全部だ。」









アムサは「これ以上は危険だ。町を出る」とオトモリへ告げた。


「ならば、ラソルタへ行った方がいいな。」


「どこだ?」


「色々な動物がいる。馬だって鹿だってな。休集は遠い。そこで足を買うんだ。」


アムサはオトモリからナグラコウを返して貰った。 

ラソルタまでオトモリは案内することにした。


「マコロ。店番を頼む。何かあったら真裏印西で」


「わかってますよ。マウラインサイですね。」


オトモリとアムサは家を出た。


そして町を出た。


「オトモリ、マウラインサイとは?」


「まあ……危険がおきたときの隠し扉みたいなもんだ。」


アムサはそのオトモリの佇まいからただ者ではないことをわかっていた。


「……オトモリ。あんたは盗賊なんだろう。しかもなかなか腕がたつ。」


オトモリは鼻を鳴らして笑った。 


「セパモンがしゃべったのか?」


「ああ。だがあんたは悪い奴じゃない。なぜ盗賊をしているのだ?」


セパモンは相変わらずマタハチに向かい激しく鳴きわめいていた。


「……武器が嫌いなんだ。人を殺す可能性の有るものだからな。」


その重たい雰囲気……オトモリのうちに秘める傷の心に気づく。


「ならば何故ナグラコウを返したのだ?」


「……きまぐれ。」


その時、セパモンが何かに気づき飛び立った!


森の方から異様な殺気。


その殺気の主は隠れもせず目の前にいた。


まるで岩のように大きな体躯。


両手に鎌をもち、体中に土竜の刺青が入っている……


「みつけたぞ……シナノのアムサ。貴様はナヤマ城へ連れていく!」


「貴様だれだ?」


「俺は賞金稼ぎの、体引返(タイターン)だ。大人しくしろ。」


アムサは下がっていろとオトモリにいうとナグラコウを抜き、タイターンの強大な体へ突き刺した。


だがタイターンは笑いこけた。


「そんな小刀では俺は殺せない。無駄な抵抗はよすんだ。」


振り下ろされた鎌はどこにも当たらなかったがその風圧のみでアムサの体は飛ばされた。


「くそ!ドイツもこいつもダイヤモンドの涙がそんなにいいのか!こんなもの……」


アムサはナグラコウを自分の目の前へ突きつけた。


「アムサ。辞めるんだ。」


その声はオトモリだった。


「お前もついでだ。殺してやる……」


タイターンの挑発もオトモリの耳には入らなかった。


オトモリは持ってきた風呂敷から黒い仮面を取りだし装着した。


もちろんその姿にタイターンは見覚えがある。


「きさまがマドガラスか!!あちこちの城がてめえを探してるぜ!」


タイターンは鎌を振り上げ、風とともに鎌をふりおろすがオトモリはそれを素早くよけた。


そして拳と蹴りが鎌に命中。

鎌は破壊された。


「こんな柔い鎌なら素手で充分だ。」


「あー!大事な鎌が!!」


戦意を喪失したタイターンは逃げていった。


アムサは素手のみで相手を倒すオトモリのその強さと柔らかさに驚愕する。


「ありがとう……」


「いいさ。盗賊の気まぐれだ。」


「村の言葉に"サーダナムービランバ"という言葉がある。強く優しいものはおらぬという意味だ。マタハチは強く優しい。村の言葉は覆された。」


オトモリは首を横にふった。


「その言葉は正しい……」


オトモリのどこか悲しげな目。


歩きだしたその後をアムサは少し感覚をあけて歩いた。


















































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