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精神支配の能力⑬ 「鬼ごっこ(中編)」

こっちばっかり書いている最近です。「E・D」があんまり進みません。

 残り、一時間。

 許された刻限は半分も過ぎてしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ…………」


 コンテナの中央で、祐雅は息を切らしていた。汗を大量に浮かべている。顔も赤く、疲れているのは一目瞭然だった。


「どこだ……?」


 汗を垂らしつつも、祐雅が周辺に目を光らせる。自分自身の荒い呼吸をうるさいと思ってしまった。今は歩いていないので、体力は少しずつ回復している。一分もあれば息も落ち着く筈だった。


(……畜生。……全く捕まえられない)


 この特殊な鬼ごっこはずっと幸代に微笑んでいた。鬼の魔手は触れる事さえ出来なかったのだ。しかも、相手は祐雅よりも動きを抑えている。不定期に置かれた立方体を迂回するのは思ったより体力を浪費させた。これでは再開しても結果は変わらない。対抗策を練る必要があった。


「どうしたのー、ボウヤ? もう疲れたって言うのー?」

 ――鬼ごっこが始まってからしばらくして、祐雅はある疑問を芽生えさせていた。走りながらでは考えが纏まり辛かったが、ようやく整理を終えた。

「ちょっと、男の子でしょ? この程度で諦めないでよ」

 ――どれだけ幻影を増やそうが、本体は必ず存在するのだ。それを自分の手で捕まえなければ勝利にはならない。祐雅は拳を強く握りしめた。自分の記憶と直感、推理を連動させていく。酸素を求める脳の奥で、幸代の能力を破る術が産声を上げた。

(恐らくそれが正解だろうが……問題はある)

「さっきまでの威勢を私にもう一度見せて? ボウヤの頑張る姿が好きなのに。これじゃがっかりだわ」

「……あー! うるせえ!」


 ――余りにもかしましい三人の女性に祐雅は怒る。あの中に本体が潜んでいるかは、残念ながら分からない。全員が一部分だけを鬼の視界に映しているのだ。誰も移動しておらず、判断に必須な情報が足りなかった。

 気分はそろそろ好調に達する。体力は取り戻した。弱点も不透明ながら見つけられた。敷地の構造も六割は頭に入って来た。

 準備は着々と整っている。幸代に挑発されたのはある意味幸運だった。休憩中の今では表情を偽れない。故に、本心から叫んだ事で心境を知られずに済んだ。


(この野郎……! 油断している隙に、その足元をすくってやる)


 祐雅が大きな声で怒鳴る。


「そんなに言うんだったら、あんたの方から近付いて来い!」


 心中と発言は微妙に合っていなかった。外面では相手の情を求め、内面では推測を確定する為の注意を払う。序盤の情けはともかく、これは祐雅から言い出したのだ。応じてくれる可能性は低い、と口にした本人は恐れていた。


(無茶だと分かってるけど、こうでもしなきゃ作戦は立てられない)


 攻略法を定めるに当たり、祐雅はある事実を確認したかったのだ。たった一つの事柄。それさえ掴めれば、勝機を掴めると踏んでいる。


「…………仕方、ないわねえ」

 ――来た、と祐雅の心臓が大きく脈動する。

「第一階級のボウヤに鬼ごっこは難しかったかしら? 子供はお母さんと戯れているのがお似合いかもね。うふふふ」

「…………あんたとの赤ちゃんプレイなら、歓迎するんだけどな。ちょっとだけ」

「舌だけは達者ねえ」


 数人の雪森幸代が祐雅へと近づいて来た。慎重な足取りで、鬼を囲む様に三方向から接近している。近寄ろうとする靴が丁寧に地面と触れ合っていた。聞き取ろうとしても足音が掴めない程だ。


「うふふ」

「うふふふふ」

「うふふふふふふ」

「怖い! 同じ顔でそれは恐い! 止めてくれえええぇぇぇ!」


 笑い声が不気味に重なる。等しい三つの動きで、自分の空間を段々と侵食していた。夢に出てきそうな光景である。


(さて、この中に本体は居るのか……っ?)

 切羽詰まった頭で祐雅は情報を読み解いていく。これまでに知り得た事実を一本の線で結び、自分なりの解答へと辿り着く。


(…………本体は)


 引き攣った表情を浮かべつつ、内心で幸代達の動作に注意した。


(――いない。……また別な所に隠れているっ!)


 祐雅は気を配る範囲を更に広めた。

 中央の周辺に散らばったコンテナ。そこに転がった音を耳で探る。口から出入りする吐息はか細くしていった。恐怖と緊張で固まっているのだ。祐雅の裏に隠された企みはすぐにばれそうになかった。

 輪を作る幸代達の向こう側。祐雅は小さなそれを感知した。


「へ、へへへっ」

「……あら、急に笑い出してどうしたの? もしかしてもう諦めちゃった?」

 斜め後ろに位置する幸代の問いに、祐雅は首を振った。

「違うな。ここまで近づけば、俺の能力が確実に発動する。それがおかくして、気分が良くて、笑えたんだ」

「え?」


 視界に映った二人の足が止まる。背面の幻影も同様に驚いているのだろう。彼女達の動揺により、縮めていたそれぞれの隙間が確保された。人が通り抜けるには十分な空間だった。

 この機会を、祐雅は見逃せない。


「――食らえ! 俺の!」


 だんっ、と祐雅が片足で衝撃を起こす。反動で透き通った漆黒の空気が震える。

 祐雅は曲がっていた姿勢を一気に正した。力の無かった右手をかざして、前方の幸代へと身を乗り出す。汗水で溜まった湿気が顔面を掠めた。湿っていて暑苦しかった。だが、爆発的な勢いに乗っているのであまり気にならない。


「――ちぃ!」

 最も近かった幸代が焦りを見せる。

(騙されるな! 演技だ!)

 胸中で自分に言い聞かせる。本当の彼女は強硬策に出た祐雅を影で笑っている筈だ。円を作って閉じ込めた三人がどれも幻影と言う説を変えはしない。

 足を滑走させ、逃げようとする前方の幸代が叫ぶ。


「なーんて、驚くとでも」


 からかう様な口調に戻るのも、想定の範囲内だった。行動の読み合いなら祐雅にも経験がある。勝った、という確信が言葉になって現れる。


「こっちもうっそぴょーん!」


 そう吐き捨て、祐雅は脚力の向きを真横へとずらした。正面を直角に移す。幸代達の合間はまだ開いていた。

 通れる。回復してきた体力を全て疾走へと注ぎ込む。


「……っしゃ!」


 幻影達の合間を潜り抜けた。祐雅は思わず喜びの声を発する。

 呆気に取られた彼女等をより突き放している。横を通過する時、視野に収めた二人の身体が煙の如く揺らいでいた。それが幻影である何よりの証拠。心置きなく、祐雅は目的地へと駆けていった。


(姿だけでなく声も真似ているけど、本体との違いはやっぱりあった)


 祐雅が見つけたのは、足音の相違点。


 幻影と思しき雪森幸代は歩く際に音を立てていないのだ。能力の限界なのか。言動を再生するだけで、伴うべきだった音響までは欠けている。

棒立ちではない幻を作り出す幸代の実力は凄まじい。しかし、弱点に気付いてしまえば後は簡単だ。

 祐雅は幻影の戯言に付き合い、裏で足音を探す。自分の能力が発動するとはったりをかける。最終的に、離れた場所で本体の油断と動転を誘う。結果は成功。走る祐雅の目と鼻の先に雪森幸代は存在していた。


「あら? 意外と考えているわね。びっくり」


 本体と思しき彼女の口ぶりには余裕があった。一方で身を低くして貨物容器が並ぶ奥へと非難していく。両足が忙しなく働いていた。足音も軽やかに鳴らしている。


 ――こいつが本体だ。


 祐雅は思考とも呼べない心の片隅で呟く。


「んの…………っ!」

 掴めさえすれば終わり。そのルールを思い返し、祐雅はひたすらに幸代を追った。

 やはり単純な脚力ではこちらが優っている。彼女との距離は順調に縮まっていった。障害物の在処も把握している。祐雅の手が幸代へと届くのも時間の問題だった。


「うふふふ」


 追い詰めていた。少なくとも祐雅は流れが自分に傾いたと感じていた。


「うふふふふふふっ」


 幸代が道化の如く笑う。その心情を祐雅が理解する事は不可能だった。自分を後追いしたはったりでもない。顔付きは純粋で、余裕を秘めている。胸騒ぎを覚えさせられる。ただ逃げているだけの女性に怯えるのは予想外だ。


(大丈夫、だ。この先は通路が極端に狭くなる。そこならスピードが落ちて、捕まえられるんだ!)


 己を奮起させ、祐雅は走り続ける。幸代との隔たりは微々に削っていき、道行も立方体の容器によって窮屈になっていった。

 追いかけっこの最中、幸代が大きく曲がる。手前の容器と奥側の容器からそちらは行き止まりだと察せられた。即座に乗り越えるのは無理だ。通行止めになっていなくても、スピードは絶対に減る。鬼が相手を捕まえるには絶好のタイミングだった。


(――捕まえ)


 物陰に飲み込まれた姿を求め、祐雅も角を回り込んだ。


(た………………?)


 絶句する。

 端と端がぶつかりあい、進める道は完全に塞がれていた。そこまでの光景は良かった。だが、寸前に侵入した雪森幸代が何処にも見当たらないのだ。


「おいおい、嘘、だろ……?」


 祐雅は唖然としていた。全力疾走の代償に胸を締め付けられる。過度の息苦しさに眩暈を起こしそうだった。平衡感覚がひっくり返る様な、絶望。状況の反転は底の無い不安へと祐雅を手招いている。


(読みを外したのか? それとも、何処かに隠し通路でも)


 がん、がん、と片足で周辺の容器を蹴る。あの短い一瞬の出来事だ。近くまで追っていた祐雅なら異変には気付いた。つまり、ここへ入り込んだ幸代は刹那の瞬間に蒸発してしまったのだ。

 執拗に鉄製の立方体を調べる祐雅は、ぼそりと言った。


「本当に誘導されていたのは俺なのか? あの女なら行き止まりが何処かぐらい把握していてもおかしくない。足音だって、俺を混乱させる為に……」


 きりの無い想像が心を燻る。そもそも幸代が幻影を作り出せる最大数も読み込んでいなかった。足音の疑念も合わせたら、考えてきた対策が完全に瓦解する。そうなれば、本当に勝ち目は見えなくなってしまう。

 ガンッ! 祐雅は全力で容器を蹴りつけた。


「……くそっ!」


 膝に負担がかかり、鈍い痺れが差し込む。違和感が辛うじて祐雅の正気を引き止めた。まだ頭は回る。諦めたくはない。家族との仲直りを求める裕美を、何とかして手助けしたいのだ。祐雅は振り上げていた片足を根付かせ、背後を振り返る。


「あらあら。荒れているわね」

「……よくもまあ、何食わぬ顔で立っていられるな」


 後ろには再び雪森幸代が立っていた。息も切らしていない、冷静な表情で祐雅を見つめている。先程の追いかけっこもやはり想定の内だったのだろうか。

容器を叩いた際の騒音で足音を拾い損ねた。彼女が本体かどうかは分からない。だが、祐雅は小さな歩幅で近づき始める。


「気力はまだ残っているみたいね。ボウヤが根性のある子で嬉しいわ」

「あと三十分は残ってる。諦めるのは早すぎんだろ」

「そうかしら? 心が折れる時はあっさりと折れるものよ。その証に……」

 幸代が自分の胸元を人差し指で小突いた。

「精神系の能力者は誰からも信頼されにくいのよ。それは精神系の能力が容赦なく相手の心を壊すから。……例え血で結ばれた親子であってもね」

「………………」


 最初、祐雅はどちらを示されているか分からなかった。精神系の能力を背負った娘の不安なのか、精神系の能力を持つ娘を育てた両親の疑念なのか。恐らく両方を言っているのだろう。だから脆いと断言している。

 彼女が告げた事は恐らく事実だ。悔しいながらも、認める。


「でも」


 呼吸を乱している少年が、汗を拭いながら逆らう。

「俺はそれだけで終わらせたくない。俺だったら、それだけで終わりたくない。……だから続けようぜ、鬼ごっこを」

「私は構わないけど……勝てると思っているの?」

「ああ、もちろん」


 言い切ると同時に祐雅は駆け出した。幸代の身体へと手を突き出す。短距離での加速ならば祐雅に分があった。捕まえるべき相手は目前にて留まっており、ぴんと張った腕が間もなく触れそうになっていた。

 ――生じた風圧が、幸代の輪郭を揺らがせる。これも幻影だった。


「ち……っ!」


 大きく空振りした掌に祐雅は引っ張られた。足がもたついた。重心が上手く落ち着かなかった。幸代に指摘された通り、口だけが達者な状態である。推測を外してしまったという事実にすっかり憔悴していた。彼女の腕を捕まえる想像も、頭には一切湧いてこなかった。


「やばいな、これ」


 冗談や誘導ではない。祐雅は心から活路を見失っていた。

 がたん。

 斜め後ろから物音が聞こえる。反射的に足が動いた。素早く音源を目指す。走っても歩いてもいない早歩きしか出来なかった。


「ほーら、こっちよー。うふふふふ」

 案の定、雪森幸代が軽やかなステップで駆け回っていた。

「疲れてる時にそれはむかつくわー」


 祐雅が幸代を追う。中々に距離は縮まらなかった。寧ろ離れているのかもしれない。彼女への接近でさえ気が遠くなったのだ。捕まえる気力は進んでいる間にも削れていた。一定の速度を保つのも難しい。


(……足音はしている。もう一度試してみるしかないか)


 挑戦の火種が再び熱を帯びる。

 考えが全く纏まらない状態では、逆転の策も見つけられそうにない。二度目の実行によって更なる情報を集めようと祐雅は考えていた。


「――――っ!」


 崖から飛び降りる様に、祐雅は突進した。


「――あら?」


 幸代が首を傾げる。既に余裕を顔に浮かべていた。祐雅の疾駆に合わせて、早急に退歩し始めている。三体の幻影で囲んでいた時よりも対応が早い。彼女も祐雅の動向に警戒していたのだ。

 会話で緩急を付けるのを祐雅は忘れていた。正しくは、相手に構う程の余地が頭に残っていなかった。

 棒になりそうな両足で懸命に追う。幸代が進行方向を横へとカーブさせる。


(さっきと同じだ)


 罠だと全身が教えてきた。片足を床に擦り付けて速度を落とす。判断する為の時間を確保する。きゅうぅ、と異質な音が金属質の床から鳴った。

 容器の影へと回り込み、祐雅は予想が的中した事を知る。


「増えてやがる……っ」


 すぐ傍に雪森幸代が平然と立っていた。その近さには驚いたが、奥の方で静かに走っているもう一人が目に入った。騙されるものか。そう判断し、祐雅はぶつかりそうな距離に現れた幸代の横を通り抜けようとした。


「ざーんねーん」


 耳の辺りで女性の声が放たれた。間髪入れず、祐雅の脛に衝撃が広がる。突然の勢いで足が浮き上がった。前屈みになっていた体勢も崩れてしまう。

下方へと落下する光景を目にしながら、訳が分からないと言いたげに見張った。


「――は……っ?」


 足を引っ掛けられたのだ。角を抜けた箇所で待ち伏せていた雪森幸代は幻影ではない。接触可能な実体を持つ本体だった。

 感覚が浮遊する中で、起こった出来事は理解した祐雅。だが、転倒による打撲からは逃れられなかった。両腕で受け身紛いを取っているものの、地面との激突で痛みが激しく点滅する。

 痛かった。

 そして、胸の奥にあった何かまでもが挫けてしまった。


(い……って……! くそ、ふざけんな。考えが殆ど読み切られている! 強がって突っ込んだ癖に失敗した……! 畜、生…………)


「またまた引っかかったわねえ。筋は悪くないんだけど、もうちょっと慎重になった方がいいわよ」


 罠を仕掛けた本人が背中を向けながら教示していく。とん、とん、と軽い靴音が床に波紋を広げる。それは身体をうつ伏せにした祐雅の元にも届いた。


「………………」


 灰色のフードを垂らす彼女を睨みながら、祐雅の口は重く閉ざされた。


(………………?)


 眉が微かに動く。目にした物が妙だと感じてしまった。幸代が後ろ向きになって初めて目撃した物体。その意図を周辺に満ちた暗闇から手繰り寄せる。


「そして、そろそろ理解したかしら?」


 幸代の振り返る気配を察したので、祐雅は即座に頭を下げた。


「流石に今度は落ち込んじゃった? まあ、所詮は精神系の恐ろしさに半分も届いてないんだけどね。……鬼ごっこっていうお遊びだから、この程度で済んだのよ。良かったわね、ボウヤ」


 ぞくり、と幸代の言葉が電流の如く全身に迸った。


 こんな時だけ長い前髪で良かったと思う。祥子みたいなポーカーフェイスに徹する性格ではない。しかし、長い髪の毛が項垂れた表情を隠してくれた。微妙に吊り上がっているかもしれない顔を見られたら危なかった。


「…………精神を簡単に弄べる。それが精神系の能力の利点であり、欠点。ここまでで充分に体験してきたでしょ?」

「…………ああ」

「《雪の園》に薬を求めたお客もね、皆、そういう風に心を折っていたわ。自分で言うのも何だけど、怪しげな薬に手を出す程に追い詰められていたの。もれなく全員よ? ……私は直にあの目を見てきたから分かる。能力に振り回された苦痛が、絶望が」


 不意に始まった経験談は、今までの話と毛色が違っていた。祐雅を惑わす怪しい声色ではなく、真剣みをちらつかせた重みが節々に現れている。


「関祢裕美の父親も同じ目をしていたわ。長年離れて暮らしていたみたいだけど、親子という関係がやっぱり重荷になっているみたい。いくら親であっても、一般人には変わりないわ。怯えて当然なのに……後悔していたわ」

「…………どうして俺に聞かせる? 覚悟は変えないぞ」

「いえ、ただ知ってもらいたかっただけよ。……どのみち時間はあんまり残っていなさそうだし。私の勝ちはほぼ決まっているわ」


 ふと、幸代が祐雅から目を逸らした。遠くの壁際へと視線を移す。黙々と立っているメイドがそこにおり、携帯端末を手にしている彼女へと大声で尋ねた。


「そこの貴女! ……時間はあとどれぐらい残っているのかしら?」

「残り、約四十三分だ」

「うーん、微妙な時間ね……」


 確認を取っては顔を渋く窄める。長くもなく、短くもない猶予。焦るにはまだ早いが、気を緩めていい場合でもない。

 そんな幸代の心境を推測しつつ、祐雅はある結論に辿り着いた。


(やっぱりそうだ……。おかしい。さっきの話、祥子さんから聞いた話と食い違

ってるトコがある! 俺の仮説が正しければ、もしかして……)


「ん、の……つぅ……」


 両腕に力を入れ、祐雅が徐々に立ち上がる。

 身体が熱かった。

 胸の奥がうるさく脈を打っていた。

 手足が鉛の様に重かった。

 走るのも辛く感じていた。

 転んだ際に打った場所がひりひりと痛んだ。

 焦点も何処かぼんやりと揺らいでいた。

 地に足を着くのが、一番の苦痛だった。


 ――だからこそ、祐雅は最後の作戦に打って出る。


 鬼が逃げ回る女へと鋭い視線を投げつけた。両足を何とか立たせ、空っぽの手を強く握った。

 心が今までになく燃え上がっていた。見出した可能性。その一点に祐雅は全力を費やすと覚悟した。小さく踏み出す。また踏み出す。それらを絶え間なく繰り返す内に、捕まえるべき相手の元を必死に目指していく。


 残り時間は、約四十分。


後編で鬼ごっこは完結させます。その後エピローグをやって裕美編は終了です。「E・D」の方もよろしくお願いします。

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