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精神支配の能力⑭ 「鬼ごっこ(後編)」

お待たせしました。ようやく更新します。

 祐雅は唯一の機会が訪れるのを淡々と狙っていた。この間にも中途半端な四十分は削られていく。だが、祐雅の表情に焦りが浮かぶ事はなかった。

 何故なら、考え出した作戦を最後にするのが、最初の策だったからだ。


(もっと時間を経ってからにしないと……上手くいかない)


 腰を軽く落とし、いつでも駆け出せる体勢になる。


「ああ……、どうやって捕まえようか」


 周囲を見回す、ふりをする。

 幸代の虚を突かなければ作戦は成功しない。事態が膠着するのは望ましくない、と彼女は言っていた。祐雅が時間稼ぎをしていれば、あちらから近付いて来る筈だった。


「もしかして時間を稼いでる? 下手に無表情が現れているから、すぐに分かってしまうわよ」


 四、五分が過ぎた頃に幸代は話しかけた。祐雅の内情は簡単に伝わっている。経験を積んでいる売人には通用しなかった。


「そんな事をしちゃうんだったら、私がサービスしてあげるわ」


 祐雅の背面であからさまな足音が鳴った。降りかかって来る声も段々と明瞭になってくる。近くに居る。そう印象付けられている様だった。


「ほーら、鬼さんこちら~」「ほーら、鬼さんこちら~」


 更に祐雅の視界に二人の雪森幸代が現れた。白い煙の塊から形成されたモノであり、両足が幽霊の如く揺らめいている。

 こちらは幻影だ。足音を作り出せない。祐雅にそう訴えて来ている。


「…………」


 そんな複数の同一人物達を前にして、祐雅が前に進む。


「は?」「は?」「は?」


 明確に本体ではない二人の間を素通りした。周りに居る彼女等が、祐雅の行動に唖然とした疑問を発する。それも当然だった。逃げている幸代を掴める鬼の祐雅が、役目を果たさずに自分から逃げていた。

 とことことこ、と情けない足音で遠ざかっていく。


「…………何で鬼が逃げているのかしら? これは鬼ごっこなのよ?」


 幸代の問いかけに、祐雅は飄々と答えた。

「秘密」

 無表情を崩して唇を吊り上げる。逆に、それを見た幸代の顔から一切の表情が抜け落ちていった。祐雅自身は単なる誤魔化しのつもりだった。だが、思わぬ幸運を運んでくれた。


(せいぜい俺の裏をかいてろ。なんも無いけどな。……まあ、俺の能力を知らな

いから妄想は終わらないだろうけど……)


 先程の能力発動という虚言が効いている。能力には様々な効果・形式があり、意外な条件の元で発揮する事も多々ある。幸代は祐雅のそうした可能性を考慮しているのだ。


「ボウヤ、そんなんじゃいつまで経っても私を捕まえられないわよ? それとも、関祢裕美だけは諦めちゃうの? ……精神系だから無理って」


 自分を誘発させる一言を、祐雅は冷静に聞き流した。幸代は「だけ」と口走っている。今回と同じような事例があったか探っているのだ。そこを突けば、祐雅がどんな能力を持って行動していたのか露わになる。祐雅の能力がどんな結果をもたらしたのか知れば、自ずとどんな効果なのか推測出来る。


(悪いけど……そんな化け物じみた考察には付き合えないな)


 沈黙に踏み切りつつ、祐雅は賞賛と畏怖を抱いた。受け手だから何とか幸代の腹の底を理解出来る。しかし、それより先は祐雅がついていけない領域だ。

 振り向かずに、祐雅が幸代の言葉を一蹴する。


「あんたは必ず捕まえる」

 有無を言わさない断言だった。

「…………そう」


 幸代が瞳を細める。これ以上の聴収は無理だと悟ったのだろうか、祐雅に尋ねて来なくなった。一定の距離を保ちながら、祐雅の周囲を歩き回っていく。

 無言の拮抗。

 コンテナに幸代の足音が積もっていった。祐雅は彼女の視線に晒され、ただ立ち尽くしている。何も起こらない。だが、その沈黙に比例して空気が緊張を帯びた。どちらも相手の裏側を探り合い、次の一手を考えていた。時間をひたすらに浪費していった。最後の対決に向けて、最善の用意が整えられていた。

 長く、短い時を終える。

 抑揚のない祥子の声が二人の間に響き渡った。


「残りは、後十分! 後十分だっ!」


 それが最後の火ぶたを切って落とした。

 幸代と祐雅が、同時に動き始める。

お互いの足が地面を叩き、高低の異なる足音が交わった。初めに祐雅が素早く駆け出していく。汗を含んだ制服に風を浴びせながら、本体であろう幸代を狙う。


「――――っ」


 祐雅はきつく歯を食いしばる。捕まえようとしていた彼女が、又もや容器の方へと逃げ出していったのだ。勿論、その後は必死で追う。けれども、これまで重ねてきた失敗のパターンに余りにも似ていた。

 逃走する幸代が入り込んだのは、天井付近の明かりが全く届かない場所だった。左右を小さなコンテナで塞がれている。進めば進む程に息苦しくなる。目の前さえも真っ暗な闇で見えなくなっていく。


(まずい!)


 同じ轍は踏まない。視野の隅で見つけた隙間に何とか入り込み、祐雅は暗い通路から脱出した。


「……さすがに、二度も引っかかったりはしないわね」

「当たり前だ!」


 潜り抜けた先で、雪森幸代は立っていた。威勢よく答える祐雅の反応も織り込み済みだった様だ。対して動じている気配が無い。なめられているのか、対等に見られているのか。祐雅は分別を付けるのに迷った。


「うふふっ。考えてる暇はないわよ?」

 幸代の言う通りだった。


 残りの時間は十分を切っている。急がなければ、幸代を捕まえられずに祐雅の負けとなってしまう。それではいけない。

 だが、目の前の彼女に触れられるかどうかは別だ。


「……分かって……るんだよ!」


 とにかく突撃する勢いで祐雅は走った。腕を幸代へと伸ばす。

「――――」

 怪しい笑みを作っていた唇が中途半端に開いた。そこから音にならない息が吐かれる。

 彼女の輪郭が、揺れる。幻影が消失する合図だ。口から出した空気の分だけ体積を減っていったかの様である。


「ちっ。……こっちか!?」


 束の間で目にした光景から、逃げやすい方角を判断する。感覚的に右側は障害物が多かった。隠れるならこっちが最適なのだろう。

 祐雅が急角度で右折する。


(くそ、またか)


 選んだ方向とは逆側に、雪森幸代の姿があった。これが捕まえるべき彼女なのかは分からない。時間が惜しい。だからこそ浅はかな案を切り捨て、祐雅は自分の信じた道を突き進んでいった。

 今、どれぐらいの時間が残っているのか。そんな疑問が徐々に追い詰めて来る。時間切れはすなわち祐雅の負けだ。狭めたのも自分だが、冷静を一貫できる程に祐雅は玄人ではなかった。


「――いたっ」


 祐雅の直感は合っていた。開けた場所で幸代は歩いていた。しかも、三人で。


「うふふ」「うふふふ」「うふふふふっ」


 笑い声が不気味に調律する。


「だから止めろって言ってんだろ!」


 幸代達が醸し出す雰囲気を大声で払拭して、祐雅は駆ける。

固まって逃げている三人にはすぐに追いつく。問題は、誰を捕まえるか、であった。両腕を駆使して最低二人には触れられる。その内のどちらかが本人であれば祐雅が捕まえた事になる。ここまであらゆる囮に幻影のみを使ってきたのだ。裏をかいて本体の幸代自身が紛れている場合も充分に考えられた。

 限りが無い思考――収束しない可能性。


(てか、考えても無駄だな、これ…………)


 結局、祐雅は自分が感じた通りに動いた。

「どぉりゃぁぁああああ!」


 枯れる程に声を絞り出す。

 両腕を精一杯広げ、三人の身体を横切る様に突進した。風が祐雅を叩き付ける。負けられない。足のふり幅を増やし、祐雅はより加速していった。


「…………っ」


 幸代も逃げる。だん、と強い反動を受けて床から飛び上がる。退いたのは左端に居た女性だった。祐雅の手から逃れては、閉ざされた口で薄い笑みを模る。

 祐雅の腕が空振りした。立ち止っていた二人はまとめて白い煙に変化してしまい、少しも捕まえられていない。直感で判断し、最後には幸代に逃げられてしまった。明らかに失敗だった。舌打ちが思わず鳴った。

 だが、それだけでは終わらない。


「うお……っ?」


 速度を上げ過ぎてしまい、祐雅は止まれなくなっていた。上半身を傾けながら突き当たった容器の面にぶつかる。騒音と激痛が骨にまで浸透する。衝撃の瞬間、目はつぶっていた。暗くなった視界の中心で感覚が輝いて弾けた。――痛い、と神経が絶叫する。


「い……て……っ!」


 両手で身体を支えながら、悶絶した。

 だが、足を止めている暇を幸代に見せる訳にはいかない。祐雅はすかさず彼女の後を目で追った。目に映る範囲を手近から遠くへと伸ばす。灰色のパーカーは闇の中心で揺蕩っていた。発見したのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 荒い呼吸を反芻させ、祐雅は幸代の軌跡を辿る。

 これまでの速度は出ていなかった。足がもう殆ど動かせない。その場で倒れ込みたい程に疲れていた。意識さえ朦朧としている。本体と幻影の区別を付けろと言われても、祐雅の目にはどんな姿もぼやけて映っていた


「やべ…………もう、…………無理……」


 祐雅はコンテナの中央に舞い戻り、その歩みを止めた。吐血するかの様な勢いで呼吸をしては、顔面に浮かばせた汗を拭う。ぽつん、と零れた雫が金属の床を濡らす。


「…………もう終わりにする?」


 幸代が立方体の障害物に隠れながら、祐雅へ問い掛けた。

「…………っ」


 本人の口から出たのは荒い吐息だけだった。


「やっぱり能力の階級は誤魔化せないようね? これで精神系の恐ろしさを嫌というほど思い知ったでしょ? そして、これがボウヤの限界でもあるのよ」

「……うる……せえ……」


 祐雅が鋭い口調で逆らう。だが、疲労によって間延びされた声は逆に笑い声を引き出してしまった。


「うふふふ……。舌だけお盛んねぇ」

 捉えどころの無い音声が反響する。閉ざされた室内はただでさえ音が響きやすい。移動している、といった他の要素を得なければ場所を探せなかった。


(あー。本気で疲れた…………)


 鬼ごっこの最中。祐雅は薄らと考えた。

(そろそろ…………いいよな? 俺、頑張ったよな?)


 自分自身へと許可を求める。当然、思った本人は容認に傾いた。これからの行動を一貫する、と心に決める。誰に何と言われようが、やる。それが祐雅なりに積み上げた努力の成果なのだから。祐雅は胸中ではっきりと思いを文章にしていった。


 ――幸代を捕まえる、最後の策を行う。


 残り時間はわずか。体力もゼロに等しい。

 だからこそ、その作戦は音も無く合図を鳴らした。祐雅は立っていた場所で背を曲げる。両膝に手を着いて、安らぐ。


「はぁ……はぁ……」


 予定通りであり、天然ではない呼吸を漏らす。疲れているのは事実だった。だが、それはあくまで意図的に仕組んでいた。

幸代との鬼ごっこにおいて、幻影かどうかも分からない彼女を追うのは効率が悪い。更に彼女は勝負の膠着を嫌い、自分からちょっかいを出す事が多かった。つまり、普段の遊戯とは真逆に、待ち続ければ良かったのだ。


「頑張り過ぎよ、ボウヤ」


 空回りに見える祐雅と、幸代のからかう様な言葉の距離が近くなった。汗で床を濡らす位になった祐雅へ接近しているのだ。これが飄々としたままだったら、警戒心を抱いて傍へと寄らなかっただろう。


(…………来い)


 狙い通りの展開に思わず笑みが浮かびそうになった。何とか我慢する。まだ第一段階と突破しただけだ。先の動きまで合っていなければ、到底は幸代を捕まえられない。そう思うと腹部が少しだけ痛んだ。走り過ぎと、緊張のし過ぎだった。


「残り、五分!」


 祥子が大声で時間を告げる。祐雅と幸代はそれでも目立った動きをしなかった。逃げる筈の売人はじりじりと響く声色を近づけている。だが、追いかける側の少年はずっと立ち尽くしていた。


「ほら、残り時間はもう少ないわよ。諦めてもいいんじゃないの? まあ、そうなったら交渉は不成立になるけど」

 幸代の指摘は祐雅の胸を痛めつけた。


「…………」


 歯を食いしばって耐える。ここであらゆる感情を暴露させてはいけない。元々、叫ぶ気力さえも不足していた。大声を出せるのは、せいぜい一回限りだった。

 黙り切った祐雅の前に、容赦のない誘惑が出現する。


「ほらほら、私がこんなに沢山いるのよ? 捕まえなくていいの?」


 四人の雪森幸代が輪を描く様に周回していた。誰もが抜き足差し足で、靴音を一切鳴らしていない。幻影がどれか、などと見抜くのは不可能だ。

 祐雅は目を凝らした。彼女達の一挙一動に神経を研ぎ澄ませた。素人なりの目線で、肉体の軋みを探ろうとした。それら全てが変貌した瞬間。祐雅の手で幸代を捕まえられる最大のチャンスとなる。

 その機会を窺いながら、祐雅は閉じた口の奥で思った。


(まだ、駄目だ。遠すぎる)


 彼女達との距離を目測し、悟る。もっと近づけ! と、祐雅が胸中で念じる。


「…………ホント、性格悪いな」


 手探りの死球を放り投げる。挑発は望ましくなかったが、今の祐雅はそれ以外の言葉が思いつかなかった。


「うふふふ。こんなの関祢裕美に比べたらまだまだじゃない?」

「……何だと?」

「あの子は真正よ。人を支配する事に長けているわ。今はまだ人情に揺らいでいるかもしれないけど、きっといつか、人を駒にする化け物へと成り上がるわよ」

「成り上がるって言うか、それ?」


 ――化け物。


 そう口にした女性を睨み付け、祐雅は若干だけ語気を荒くした。


「俺が知る関祢裕美は……人見知りで、甘えたがりで、かなりの泣き虫で…………俺の可愛い後輩兼妹キャラだ。どんな能力を持っていようが、化け物なんて呼ばせない」


 論点に挙がっている本人は、そうした他人から評価を既に受け入れているのだろう。祐雅が反論する必要もなく、平然としているかもしれない。食いついた祐雅自身も、内面では柄じゃないと感じていた。ただでさえ擦り減った神経を使うな、と理性が警告していた。


「確かに計算高い一面もある。……だけど、な」


 祐雅は止まらなかった。渇いた喉を懸命に動かし、裕美の為に言葉を吐く。


「それで笑顔を見せてくれるんだったら、文句ないだろ? 要は単純なんだよ。相手を笑顔にする為に、自分も笑顔になる。…………裕美がやっているのは、ただそれだけの事だ」


 少女の微笑みが脳裏に浮かぶ。正しい意味での微笑を祐雅はまだ見ていない。きっと、裕美自身も久しく笑っていない。そんな少女の呪縛を解きたかった。能力上の戒めではなく、能力を持った娘としての制限を解除したかった。

 だからこそ、祐雅は笑う。不敵に、大胆に。


「……そう。ボウヤはそんな風に思っているのね」


 幸代が小声で呟き、全体での移動に変化を生じさせた。

順々と回っていた四人が立ち止まり、やがて真っ直ぐに近づいて来る。四方向から等間隔で距離を詰めていた。正面に一人、左右に一人、背後に一人。まだ足音は聞こえていない。祐雅の両耳は心臓の鼓動だけで満杯だった。時折、唾を飲み込む音が上乗せされている。


(どれ……だ?)


 慎重に考えを張り巡らせ、祐雅は解答に手を伸ばす。


(左右は両腕で捕まえられるから、駄目だ。正面の奴……は俺が確実に追いつく。最も捕まえにくい後ろに居る奴が狙い目……!)


 現在位置はコンテナの中心。前後左右の何処もが広く、逃げる方角に不自由はない。ここで掴む相手を間違えれば、実際の幸代は難なく逃げ切れるだろう。それで制限時間は切れてしまう。


「さあ、最後の選択よ。ここで本当の私を当てられなかったら、あの子の笑顔も手に入れられないわ」


 祐雅と幸代の空間が更に縮まる。四人の女性達が一斉に片腕を伸ばしたのだ。突っ立っているだけの状態でも簡単に捕まえられる。だが、その容易さは余計な圧迫感までも与えてきた。捕まえる対象を謝れば、完全に終わり。物理的にではなく、精神的な重りが祐雅の心に積まれてしまった。


「――そんな訳には、いかない」


 無意識に言葉を漏らす。


「俺は……俺は!」


 たった一つの気力を祐雅は費やした。思いを声に変えて、コンテナ内部に全力で響かせていく。


「裕美に『お兄ちゃん』って呼ばせながら朝を起こしてもらう、テンプレ展開をするんだよ! 邪魔を、するなぁぁぁああああ!!」


「うーん。不純だなぁ」


 祥子の冷淡なツッコミを皮切りに、二人の駆け引きは躍動した。

 祐雅が幸代を捕まえようと、両腕を突き出す。

 ――正面へ。

 間もなくして、前方と左右の人影が白い煙へと転じた。視界を埋める様に、真っ白な靄が立ち込めていく。

 黙した限りでは三体がその輪郭を崩していた。背後に立っている幸代が恐らく捕まえるべき相手なのだろう。予想が的中した。祐雅はバネの如く、背面を振り返る動作に移る。


 がたんっ。


 音がした。正面の、先。小さなコンテナで塗り付けられた影の奥にて人影が蠢いている。


(…………そっち……か!)


 容姿を認識する以前に祐雅は存在を把握した。あそこに居るのは雪森幸代だ。誘導と長髪に惑わされる自分を嘲笑う、性悪な売人。幻影が何体まで作り出せるかは公言せず、最後になって四体目の自分を生み出せると明かした彼女。そんな女性が裏をかいて鬼から逃げ切ろうとしていた。

 祐雅が意図的に身体を引っ張る。背中の方へと傾けていた重心を元に戻す。前方へと駆け抜ける体勢を整い直す。

 出ていた片足に力を入れた。ぐっ、と祐雅のスニーカーに皺が寄る。


「――――――」


 それとは別に、祐雅が後頭部付近に漂っていた腕を掴む。


 確かに触れていた。

 物音を出していない、彼女の腕に。


「え?」


 幸代が呆然とする。疑問か驚愕を吐き出そうとしたが、遠くで見守っていた祥子の声によって掻き消された。


「タイムアップ! それまでだっ!」


 ビーッ。

 携帯端末に設定されていたアラームが鳴り響く。鬼が相手の腕を掴んだ状態のまま、二人とも固まった。微動だにせず、沈黙だけを流す。


「…………捕まえた、ぞ」


 硬直を最初に破ったのは祐雅だった。背面の腕を振り向かずに捕まえつつ、ぽつりと漏らす。走り出す気配は今になって無くなっていた。


「何が……精神系の恐ろしさを教えてやる、だ」


 わなわなと祐雅が震えていく。単純な鬼ごっこに翻弄された。そこに隠されていた仕組みを知った事により、怒りを募らせた。残りの体力は頭に入れず、思いの丈を室内に反響させる。



「――あんた、精神系の能力者じゃないだろうが!」



引っ越しなどがあり、中々ネットが出来ませんでした。遅くなって申し訳ありません。

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