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万物再生の能力㉖ 「突入&迎撃」

最新話です。クライマックスに突入です。

 パチン。指が軽く鳴らされ、透明な爆発が連鎖する。衝撃が空を叩き、巻き込んだ団員達を吹き飛ばした。


「……さて」


 学外の第八階級、鈴谷祥子は前を見つめた。


「祐雅君はどこかな?」


 気絶した男達の横を通り過ぎ、呟く。学園の救出部隊に混じって、祥子はアジトのホテルに突入していた。

 目的は古崎祐雅の確保。攫われた祗蓮の保護も兼ねていた。

 周囲を見回す。照明の光が小さな誇りを浮き彫りにしていた。団員もまともには掃除をしていないらしい。今いる一階のフロアだけでもかなりの面積を誇っている。誰も手を付けなかったのだろう。


「この広さはマズイな。探すには骨が折れる」


 彼と彼女が居るのは上の階だと思われた。人間の安全な監禁にはホテルの部屋が最も都合が良い。正式に部屋が群がっているのは三階からだ。

 階段を求めて、前に進みかける。


「おっと」


 すぐ隣から接近する物体に気付いた。半歩だけ横に逸れる。視界を掠めたのは巨大なソファだ。飛翔し、床上に音を立てて転がる。


「雲縫、君か」


 フロアに備えられていた家具の移動から原因を悟った。


「……す、すまない。あんたに当てるつもりはなかったんだ。ただ、盾になりそうな物を飛ばしてて」


 《念動移動》の能力者、雲縫健人。その素性は既に知っている。常識を超えた力を持っていながら、危険的な思想は持ち合わせていない。流血で一喜一憂する《身体変質》とは大違いの、普通の少年だ。


「分かってるよ。それよりも、丁度良かった」

「ん?」

「これから上に向かう。例の男を見つけたら、相手を君に任せたい」


 雲縫和人が顔をしかめた。

 ――例の男とは、残党の指導者となっている木場京悟を示している。この男も雲縫と同じ念動の能力を持っていた。念動系統の能力者は、他人の念動を視認する事が可能である。見えない、という難点が関係なくなるのだ。制圧させるなら彼が最も適任している。


「……別にあんたでもいいだろ? 単純な実力なら、確実にあんたの方が上じゃん」

「念動の能力者は、同じ念動の使い手に任せるに限る。お世辞は嬉しいけどね」

「お世辞じゃないんだけどな……」


 面倒臭い、と言いたげに雲縫は溜息を吐いた。

 彼を作戦に呼んだのは祥子ではない。恐らく学園、風紀委員が似た考えの元に引き摺り出したのだろう。木場との戦いは必須だ。雲縫もそれを悟りきっているらしい。


「そう言えば護衛はどうした?」


 祥子が近くに誰も見当たらない事を追及する。先の通信時では、風紀委員の少女が彼を守っていた様だった。


「ああ、十臥さんならそこで頑張ってる」


 親指を立てて背後の方向を指す。一階フロアの入口。そこで木刀を持って戦う少女の後姿があった。

 迫ってくる残党を相手にしている。木刀が薄らと光っていた。能力を発動させたうえで振るっているのだろう。加えて、力を込め過ぎて太刀筋が荒れていた。苛付きが身体の動きに現れてしまっている。けれども、彼女は強い。そうそう窮地には陥りそうにない。


「はあああああぁぁ!」


 それどころかやり過ぎが心配された。アジトに戻れない団員が何人も表情を暗くしている。その顔面へと光を消した木刀が迫っていく。


「こええ……」


 雲縫は風紀委員の少女にすっかり竦んでいた。階級は小夜莉の方が下であるが、それにも関わらず萎縮する。


「ここは彼女に任せよう。君は私と共に来てくれ」

「あ、ああ」


 打撃と破壊、時折の流血から少年が目を背ける。祥子の傍へと歩み寄り、改めて間近で対峙する。


「……急いでるなら……俺の念動移動、使う?」

「頼む」


 淡々とした要求。途端に、祥子と雲縫の身体が床から浮き上がった。

 《念動移動》――木場の《念動手腕》と原理を同じとする、念動の能力である。どちらも能力者の念によって現象を起こす。違いは、意志に沿う媒介だ。木場は能力名通りに不安であるが、雲縫は単純な移動だけを発生させる。

 すなわち、《念動移動》は物体を動かす事に特化しているのだ。手腕の如き打撃や掌握は全く出来ない。


「うわ、また来た!」


 宙を滑走する二人の前に、団員らしき男性が飛び出した。


「木場様の命令だ! ここから先は通さねえ!」


 男が片手を突き出す。次の瞬間、その足元に淡く輝く半円が浮かび上がった。能力を発動させたらしい。

 系統は分からないが、光の範囲内で効力がかかるタイプだと読み取れる。


「――ぐぺっ!」


 能力の発生とほぼ同時だった。風を切る程の勢いで壁面に吸い寄せられ、男は強く激突した。奇妙な断末魔を残し、白目を剥いて倒れる。気絶したのだ。


「ふう。びびった……」


 意識を失った団員の上を通過しながら、雲縫が呟く。

 これが《念動移動》の戦い方だった。視界に入った対象を素早く移動させ、近くの固定物にぶつける。能力の有無を問わなければ大抵の人間は倒れてしまう。しかも念動なので死人は難しい。初見、無知であれば誰でも歯が立たないだろう。


「なあ、どこまで行けばいいの? 攫われた第八が居る場所とか分かるの?」

「そこは虱潰しに行くしかない。それに、もう一人探す必要がある」

「は?」


 祥子の言葉に雲縫が反応した。


「何それ? 聞いてないんだけど」


 救出部隊の目的は攫われた祗蓮の救出だ。また、それ以外の誰かが連れ去られたという話も聞いていない。


「まあ、そのもう一人は自分からここに来たからね。知らなくても当たり前だよ」

「はぁ!?」


 間の抜けた声が繰り返された。正面から視線を外した雲縫が祥子を眺める。瞳は驚愕で大きく開いていた。

 壊滅したとはいえ、天慧教団はかつて世間に名を轟かせた組織だ。残党だけでも脅威は充分に認められる。殺されてもおかしくはない。一人で飛び込んだ人物の考えには唖然とさせられるのだろう。祥子もかなり呆れてはいた。


「誰だよ、そいつ……。もしかして、あのお嬢様を助けに行ったとか?」

「その通りだ」

「うわ」


 両目の前に手を当てて、雲縫は唇を歪に曲げた。

 ややこしい事だ、と察したのだろう。救出者がもう一人増えた。その苦労を理解したからこそ、雲縫は憂鬱めいた顔を手の下から覗かせた。


「一応尋ねるけど……そいつの名前は?」


 知った所で状況は変わらない。これは彼の好奇心から来た質問だ。わざわざ答えてやる必要は無かった。


「古崎、祐雅」


 だが、祥子は少年の名前を教えた。こちらも単なる気まぐれだった。人の言う事に従わなかった罰のつもりだった。


「――古崎祐雅って……あいつ!? ギャルゲーの主人公っぽく前髪長い、女の子の身体に良く触る変質者の!?」

「ああ、その古崎祐雅だ。……君は彼を知っていたのか?」


 二階の踊り場に差し掛かった。そこでも残党と遭遇した。一秒後には階段から転げ落ちていった。悲鳴がすぐさま生まれ、祥子達の足元に突き刺さる。


「知っているも何も、俺とアイツは同じクラスだよ。最近は階級の違いで殆ど会ってないけど」


 学園は階級によって受けるカリキュラムが違ってくる。祐雅は第一で、雲縫は第八だ。数が極端に違う。同級生であっても学校生活は滅多に重ならない。


「そう言えば君は段々と階級が上がった例だったね。なら、祐雅君を知っていてもおかしくはないか」


 分け方は能力階級によって左右されるが、クラス替え自体は年次が変わる度に行われる。故に、同級生の差で著しい階級差が生じる事は充分に有り得る。


「それにアイツ目立つし」

「あの前髪じゃね……」

「というか、能力も何かすごい、アレだし」


 そこまで口にしてから、雲縫は何かに気付いた。はっと唇を強張らせ、短い沈黙と思考に耽る。


「そういう事か。アイツが、あのお嬢様と関わっているのは」

「…………」


 補足すべき言葉は無い。祥子は雲縫の推測を無視して、正面に更なる意識を集めた。


「あの目立ち方が役立てばいいんだが」

 僅かな憎たらしさを覚えつつ、三階に突入する。


「ストップ」


 敵の存在を感じ取った。念動移動に制止がかかる。

 四人の団員が祥子達の前方に立ちはだかっていた。左右に二人ずつ分かれている。待ち伏せをしていた様だ。先に行かせまいと行動で示されている。この先に祗蓮が居るとわざわざ教えているに等しい。


「降ろしてくれ」


 二人の足が地に着いた。

 祥子は隣に立つ少年に、密やかに囁く。


「少し距離を開けておいてくれ。下手をしたら巻き込むかもしれない」

「了解」


 雲縫が端の方へと身を寄せてくれた。これで祥子の能力が気兼ねなく振るわれる。時間はあまりない。手加減なしで団員を退け、祗蓮と祐雅の元へ向かうつもりだ。


「――――」


 両目に淡い光を灯す。

 能力の発動。

 双眸に映っていた世界が、一斉に祥子の意志に従っていった。




 開け方は関係なかった。

 閉ざされた扉は全て破壊してしまえば良い。そう訴えるかの如く、両開きの扉が粉砕された。粉々になった破片が吹き飛んでいく。砕けた素材の上に足が踏み下ろされた。バキ、と割れる。

 姿を現したのは、木場京悟だった。


「ここは……レストランか?」


 盛大な夜景が窓の向こうに一望できる。テーブルや椅子は片付けられていたが、その面影は未だにこびりついていた。廃れた事すら知らずに、天井は高価な照明器具が張り付いている。暗夜は室内に濃く漂い、全体に廃退した雰囲気を倍増させる。

 中央には様々な物が転がっていた。掃除の不届きとはまた違う荒れ方だ。それが木場に確信を与えた。


「おい! 居るんだろう! 出てきやがれ!」


 木場は怒鳴り、周囲を見回す。

 念動手腕はまだ出さない。この能力は発動直後の一撃が最も加速しやすかった。進路さえ悟られなければ回避は不可能だ。また、ペイントを再びぶつけられる危険も考えていた。手腕の解除と同時に消せるのだが、隙も出来る。

 手ぶらの状態で挑むのが最適、と木場は考えている。殺すべき人間を確実に殺すと決めていた。だからこそ、油断もなくなっていた。


「うっせー! びびり野郎!」


 横から声が響いた。

 積み重ねられたテーブルの傍に少年が立っている。前髪が長いく目元が隠れていたが、口元だけではっきりと不敵な笑みを浮かべていた。


「ぶっ殺してやる! クソガキ!!」

 殺意を剥き出しにし、木場が少年を睨む。


「やってみろよ……《念動手腕》……!」


 強張った声を喉から鳴らす。携帯用の警棒を手に持って、ジャキンと伸ばす。見様見真似で武器を構え、祐雅は木場を迎え撃つ――。


次回、祐雅vs木場です。頑張って書きます! ここがクライマックスです。その後に数話を書き足して、お嬢様編は完結します。それまでどうか私の駄文にご付き合いください。

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