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神器の休題

「ただいまぁっと」

 芦並は玄関の鍵を挿すことなくドアを開け家の中へと入った。

 4階建てのマンションのとある一室。それが芦並が現在借りている住居である。

 賃貸料は安い方ではなく、お隣さんは確か家族で暮らしている。そんな広さのあるマンションなのだがそこに芦並は一人で生活を送っていた。

 無駄に広く一人暮らしにおいて利点などないように思えるが芦並にとってはひとついいことがあった。

 それは広すぎるスペースはゴミ置き場として有効に活用できるという点。

 これでゴミを毎週捨てに行く必要もなく、また無駄に広いスペースも消化でき一石二鳥であった。

 しかしそんなゴミ置き場も今は見る影もない。

「おかえり~」

 そう、この同居人の影響である。ちなみに芦並は結婚をしている訳でも、ましてヒモを家で養っている訳でもない。

「鍵かけとけっつってるだろうが」

「あれ、かけてなかった? でも誰かが入って来ても直ぐ殺しちゃうから大丈夫だよ、キヒヒ」

 齢二十何歳の芦並に対し、家にいるのは不気味な笑い方をする中学生。

 それも異性となる男子中学生が家に住み着いているのである。

 弟だとか、まして息子なんかではない、ただの赤の他人。

 強いて関係性を言うのなら、弟子と師匠といったところか。

 この弟子が家に来てから一日目。

 芦並が出勤し、帰っている頃にはゴミ袋の山は跡形もなく消えてしまっていた。

 この弟子が家に来てから三日目。

 床という床はピカピカに磨かれており、ボロボロだったカーテンも今や新品のものに取って代わられていた。

 誰もそんなベストキッドのような、掃除をさせることによって修行とする、という事を行っているわけでもない。単に極度の綺麗好きな性格らしい。

 そんな弟子は今、食卓のテーブルで教科書を開いて勉強しているようである。

「あー腹減った。何か食いもん作ってるか?」

 ネクタイを緩め、スーツをシワにならないようにハンガーに掛ける。

 しかしリビングが広すぎてどうもまだ馴染めない。

 この広いスペースをどう埋めようか、等とこっそり思案する芦並に対し弟子はケロリと、

「作ってないよ?」

 と言ってのけた。

 時刻は夜の九時。少し残業をさせられてしまったが、まだ早く帰れた方である。

 普通の家庭なら晩御飯を既に食べ終えていて、食後のデザートとしゃれ込みながらテレビのドラマでも見ている時間だろうに、我が芦並家の食卓には晩御飯すら用意されていないという。

「……材料は?」

「芦並が何を食べたいか聞いてなかったからまだ何も買ってきてない」

 期せずして弟子になったこいつだが、この弟子が作る料理には目を見張るものがあった。

 密かに毎回楽しみにしていた晩御飯だというのに、それがないという。

 しかしこの弟子の言い分を理解できていない訳ではない。

 確かに今まで弟子を持ってからというものの毎朝家を出て行くとき、または晩御飯の最中にでも、今日はコレを作っておけ、明日はアレが食べたい等とオーダーしていた。どれも一人暮らしの時、言い換えるならばコンビニ弁当では食べれない様な代物であり、一通り満足した芦並は今日の分のオーダーを言っていなかったのである。

 そんなダメなコンピュータープログラムじゃないんだから融通を利かせてくれよ……とため息を吐く芦並を他所に笑顔で弟子は、

「だからさ、今から一緒に買いに行こ。今なら大体半額になってるだろうし」

 と言ってくる始末。

 ここからスーパーまでは片道30分。往復で1時間。

 さらに何か作る時間を考慮すると何かを口にできるまでは相当な時間を要する事は確かである。仕事疲れのこの身体は一刻も早くカロリーを求めているというのにそんな時間待てるはずがなかった。

 っていうかもう動きたくない。

「いや、今日は出前だ。寿司でも食おう」

 芦並は食卓の椅子にどかっと腰掛け、ブラウスのボタンを二つ程外した。色白の胸元が少しだけ覗く。

「え! お寿司!」

 弟子は弟子で自身の失態のせいとも気づかずにただ純粋に喜んでいた。教科書を放り投げ、目の前に座っている芦並を見つめている。

 童顔で、それでいつも眠たそうに開いている眼。

 身長もそう高い方ではない、一見普通の中学生だ。

 だが運動神経、特に戦闘に関しては尋常のソレではない。

 ユーザーという点を差し置いても常軌を逸していると芦並は思っている。

 ……まぁまだ俺の方がすげーけどな、と思わなくもないのであるが。

 適当に出前やってる店探しとけ、と芦並が言うと弟子はリビングを出て廊下にある固定電話の元へと向かっていったのだった。

 家に帰り一息つき、何をするでもなく、ふと目の前に広げられているノートに目がいった。

「どれ、勉強の方は?」

 同居人になって数日。特訓と称した殺し合いでその腕前は大体分かってきたが、それ以外の事は知らないことの方が多い。

 両親はどうしてるのかだとか、ユーザーになった経緯だとか。

 学校における学力だとか。

 ひょい、と取り上げたノートに書かれているのは数式がズラリと書かれている。

 課題の途中なのだろうか、因数分解なんてなつかしいなぁ、等と思いつつ目を通していき――。

 芦並は顔を顰めることとなった。

「芦並! 頼んどいた! 特上寿司3人前!」

「由真、お前誰が金払うか知ってるんだろうな」

 特上でかつ3人前だ。

 別段金がない訳ではない。だが勝手に弟子にこういう事をされると舐められてるのではないかとすら思う。

「大丈夫。僕は並1人前を頼んだから」

「俺一人で3人前食えってのか!?」

 どんだけ食うと思われているのか。

 確かに芦並の言葉遣いは家において女の要素など微塵も感じさせない無法地帯と化している。

 かといって食事量も男並だという事ではない。

 てっきり3人前を2人で分けると思っていた芦並は髪をかきむしり、

「もっかい電話しろ。並はキャンセル。特上を二人で分けるぞ」

「え? いいの?」

「さっさとしろ」

 由真は不思議そうな顔をしてまた廊下へ引っ込んでいった。

 ……まぁあいつは舐めてるとかそういうのじゃなくて天然なんだろうなぁ、と自分を納得させる。

「しっかしまぁー天然っていうよりも馬鹿に近いのかもなぁ」

 ひったくってみたノート。

 目に付いたものを芦並が検算してみたがなにひとつ正解しているものはなかった。




神器の休題




 特上の寿司に舌鼓を打ち、食後にのんびりと熱い玉露を二人で啜っていた。

 ちなみに頼んだ寿司についてきた粉ものの玉露である。

「いやー久々に良いモン食ったなぁ」

「美味しかったなぁーでももうお寿司は当分いらないや」

「本当好き勝手言うなお前」

 しかし芦並もそう思っていた。

 今まで晩御飯の用意は一人分づつしか用意していなかったから気づかなかったが、二人ともあまり食べる方ではないようだ。

 芦並も由真も自分の分を食べ終えた後に、

「お前は男なんだからもっと食え」

「芦並こそ仕事で疲れてるんだからたくさん食べればいいじゃん」

 と、特上ネタを押し付けあった結果、なんとか今に至るという訳である。

 ちなみに最終的には芦並の、師匠を太らせるつもりか、という言で決着はついた。

「先にお風呂はいる?」

「いや、こんだけ食ったら体重が不安だ、少し付き合え」

 芦並はそういって洗濯物の山からジャージを引っ張り出し袖を通す。

 由真は家事全般をやってくれるがどうも服を畳むのは苦手なのだとか。その為いつも洗濯された服は畳まれる事なくシワにならないよう広げて適当なカゴに積まれているのだ。

 芦並は由真のスポーツウェアを取り出して由真に放り投げる。

 スポーツウェアといっても学校名が書かれている体操着に過ぎないのだが。

「! キヒヒ、特訓!」

 嬉々として由真は制服を適当に脱ぎ捨て着替える。基本的にこの二人、異性の前で着替えるという事に抵抗はないらしい。

「でも別に体重気にしなくてもいいんじゃないの? んー多分54kgくらいでしょ?」

 芦並は54という数字にピクリと反応する。確かにその数字はドンピシャであった。

 しかし芦並の身体には昔に契約した神器が入っておりその分の重さが加算されているので本来はもっと軽いのだが。

「え、お前なんで知ってんの」

 確かに毎日風呂から上がる度に洗面室に置いてある体重計に乗り一喜一憂したりしているのだが、まさかそれを覗かれていたのだろうか。

 仏頂面のまま思わず出ていたガッツポーズなんかもこっそり見られていたというのだろうか。

 芦並は聞かないほうがいいと思う反面、しかしもう既に聞いてしまっている自分の口を呪った。

 師匠としての体裁を保てるか保てないかの天秤が今まさに傾きつつある。

「いや、芦並が僕の身体に乗ったときそんくらいかなぁ、って思って……」

 なんだ、風呂場を覗かれていた訳ではないのか、とほっと安堵したのも束の間、

「……乗った時?」

 あったか? そんな事? と思い返し――

「――! ば、馬鹿野郎かお前は! 先に行くぞ!」

「え? うん」

 何故芦並が顔を赤らめているのか分からない由真は取り合えず生返事をし、芦並は先に家を出て行った。

 これがいつもどおりの手はずである。この数分後に由真がこの扉を開けた瞬間特訓という名の殺し合いが始まる。

 まず芦並を探索することから始め、真っ向からぶつかったり、地形を利用すべく誘導したり、より実践に近い形式で殺し合いを始める。

 まぁしかし悪魔で特訓である。殺さない様に多少はお互い加減をしている……はずである。

「めーちゃん、なんで怒ったのか分かる?」

 由真は自身の体内に内包されている神器、自由の女神銅像に語りかける。

(彼女の容姿からして、また神器の重さを差し引いても決して気にする必要のない数字だと思うのですが……私にも理解できません)

 本来神器とこうして意思疎通を図る事は不可能なのだが由真にはなぜか可能である。これが由真の才能か、はたまた自由の女神像という神器が特別なのかは不明である。

 まぁ女の人は体重を気にするものなんだろう。芦並だって毎日体重計に乗っているみたいだし。

 そう結論つけて、由真はシューズを履き、靴ヒモを縛る。

「んーまぁいいや。今日こそ殺そ、キヒヒ」

 既に数分は経っているだろう。もう追いかけ始めても問題はないはずだ。

 玄関に手をかけた瞬間、由真の纏う空気が変わった。

 目が据わり、どことなく挙動のひとつひとつが慎重になっている。

 息を殺し周囲の音にも気を配り、そして闇夜に紛れている芦並の姿を追い始めた。

 時刻は22時過ぎ。殺し合いをするにはまだ浅い時間である。

 あまり人目の多い場所にはいないはずである。そして隠れて奇襲をするとなると。

「……あそこにいるのかな」

 ある程度アテを付け、由真は意識を集中させる。

 芦並の神器の感覚は既に覚えている。一度も顕現をさせていないが、1週間も共に生活をしていくうちにしっかりと脳に刻まれている。

 今の季節は初秋。

 冷たい夜風に乗ってくる神器の気配を身体で感じ、そしてゆっくりと移動していく。

 別段、ユーザーになる者すべからく他の神器の気配を感じることができるようになる、という訳ではない。

 芦並は気配を絶つ事には他を寄せ付けないセンスを見せ付けるが、他の神器の気配を感じる事は全くできない。そもそも気配という概念について疎い。

 対して由真はオールマイティにそつなくこなすことができる。気配を消すことも察知することもできるが特筆してるモノはない。

 微かに感じる神器の気配を察知するのも特訓に含まれている。由真が移動を始め特訓は本格的に始まるのである。

 特訓を始めた頃は芦並の姿を捉える事もなく終了していた事が何度かあったが、今ではアテをつければ察知もできるまでになった。

 人目を気にしながら市街地を駆け抜ける。

 他の人からすれば夜のマラソンとでも思うのだろうがどう見てもマラソンというペースではない。そもそも歩幅がおかしな事になっているのだがそれを見たところで誰もが錯覚だと勘違いし、気に留める者はあまりいない。

 段々と若干ではあるが神器の気配が濃くなり始めている。どうやらこちらの方向で間違いはなかったようである。

 舌なめずりをし、思わず笑みを浮かべる。最初の勘は当たっていたようだ。

 目の前にあるのは廃れたビルである。元は病院かそれともホテルか。

 幽霊スポットとして人気になっていそうな場所ではあるが、だからこそ人目を気にせずに殺し合いができる。

「……あたったはいいけど嫌な場所だなぁ」

 建物内は死角が多すぎる。さらに敵は既に中に潜んでいる。

 圧倒的に不利なのは由真である。

 ある程度は場所を察知できる由真の方に利はあるように見えるが、建物の中という狭い範囲では階層の区別、どの部屋にいるのかという区別は難しい。

 ユーザーの中で察知の気配に長けている者ならいざ知らず、由真としては歩きながら、人としての気配を辿っていくしかない。

 音を立てない様に、芦並が壊したのかそれともどこかの不良が壊したのか、割れたガラスドアの入り口から建物の内部に入る。

 エントランスでは視界が開けていたが、ベンチがいくつも並んでおり戦う足場としてはあまり向いていないような造りである。どうやらここは病院の廃墟らしい。

 大きく息を吸う。埃っぽい空気が肺一杯に詰まるが、文句も言ってられない。

 息を止め、そして長年の暗闇での経験から由真は片目を閉じ移動を始めた。

 階段もあるがまずは明かりのない廊下を突き進む事にする。もし階段を上っている最中に背後から襲撃されると足場の融通が利かなくなる。そこでまずは一階の探索を由真は優先した。

 廊下を進んだ先に部屋がいくつか見えてきた。音を立てないように慎重に引き戸を開け中を見て回る。その際にも背後からの襲撃を念頭においておく。

 部屋の中はカーテンで区切られているベッドが4つほどあるが、隠れられる様な場所もない。そうして片っ端から全ての部屋を見て周り由真は2階に上がった。

 部屋を見て回るついでに役に立ちそうなものを見つけたので由真はそれを片手に掴んだまま捜索に移った。

 2階の部屋、何も進展がなさそうに思える作業を繰り返し……その一室を開けた瞬間――

眩しい光が由真を襲った。

 一瞬で目を潰され、由真は急いで片方の目に切り替えた。

 その目が捉えたのは1本のメスがこちらに飛んで向かってくるところである。

 片手で神器を顕現させそれを防ぐ。顕現させたのは黒い板。自由の女神像が持っているとされている独立記念日が彫られた銘板である。

 そこから黒い影の身体が突っ込んでくる。間違いなくそれこそが芦並であった。

ナイフが視界の端に映り、急いで身を屈め前転し立場を入れ替え直ぐに立ち上がった。

 追い討ちを警戒したが、芦並は突進の勢いのまま部屋を出て行った。

 由真も急いで後を追いかける。部屋を出て急いで周りを見渡すと廊下の奥にある引き戸が丁度今閉まったところを見た。

 確かにこの短時間であの距離を移動し、さらには音も立てずにドアを閉めた技術には感心するが、それを見られていては世話はない。

「キッヒヒ」

 笑いを堪えきれず、今度は神器を全て顕現させ芦並の消えた部屋に向かう。

 片手に握られているのは自由の女神像。その全長は芦並の身長よりも高く、また暗闇と同化している黒色である。

「…………」

 そこで由真は考える。

 今まで芦並と何度か殺し合いをしたのだが、こんなどこに隠れたか分かるようなミスをする人ではないということを由真は知っている。

 という事は……罠。

 しかし分かったところで由真には策がない。

 頭が回らない。

 足が。

 部屋の前で止まった。

(……その右手のものを使ってみては?)

 右手? 自由の女神像の何気ない一言から、由真はさっき拾ってからずっと持っていたモノを見て、そして閃いた。

 部屋のドアをほんの少しだけ開け、ソレを中に忍び込ませる。

 果たして効果はあるのか。いや、常識で考えるなら効果等ないと考えるべきだろう。

 仕方なくそのまま突入しよう、と覚悟した時に

「きゃああああああああ!!!」

 中から悲鳴が聞こえ、芦並が部屋から転がり出てきた。

 そしてそのまま由真に抱きついてきた。顔は涙目である。

「ゆ、ゆまぁ! ご、ゴキブリがぁああああ……」

 思いのほか効果はあったようであった。

 しかし特訓としての効果は薄いまま殺し合いは中止となった。




「お前は死ね! 本気で死ね! もう今日は家にかえってくんな!」

「えー、だってあるものは有効に使えって教えてくれたのは芦並じゃん」

「だからってゴキブリを使うって……!」

 ジャージで二人、話しながら歩き家路を辿る。

 芦並は由真が戦術としてゴキブリを使った事に激怒しているようであった。

 結局今日の特訓はノーゲームとし引き分けとなった。というのも芦並の戦意が根こそぎ虫にもっていかれたからである。

「……ちょっとコンビニいってくるわ」

 帰り道にある途中のコンビニを見かけ芦並はふらりと中へ入っていった。

「めーちゃんはどう思う?」

 ガードレールに腰掛け、自身の神器、自由の女神に問う。

(殺し合いにおいて汚いは褒め言葉ですよ。それに……恐らく芦並自身もそれは分かっているはずです。ただの八つ当たりですよ)

「そうだといいけどなぁー」

 風が少し冷たい。夏が終わったばかりだが夜になると秋が近づいているのだと実感させられる。

 そろそろ秋用の服を買いに行くべきか、でも私服を着る機会なんてあまりないしなぁ、等と考えているうちに芦並の買い物は終わったようだ。

 買ってきたのは適当な飲み物とタバコにライター、他にも何か袋に入っていたみたいだが由真には分からなかった。

「ホレ、お前んだ」

 タバコを咥えながら由真にペットボトルを投げ渡した。ケミカルな味のする炭酸飲料の柄を見て露骨に由真は嫌な顔をしたが、文句を言わずに口にしていた。どうやらあまり好きではないらしい。

 芦並も由真が腰掛けている隣にしゃがみこみ、ガードレールにもたれ掛かった。

「芦並ってタバコ吸ってたっけ?」

「あぁー最近は吸ってなかったんだけどなーちょっと吸いたくなった」

 そういって紫煙を吐き出す。由真が何か言いたげな顔をしているのを見たが敢えて芦並は無視をした。

「そうだ、お前も吸ってみるか」

「タバコは身体に悪いってめーちゃんが言ってた」

「なんだお前。吸ったことあんのか?」

「ないよ。未成年だよ」

 珍しく不機嫌そうな由真を見て芦並は内心面白がっていた。タバコに何か良くない思い出でもあるのだろうか。

「吸ったことないのに身体に悪いってどうして分かるんだ? 吸ってからめーちゃんに聞いてみろ。お前の身体には詳しいんだろ?」

 ホレ、といってつい今まで自分が吸っていた一本を由真の口に咥えさせる。

 由真も軽蔑した目線を芦並に送りながらも、タバコを吸って、そしてフーとふかす。

 それを見て芦並は笑いながら、

「な、何もおきないだろ? もっかい吸ってみ?」

 と催促する。

(……確かにこれだと身体に害はなさそうですね)

「うーん、本当だ、何もおきてないみたい……」

 そういってまたタバコを咥え、フーと息を吐く。

「ゆ、由真、タバコの煙を吐くときはもっと、堂々と吐くもんだぞ、うん」

「ん、分かった」

 タバコを咥え、今度はキメ顔で由真はフーと息を吐く。

 ちなみに。

 全部フカシである。

「……っ、や、やばい、中学生がドヤ顔で煙草フカシてる……っ、あっははははははは!」

 芦並は急にお腹を抱え笑い始めた。

「え? 何、何?」

 どうして笑い始めたのか分からず由真は驚く。

(簡単に言うと、間違ったタバコの吸い方をしてたようなものです。まぁ必ずしも間違っていた訳ではないんですが、彼女からしたら面白い吸い方だったんでしょう)

 神器にフォローされて、由真は自分がからかわれていただけと気付きむっとした

 持っていたタバコの火を踏み消し、

「芦並、買ってきたタバコ貸して」

 と言って笑い転げてる芦並の手からタバコのケースを引ったくり、まとめてコンビニのゴミ入れに入れてきた。

「あっはは、おいおい、もったいないだろ」

「タバコは身体に悪いからだめなの。芦並ももう吸うな」

「あぁ、まぁいいよ。お前の面白え所みれたから安いもんだ」

 まだ不機嫌なままの由真は炭酸飲料を自棄になったように飲みきった。

 芦並はその様子を見て今度はこっそりと酒でも飲ませてみるかな、等と考えており、

「いやー確かに勿体無いですね。まぁ俺は吸わないから関係ないんですが」

 フラリ、と話の輪に加わってきた人物が一人。

 そこにいるのにいないような、存在感が希薄である男。

 表情としては笑顔の分類に入るのだろうが、その目には感情が宿っていない。ただ淡々と事象を映し出しているだけなのだろう。

 一言で例えるなら仮面をつけている、そう由真は思った。

「おじちゃん、そんな神器の気配丸出しで何か用なの?」

 存在感は希薄だが、纏わりついている神器の気配だけはそのままである。

 気配を消す、というのと同様にまた神器の気配も消すことがある程度できる。芦並は隠すまでもなく神器の気配がまるでなく、由真もある程度押し殺しているが目の前のこの男はあろうことか隠すつもりもないらしい。

 それもそのはず、常に神器を顕現させたままこの男は出歩いているのである。気配を隠すことができたとしてそれは誤差だろう。

「こんばんは。君が由真君ですか? 始めまして、一条という者です」

 そう言って一条は会釈する。

 一条の年齢はまだ20代前半であり、決しておじちゃんという年齢ではないのだが気にする風もなく、一条は気さくに振舞っていた。

 しかしその振る舞いこそが感情の欠落を表しているようにも思えた。

 神器の気配はするが、殺気は全く感じさせない。

 芦並に用事があるのかな、等と思いながら由真は挨拶を返すこともせず、気味の悪い人だなぁ、と一条を睨んでいた。

「よぉ、んで何の用事だよ。携帯で連絡するんじゃなかったのか?」

 芦並は先程の様子から一転して、不機嫌そうに眉を顰めながら一条に問う。

 対して、露骨に嫌悪感をあてられても一条は気にせず会話をする。

「ちょっと化け物じみた人から既に勘付かれておりまして……それなら直接連絡をした方が安全かな、と。にしてもあなたが由真君と一緒にいてくれて助かりました。貴方だけだったら場所を掴めませんでしたし」

 一条は由真の神器の気配をアテにし、ここまで来たらしい。確かに由真は芦並の神器の気配を覚えているので問題はないが、普段会わない様な人物だと神器の気配を辿って芦並の元までたどり着くのは並のユーザーでは不可能であろう。

「んで連絡ってなんだよ」

「あぁ、それです。明日決行します。集合場所と手はずはこの紙に書いてますので目を通して置いてください」

 けっ、と芦並は乱雑にその紙を受け取る。そのままジャージのポケットにいれ頭をかきむしる。

 一条に背を向け、もう用事はないのだろう、と言わんばかりに挨拶もせずにその場を後にする。

 ついに明日か……。

 変な緊張感とこの日常が崩壊するのかもしれない、と思うとどこか言い様のないストレスで胸中が占められていた。

 少し歩き……そして違和感に気付いた。

 芦並が歩き始めたとき、由真も当然その後をついて来ているものだと思っていた。

 しかし芦並の予想は外れた、振り返ると一条と由真は二人で何か話していた。

 距離は十分すぎる程に開いていた。悪態をつく暇もない。嫌な予感が脳裏をよぎる。

 無意識のうちに二人の下へ走り始めていた。どうして由真を置いてきてしまったのか、という後悔で泣きなくなったが、今はそんな暇もない。

 ――、その瞬間。

 一条、それに由真は芦並に視線をやることもなく、ユーザーとしてのポテンシャルで移動を始めた。

 跳躍というレベルを超える跳躍、敏捷をフルに活かした走り、その全てを使い一条と共に一瞬で闇夜に溶けるように消えていった。

「クソッ」

 芦並も直ぐにその後を追う。

 たかが数メートル。一般人での追いかけっこならば見失うはずのない距離である。

 しかしユーザー同士の場合だとそうはいかない。凄まじい移動距離により、すぐに目視はできない距離にまで簡単に引き離されてしまう。

 神器の気配を辿れば追跡はそれほど苦もなく可能である。しかし芦並はユーザーとして無能といっていい。

 気配を出すこともできないが、気配を感じることもままならない。もし特訓において由真が先に逃げ芦並が追う側であるとするとまずゲームが成り立たない。

 残された芦並が由真を引き止める術としては、

「ゆまぁぁ!!!!!!」

 大声で、声を張り上げるしかなかった。

 その声は由真に届いたのか、それとも届いていないのか、芦並には分からない。




「……そろそろ教えてよ。ここなら芦並も邪魔はしてこないよ」

 ビルとビルの間を駆け抜け、一条の後を由真は追っている。

 一条は振り返り芦並の姿がないことを確認して、そして立ち止まった。

「うん、そうですね。じゃあお教えしましょう」

 くるり、と方向転換をし由真と向き合う。

 立ち止まった場所はビルの屋上。いつの間にか壁をも駆け上って二人は追いかけっこに興じていたようだ。

 一条の表情は月明かりの影となっていて読めないままであった。

「で、どういうことなの? 芦並が明日死ぬかもしれないって」

 一条は先程コンビニの前で由真に対しそう呟いたのである。それも芦並には聞こえないようにこっそりと。

 どういう事かと言及してきた由真に対して一条は、俺についてこれれば教えてあげますよ、と言ってコンビニを後にしたのである。

「ただ芦並さんは俺の仕事を明日手伝うだけなんです。ただそれが結構大仕事なので……命の保障はできかねない、と。そういったところです」

 一条は薄ら笑いを浮かべるが、決して場が和んだりはしない。

「そこでお話があります。由真君も協力して頂けませんか? それなら失敗の確立もぐっと下がると思うんですよ」

 失敗、すなわちそれは死を意味している。それが分からないほど由真は子供ではない。

「……協力」

 言葉を反芻し由真は考える。

 由真の今の目標はシンプルである。

 父親を殺した奴の仲間である寒川冬花を殺すことである。

 あいつさえいなければパパが死ぬこともなかった。パパを殺した奴は既に殺した。後はそいつをけしかけたのだろう冬花を殺せば晴れて由真の復讐は終わりを告げる。

 だが今、憎むべき冬花は東京物産というそれなりに力を持っている組織に匿われており、由真としては手が出せない状況にある。

 そして今。多少の障害ごと冬花を殺すべく修行に励んでおり、その特訓に芦並を利用しているのである。芦並の利用価値がなくなればまた適当にユーザー狩りをして修行に励む事になるだろう。

「……あれ、おかしいな」

 独り言を漏らす。

 今、心の中で自分の事を確認した。

 この中で間違っているコトはないはずである。だがどうしてか、胸の中で何かがつっかかっている。

 冬花を殺すことに?

 違う。あの女は殺す。殺したとしても後悔するはずがない。

 確かに少しは同情する。だがかといってパパを殺すようけしかけた事を許す訳にはいかない。

 じゃあ何が引っかかっているのか。

 復讐を遂げたその後は?

 最早強くなる必要もない。確かにユーザーと対戦するのは楽しかったが、命を賭けてまで興じるつもりもない。

 後は家に帰って普通の学生として……

「あ……」

 そこで気付いた。

 家に帰っても誰もいないということに。

 パパは勿論、ママも蒸発してしまっている。復讐を遂げた後では冬花という姉もいなくなる。

「嫌だ、芦並がいなくなるのは……嫌だ……」

 想像だけで手が震える。歯が戦慄く。

 頭を抱え、由真は確かにそうぼやいた。

 その様子を見て、一条は表情には決して出さないが満足していた。

 どうやらお互いがお互いを必要としている関係に育っている。これを使わない手はない、と一条は満足気に話を持ちかける。

「どうでしょう? 勿論報酬も約束しますが」

 失敗するかもしれないという計画である。相手は相当な手練れである事は明らかだろうし、殺されるかもしれない相手と敵対するのも本当は嫌である。

 でも、芦並が死ぬのはもっと嫌だ。

「……分かった、協力する」

「それはありがたい。是非ともお願いします。由真君」

 一条は由真に対し手を差し伸べ――、距離を開けた。

 握手代わりにその行為とは、とても洒落がきいていた。

 由真のその手には神器。

 軽々と振り回されたそれは風切り音を発し、一条を吹き飛ばさんとしている。

 鈍器としてそれは威力を発揮し、また細かなパーツで応用が効き、ただの銅像という見た目に反して対峙するとなかなか厄介な神器である。

 それが今、一条に振るわれていた。

 完全に不意をつかれたはずである。しかしそれでも一条が反応できたのは最後までこの由真という男を信用していなかったからである。

「……何かお気に障りましたか?」

 鞘から刀を抜き、一条も構える。その刀は神器としてはやけに汚れている。

 由真が計画で使えないというのも痛手だが仲間にならないつもりなら殺すしかない。

「由真を利用しようとする男よ、そもそも貴方がいなければ芦並も由真も危機に瀕す事がないのでは?」

 由真の口調が変わった。

 よく見れば……いや、見ないほうが分かるだろう、それはまるで別人であった。

 確かに外見は全く変わらない。しかし放つ気配、殺気、そして動き。全てが今までに対峙したユーザーに比べ凌駕していた。

「力量を見誤りましたかね。そんな動けるとは思ってはいませんでしたよ、由真君」

 ある程度は動けるだろうと高を括っていたが、ここまで予想を上回ってくる事に驚いた。

 しかしそれも当然といえば当然である。今の由真は由真であって由真ではない。

 今、神器である自由の女神像が由真の身体を動かしているのである。

 他のユーザーでは暴走、と呼ばれているものに該当するこの行為であるが由真の場合、いや、自由の女神像という神器においては身体を乗っ取ったとしても由真の為になる行為しかしないようである。

「まぁ……そうですね、取り敢えず話を聞いていただけませんか?」

 由真は銅像を振りかぶりながら走って距離を詰める。

 対して一条はゆらりと構えている。確かに刀を構えてはいるが、それで銅像の一撃を受けきるのは物量的に不可能に近い。

 それを見越してフェイントもなく真っ直ぐに由真は一条目掛け横なぎに銅像を払う。

 一条はこれをよけることもなく、防ぐでもなく、受け流した。

 腕一本で。

 刀一本で。

 その刀の上を滑る様に受け流された打撃は一条の真上まで流された。

 武器を弾かれた瞬間、由真は無防備そのものになる。

 列車を運ぶレールの役目となった一条の刀はこの一瞬使えない。

 なのに、……由真には刀が突きつけられていた。

 なんのカラクリもない。

 2本目の刀が一条の左手から顕現されそれが突きつけられているだけなのである。

「……、流石は神器ですね。不意打ちにも対処しますか」

 一条の得意技は抜刀術である。しかしただ鞘から抜くのではない。体内から顕現される刀での居合い抜きが得意なのである。

 刀を一本だけだと油断させ、一瞬の隙を生ませ、そこを隠していた2本目の刀で殺す、というのが一条のスタイルであり、そのスタイルは十分すぎる程の実績も作り出している。

 故に、初見の敵に防がれたのは初めてのことである。

 確かに由真の心臓に突き刺さるはずであった刀は今銘板によって防がれている。

 振り回されていた自由の女神像には……なるほど、銘板だけが確かに欠如していた。

 神器の一部分だけを顕現させるだけでも難しい行為なのに、この様に神速の速さで、刀が突きつけられる場所を察知しそこに顕現させるという細かい作業が人間には可能なのだろうか。

 否、そこまで細かい芸当ができるのならば本部から今頃スカウトがきているはずである。

「全く、あなたは由真を殺したいのですか、話をきかせたいのですか」

 由真はそう言って大きくバックステップをし距離を開けた。すぐに反撃には出ないようである。

「両方です。聞いてくれるようなら聞いていただきたいですし、聞くつもりがないのなら殺します」

 一条は感情のない瞳で、淡々と喋る。一瞬でこれほどの攻防のやりとりをした後だというのに息切れもしておらず一条は極めて冷静であった。

「……では聞くだけききましょう」

 この合理的に物事を話すスタイルに由真こと自由の女神像は好印象を抱きつつあった。

 感情論で話すのも人間らしいといえばらしいが神器である自分にはこういう方が性に合っているようだ、と思う。

 この男が話を聞けという手前、恐らく合理的に、こちらにメリットのある話を持ちかけてくるつもりだろう。

 この男が由真を殺そうとしているという事は、別段協力しようがしまいがどちらでもいいということだろう。

 白と黒がはっきりしている男だ。そんな男の話に少しづつ興味がでてきた。

「由真君。君の事は知っています。そして恐らく今の君は神器が暴走しているような状態であることも」

 山王と雪音は実際に由真の豹変ぶりを見てそしてそれを報告した。

 目の前で見るまでは話半分ぐらいにしか考えていなかったが、こうも豹変されるとどうも間違いなさそうである。

「そして君の目標、寒川冬花を殺すというのも知っています」

 一条としては冬花にあまり深い関わりを持っていないので細かい事は知らされていないが、どうやら由真と冬花は姉弟の関係であり、またお互いに殺そうとしている関係でもあるらしい。

 一条が自分で調べたことでなく、打瀬が調べた情報にはそう書いてあっただけである。まぁ要するに絶対あたっているというわけだ。

「明日はその場を設ける事ができるでしょう。何せ計画というのは東京物産の崩壊についてです。冬花という人のお守りをしている奴らは僕と芦並が引き受けることになってます。君は冬花という女を殺したら直ぐに芦並の手伝いをすればいい。どうですか? 悪い話ではないと思うのですが」

 ここで由真は一条の意図を掴んだ。

 由真が協力することはお互いのメリットになるといっているのである。デメリットは命の保障ができないという点だけであり、それはこの一条のデメリットでもある。

 つまりある種同じ穴の狢であるという訳である。

 確かに一条という男を殺したところで復讐が終わる訳ではない。芦並と由真の命の保障はできるが、冬花を殺すというのが依然難しいままの現状が続くだろう。

 それならば復讐を果たし、そしてこの芦並という女と二人で暮らす方が由真にとって幸せなのではないか。

 自由の女神像の神器はそう考え、そして結論を導き、結果神器をしまった。

「……わかりました。しかしあなたと心中するつもりもないです。状況が不利になれば現場を放棄します」

「はは、まぁ冬花ちゃんを殺した後に直ぐ離脱されないだけでもいいとしますかね」

 では最終的な明日の準備をするので、と一条は由真を残し都会の中へ紛れていった。

 由真はその一条の背中を見つめ、

「……あ、戻った」

 張り詰めていた雰囲気が霧散した。

 キョトンとそこに立っているのは神器にのっとられていない、由真本人である。

「確かに怪しい人だったけどさぁ、めーちゃんあれはやり過ぎだよ」

 屋上の手すりに腰掛ける。ひざの上に肘を乗せ、掌の上に首を乗せる。

(面目ありません)

「まぁー僕の為に動いてくれるのは嬉しいんだけどさ」

 ぼんやりと空高く昇っている月を見上げる。いつも強い人と対戦した後は頭を空っぽにし、呆けるのが由真の日課である。

「にしても強い人だったなぁ」

(…………)

 今帰ったら芦並に怒られるかなぁ。必死に叫んで呼び止めようとしてたくらいだし。

もう少しここでのんびりしてから帰ろう。由真はそう決めてゆっくりと目を閉じた。

しかし夜風が冷たい。思ったよりも早くあの家に帰ることになりそうである。




あとがき

んーあとがきのタイミングここじゃなかったかなぁ。まぁあとはオマケみたいな。

ここで打ち切ってくれてもOKです。










「ただいま」

 恐る恐る玄関を開け家の中に入る。

 真っ暗な廊下を手探りで突き進み、薄明かりが漏れているリビングにでる。どうやらまだ芦並はおきているようである。

 その明かりの下では芦並が一人、酒を飲みながら食卓に倒れこんだ状態で首だけを傾け何かを見ていた。

「よう、遅かったな」

 どうやらそれはノートである。しかしそんなノートを見て何が楽しいと言うのだろうか。

「ごめん」

 シャワーでも浴びたのか、髪は濡れたままでタオルが巻かれていた。

「お前の珍回答を肴にやらせてもらってるぜ。なかなか面白い発想してるな由真は」

 そう言って芦並はケラケラと笑う。どうやら由真がやっていた数学のノートを見ていたらしい。

 怒っている様子はない。密かに安堵しつつ由真はそれに合わせるように笑い、

「んで、明日ついてくるのか?」

 その笑みが強張った。

 芦並の視線がとても鋭くて。

 今まで笑っていたはずなのに、いや、今も微笑をたたえているがその言葉はとても、重い。

 由真は表情を引き締める。

 僕は本気だ。

 そう伝えるために、しかし言葉は短く、

「行くよ」

 とだけ答えた。

 しばらくの沈黙。

 芦並はこちらを見てはいないが、何かを考えるようにグラスをゆっくりと傾ける。

 そしてグラスから口を離し、そうか、とだけ小さくこぼした。

 芦並は由真を止めようと思っていた。最悪力づくで明日はこの家に閉じ込めようとも思っていた。

 しかしそれは不可能だと悟った。

 由真の目は真剣で、覚悟を決めている目である。

 確かに見かけは中学生のクソガキだ。だがかといって死ぬ事を、殺す事を理解できていないとも思えない。

 そもそも由真の方が殺し合いに関しては場数を踏んでいる。だからこそこんなにも落ち着いて、そして覚悟を決められるのだろう。

「……ならしょうがねぇ。由真、寝るぞ。最期の夜になるかもしんねぇんだ。精一杯楽しもうぜ?」

 そう言って由真の肩を組む。それは一人で立つのが困難な程飲んでいるという証拠だろうか。

 芦並のこんな姿は見たことがない。

 それは明日待ち構えている事がどれだけ非日常的なことなのかを伺わせる。

「でもまだ僕お風呂に入って……」

「こまけぇ事は気にすんなって」

 顔を擦りよわせて甘い声でささやく。向かう先は寝室である。

「どうせ明日終わる命かもしれねぇんだ」


「今日は二人で狂いまくろうぜ」




 その夜。

 芦並の買ったコンビニ袋の中にあったパッケージ。それは使われることはなかった。



あとがじ@2012/9/28

やべぇ。

趣味丸出しすぎて恥ずかしい感すらある。でも好きなんだよ。女師匠ってかそういう感じのが。

フェイトのあれだよ。ナタリアさんだよ。彼女のせいでこんなのを書いてしまったんだよ。

おねショタだよ! 最後のは中田氏だね! 完全に蛇足だね! 趣味だね! 最後の1行いらないよね! でも必須なんだよ! でもやっぱいらないよね


@2013/2/22

この時の自分テンション高いですねー(白い目)

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