空間隔離の能力②
久しぶりに投稿しました。ちょっと中途半端になってしまったかもしれません。
ぽつり、ぽつり。
曇った空から雨粒が零れ、地面で細かく散っていく。
降ってくる雨量は次第に多くなっていった。冷たい雫が地表を目掛け、突き刺さる様に直線を描いた。
そんな中、一人の少女がある墓石の前で立ち尽くしている。
「ごめんなさい」
気力が抜け落ちた声が漏れる。少女の吐く息は後悔の色に染まっていた。息遣いが雨音に掻き消され、頬は水で濡れきっている。
「……ごめんなさい」
少女は黒い前髪にその瞳を隠す。その先にある墓石は大きな石を土に刺しただけの簡単な代物だった。当然、鼠色に湿った表面には誰の名も刻まれていない。
「…………ごめんな……さい」
他には誰もいない裏庭。豪雨で荒れる風景は留まるところを知らず、少女を飲み込んでいった。
事実、親戚が迎えに来るまで少女は動こうとしなかった。大人の手が屋根下まで引きずった小さな体はひと肌の温もりを極限まで失っていたのだ。
叱責と慰めが黒髪の少女の耳朶を打つ。
けれども、紫色に変色した唇が紡ぐ言葉に変化はなかった。
「ごめんなさい」
これは懺悔の記憶。緋色の袴と白い衣もまだ小さかった頃の少女が抱える記憶だ。
それか数年後。とある閉鎖空間にて。
右手を前に伸ばし、少女は呟いた。
「ーー隔てーー」
彼女の言葉に呼応して、正面に青く透き通った円状の壁が出現する。蜃気楼のように揺らめく内部を通し、向こう側にある景色は透けて見えていた。出現した物体は輪郭までもが朧気だった。陽炎を連想させる外枠で青い盾は成り立っている。
事実、少女の目前には何も現れていないのだ。
『はーい、そこまで』
数秒間の経過を得て、少女の背後に終了の合図が降りかかる。
『もうお昼にしていいわよ』
黒い長髪が舞い上がり、純白の肌を持つ少女が後ろを顧みた。
「分かりましたー」
壁が虚空から消失される。
少女が能力の行使を止めたのだ。額に一粒の汗を浮かべ、背後のガラスで覆われたスペースに焦点を当てる。その奥に立っていたのは二十代後半と思しき女性だった。
「あれ?」
首を傾げ、目を擦る。
その女性ーー少女の実験を担当している教員の隣には一人の少年が並んでいた。
『よっ』
「昨日の……」
飄々とした雰囲気が主だった男子生徒の手には純白のタオルが握られていた。彼はその布を左右に振り、少女を手招きする。
黒髪の少女は昨日神社を訪れた少年だと確信した。能力の使用で体力を消耗し、汗をかいていたのも事実だ。
学園の女子生徒用のスカートを翻し、彼女は呼び出しに応じることにした。
--少年と再開したのは、防護壁を超えて階段を上がりきった後の事だった。
「お疲れ様」
タオルが投げられる。少女は不規則な軌道で落ちてくる布を慌てて両手で掴んだ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
黒髪の少女は周囲を見回した。少年の他に実験結果を収集していた筈の女性が消えている。入手した情報をまとめる為に巨大な設備と対面しているのが常だった。今日は何だか違っている。
長めの前髪を垂らした少年が、担任の代理として残っている様だった。
「腹、減ってないか? 一緒に食堂にでも行こうぜ」
「あ~。すいません」
少女は頭を下げた。彼に背を向け、四角い室内の隅に置いた鞄へと歩み寄った。封を開け、中から拳が二、三個程の大きさである包みが取り出される。青い花柄で飾られており、水平の姿勢が保たれていた。
「弁当か?」
「はい。いつも、これなんです」
「じゃあ、俺も適当にパンとか買って一緒していいかな?」
はにかんだ笑みが少女の瞳に映った。私的な生活に少々踏み込み過ぎている気もするが、どうにも嫌いになれない少年だった。深い下心はあまり籠ってないのかもしれない。
「いいですよ。今日は良い天気ですから、一緒にお外で食べましょう」
「……よしっ」
瞬間的に少年が握り拳を持ち上げた。
「え?」
「あ、いや、何でもないです。--ちょっと、待っててくれ」
その時に少女は考えもしなかった。後に、彼がどんな思いを秘め、どんな能力を持って己と出会っていたのか。
少年の真意を知るのは、まだ少し先の事となる。
次がいつになるか分かりませんが、頑張ります。




