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Mercenaries Garden   作者: ゆーやミント
ガーデン生活 初年度生編
49/87

〜慰め〜

今話は短めとなってしまいましたがどうかお許しください。

「・・・朝、か」


シラギと別れた後も結局寮にも戻らずにメインゲート前のベンチに腰掛けたまま一睡もせずに夜を明かしてしまった暦は、遥か水平線から上り、今では青い大空に浮かんで眩く顔を照らす太陽の光に目を細めた。

その顔には徹夜と精神的な疲労故に大きな隈が刻み込まれ、目にも光は無く、顔色も心なしか青いので何時もの好青年的な彼の表情は欠片も無い。

溢れ出す負のオーラは端整な顔と相重なり、意気消沈した姿に歯車を掛けている。


「紗希が...心配するだろうし。召集には....顔を出すか」


つい1時間程前に端末へと送られてきた試験結果発表の集会に出席するかどうか引きずっていた暦であったが、妹に顔くらい見せないとと思い、やけに重たい足を進めた。


(おそらく...発表の際は班で整列するんだろうな)


昨晩シラギに慰められた暦ではあったが、当然不安は拭えていない。


納まるべき鞘を失ったままの刀は、それまで鋭利な刃を剥き出しにしたまま暦の座っていたベンチの脇に立てかけられてあり、一晩もの間潮風に吹かれているので早く手入れをしないと錆が回ってしまう可能性があるが、彼には到底整備するだけの気力など無い。


(鞘だけ取りに...寮へ帰るか)


刀を肩に担いだ暦は寮の方角へ転進すると、重い足取りで進むのであった。



寮に入った暦は、流石に早朝とは言え人目の多い寮棟内も刀身を剥き出しにして歩くわけにはいかないと思い、ジャケットを脱ぐとそれで刃を覆うと脇に抱えて部屋へと向う。


エレベーターを降り、角を曲がると誰かが自分の部屋の前でしゃがみこんでいるのが見えた。

俯いて長い黒髪を垂らし、ドアに背を付けて膝を抱えて座る少女は間違いなく暦の妹である紗希であった。


「紗希?」


声をかけると彼女は弾かれたように顔を上げ、暦の顔を見つめると両目に大粒の涙を浮かべて彼に飛びついた。


「お兄ちゃん...うっぐ....よかったぁ....」

「わっ!」


急に飛びかかられた暦は思わず刀を放り出すと両手で妹の体を受け止めた。


「うぅ...よかったぁ....よかったぁ.....」


自分の腕の中で啜り泣く妹の姿にしばらくの間呆然としていた暦であったが、直ぐに彼女の涙の原因に気がついた。


(そうか、試験の後...何の連絡もしなかったっけ)


実際に命の賭かった試験だったと言うのに、暦は試験が終わると一切の報告を班員に任せて意識の無いエレンを抱えてエルメスの下へ駆け込んだ為、後からメールによって案内された班員以外にその安否を知る人間は居なかったのである。

ネリシャも心配はしていたようだが、暦に対して他人の何十倍も執着している紗希の胸中は曇り空を通り越して嵐の様に吹き荒れていたのだ。


「紗希、何の連絡もしなくてごめんね。こんな所に座っていて身体も冷えただろう?」


未だに泣き止むことのない妹の頭を撫でながら、暦はいつも以上に優しい声をかける。


「お兄ちゃんこそ...うっく....身体...冷たいよ」

「本当にごめんね。心配要らないよ」


ようやく落ち着きを見せてきた紗希は嗚咽混じりの声で兄の身を案じるが、微笑む暦を見ると一瞬口元を緩ませてから再び涙を零した。


暦は泣きじゃくる妹の頭を撫でながら器用に自室の扉を解錠すると、ゆっくり紗希を抱きかかえると部屋の中へ移動して彼女をソファーに座らせてから自分もその横に腰掛ける。


黙って頭を撫で続けて紗希が泣き止むのを待つと、次第に呼吸が落ち着いていった。


「ありがと...」


泣き枯れた声ではあるものの、ようやく落ち着きを取り戻した紗希は小さくお礼を言ってから兄の顔を見上げた。


「お兄ちゃん、ひどい顔してるよ...どうしたの?」

「・・・実は寝てなくてね」

「それだけ?」


紗希の鋭い洞察眼の前ではしらを切り通せないと思った暦は昨日起こった出来事を包み隠さずに話と、今度は彼の方が抱き締められた。

最初はどうしようかと迷った暦であったが、妹の好意を受け取り静かに目を閉じた。

心地よい人の温もりと鼓動に身を委ねてされるがままになった。


「大丈夫だよお兄ちゃん、例え世界が敵になっても私は絶対にお兄ちゃんの味方だから」


そう言ってから紗希は静かに自らの唇を暦の口に触れ合わせた。


「ん...」


甘く、何処と無く危険な香りが漂い始めた室内であったが、それを打ち破ったのはノックの音と元気の良い声であった。


『御二方、朝ですよ。集会に遅れてしまわないように気をつけて下さいね』


ガチャリと扉が開くと笑みを浮かべたネリシャがぴょこんと顔を覗かせると、続いてエレンも顔を出した。


「コヨミ...おはよ..............」


朝の挨拶を仕掛けたエレンは室内の状況を見ると、一瞬全身を震わせると硬直してしまった。

よくよく見るとその手には暦が廊下に放置してきた刀とジャケットが握られている。


「あぅ....コヨミが...寝取られた........」

「エレンさん、お二人はあれが普通ですよ」


ジワリと目元に涙を浮かべたエレンはもの哀しそうに、されど何処か羨ましそうにしてうな垂れ、ネリシャは微笑みながらそれを励ます。


「ところでコヨミさん、随分と(すさ)んだ気配を醸し出していますが如何されましたか?」


急に真面目な顔になったネリシャの問いかけに黙り込んだ暦たちであったが、彼女の袖をエレンが黙って引っ張り、首を横に振ると流石は長寿のエルフなだけあって何かを察したらしく深くは追求しなかった。


黙って数回頷いていたネリシャであったが、やがていつも通りの笑みを浮かべると静かに身を翻した。


「エレンさん、此処は私たちは引きましょう。兄妹水入らず、他人では慰められない傷というものもあります」

「でも...早く行かないと....取り返しのつかない事になるって...急かしたのは....」

「はいはい、じゃあ行きましょうか。御二方も時間には気をつけて下さいね。それでは」


強引にエレンの口を塞いだネリシャは早口に注意すると飛び出す様に部屋を出て行ったのであった。

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