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天使顕現の能力

始まりの物語。その少女は、あまりにも重い《制限》を背負っていた――

 白色の翼が夜闇に浮かび上がる。上部、横、下部、と二対の双翼は三つの方向へと伸びている。

 ――天使。それも神話では最上の階級に位置する使徒に結び付けられる姿だった。


「……ば、化け物」


 悲痛な声色が虚空に消える。


「お前が、お前が兄さんを、殺したんだ……」


 その罵倒は天使へと向けられていた。

 六枚の翼からは常に輝く粒子が溢れ出しており、舞い散る光源が声の主を照らし出す。

 傷だらけとなった少女が、地面に転がっていた。無残な姿で這いつくばりながら、少女は天使を忌々しげに睨み付ける。憎悪が詰め込まれた瞳が、天使の顔を映し出す。


「…………」


 輝く黄金色の髪。真珠をも超える滑らかな肌。そして、感情を宿さず無機質を貫く紅色の双眸。

 地面に伏せた少女とは別の、美しい少女が天使の正体であった。


「いつか、いつかお前を殺してやる! その《天使》の力さえ超える能力を持って、必ず殺してやる!」


「…………」


 天使は変わらず沈黙を尊んでいた。だが、体勢には変化が生じている。

 煌々とした光の粒が漂う上空に、天使の細い腕が伸びてうたのだ。傷一つない掌が、無数の傷跡を背負う少女の方を見下ろす。ふと、光量が突然に増えていった。

 振り上げた片腕に光の粒子が集まってきていたのだ。徐々に数を増やし、掌の周囲を光子で埋め尽くしてゆく。


「…………消エロ」


 冷酷な言葉が天使の喉から落ちる。


 素早く降ろされる光の腕。――次いで、地面を揺るがす程の衝撃が響き渡った。









「大丈夫、死んでは、いない」

 身体中に裂傷を負った少女を見据え、金髪の少女が安堵の息を吐いた。

 怪我人を看護する彼女の顔は正に先程の天使と同一である。虫の息をこぼす少女も、天使と敵対していた少女であった。二人は戦闘の勝者と敗者。しかし、圧倒的な力で屠った筈の少女は悲痛な表情を浮かべていた。


「……もう、やだよ」


 金髪の少女は目尻を涙で濡らす。


「こんな《能力》……。私は、望んでないっ」


 彼女は頬に雫を流しつつ、月が浮かぶ夜空を見上げた。夜の色を切り裂くような光陰が空の彼方此方へと伸びている。蒼い色合いの両目が、雲一つない夜の闇と見事に一致していた。


 ――《能力》、及び《異能》

 これは十代の少年少女が突如と謎の《能力》に目覚めようようになった世界の物語。ある者は己の《能力》に歓喜し、ある者は己の《能力》に絶望する。

 少女の《能力》は人外変化であった。かつての施設から与えられた定義を用いるならば、《天使顕現》と呼ばれる。

 天使の力に目覚めた彼女は凄まじい力を誇る。飛行も可能となり、尋常ならざる能力で数々の《能力者》とも連戦連勝してきた。

 けれども、彼女の《天使顕現》にはある《制限》がかかっていた。

 

 変化時、自分の通常意識が途切れてしまうのだ。

 《能力》発動時、彼女は一切の手加減が出来ない。望んでいない悲惨な状況にまで相手を追い込んでしまうことは常のことだった。単純なる意志なき兵器と化す力。彼女が苦しむ原因はそこにあった。


 能力の階級としては最上級ーー第八階級アハトに達すると言われている。


 彼女にとってはどうでもいいことだった。

 仮にその強さが原因で、ある《学園》へと逃げ込むことになっても、その時までの彼女は問題ないと考えていた。


 ーーそう、チートの名を欲しいままにする美少女達を侍らせた、一人の少年に出会うまではーー


 彼女と同じ第八階級の《能力者》である複数の美少女を虜にする同級生。そんな彼と遭遇した当時、彼女は嫌悪だけしか抱かなかった。


 きっと異性の心を操作する下劣な《能力》なのだろう、と。

 いうなれば、《ハーレム製造》だろうか。彼の近くに居る生徒も、そのように感じているようだ。



 違う、そんな《能力》ではない。

 彼のことを良く知る、教師、チートな美少女達は同様に首を横に振る。





「彼の能力は《ハーレム製造》なんかじゃありませんっ!」





 

文章表現がE・Dよりも少しおろそかになっています。この作品の評判から次のお話をどうするか考えるつもりです。

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