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私のボディーガード  作者: 水無月
6/14

6:白か黒か

「袴田柊、15歳。牡牛座のA型。身長168cm、体重53kg。陸上部所属」

 ディスプレイに映し出された情報を、陸は淡々と読み上げていた。

 陸の向かい側には、ハンバーグを頬張りながらレイが座っている。

 翼が美波を元気づける為に一緒に夕飯を作って食べていったみゆきを家まで送りに出かけたあと、入れ替わるようにレイが姿を現したのだ。

「特技はマジック。結構な腕前らしいよ。鞄の中に気づかれずにカードを入れるくらい出来んじゃない? で、志望校が星条高校。美波と同じとこ。な、怪しいだろ?」

「そうやなー」

 そっけない返事をして付け合わせのポテトサラダを口に運ぶレイを、陸は不貞腐れ顔で軽く睨んだ。

「つーか、あんたは今日一日何してたんだよ。何か掴んだわけ?」

 朝ごはんを食べるまでは一緒だったが、その後のレイの行動を誰も把握していなかった。

 レイは美波の淹れてくれた温かいお茶で一息ついてから、半眼で待っている陸に答えた。

「今日は美波の周囲を離れたとこからずっと見張ってたんやけどー」

「だったら、この怪しい奴も見たんだろ?どうだったんだよ」

「んー、どうやろな?」

 煮え切らないレイの答えに、苛立たしげに舌打ちする陸。文句を言おうと口を開きかけたが、翼が帰宅したのに気付き、一度言葉を飲み込んだ。

「ただいま。って、やっと出てきたんですか、レイさん」

「よ、翼。お疲れさん」

 片手を上げて挨拶をしたレイの斜め向かいに腰をおろす翼。お茶を淹れてくれた美波に礼を言ってから、食事を終えたレイに視線を向けた。

「今日の成果は何かあったんですか?」

「どうやろな」

 言いながら、今日美波の鞄に入れられたカードを手にとって見つめるレイ。

 陸がわざとらしく大きな嘆息をつく。

「さっきからこんな答えなんだよ。こいつ、やっぱり使えない」

「ひどい言い草やなぁ」

 がくっとうな垂れた後、レイはゆるりと顔を上げて翼を見た。

「翼はあいつの事どう思ったんや?」

「あいつって、袴田柊?」

 尋ねた翼に、レイはこくりとうなずいた。

 翼はレイの隣に座る元気のない美波をちらりと見た後、ゆっくりと口をひらく。

「美波があいつと話した後からカードが届きだしたし、気配が消せる奴はそうはいない。犯人じゃない方がおかしいと思う。レイさんはそう思わないの?」

 翼の言葉に、美波は目を伏せた。それを横目で見た後、レイはぽりぽりと頭を掻いた。

「確かに、ただのガキにしては気配の消し方上手いし、尾行慣れしてるのはひっかかるんやけど……」

「けど、なんだよ」

 不機嫌に続きを促す陸。レイは視線をカードに移した。

「目が、違う」

「はぁっ?」

 苛立った声を上げた陸とは対照的に、俯きがちだった美波が勢いよく顔を上げた。

「あいつの目は、こんな事するような人間のものと違う。こんな事する奴はもっと……」

「ですよね!!」

 ずっと黙って話を聞いていた美波の突然の大きな声に、男三人は驚いて固まる。

 だが、美波はそれに気づきもせずに言葉を続けた。

「あんな綺麗な瞳してる人が、ストーカーみたいな事するわけないですよね! 今日会ったのもきっと偶然で、気配けしたりだって、きっと何か他に事情があっただけに違いないですよ!! ですよね、レイさん!!!」

「そ、そうやな」

 突如テンションの上がった美波に、強張った笑顔で答えるレイ。

 兄弟は困ったような顔で溜息をついた。

「美波、そんな都合よく偶然や他の事情が重なるわけないよ」

「そうだよ。もしかしたら、ストーカーじゃなくて、ストーカーに怯える美波に自分が力になって、美波の気を引こうっていう自作自演の策略かもよ。そしたら、ストーカーっぽい目じゃなかったとしてもおかしくないだろ」

「確かに、それならありやなぁ」

「そんなっ、レイさんっ」

 やっと味方ができたと思ったのに意見を翻され、美波は拗ねた声をだした。

 レイは美波に苦笑を向けてから、陸と翼に向き直った。

「あいつがこの件と全く関係ないとは思わんけど、やっぱり犯人とは違うと思うで」

「何でだよ」

「何でですか?」

 陸と翼が同時に問い返す。レイは小さく肩をすくめた。

「あいつは美波の鞄に一切触れてへん。それは確かや」

「じゃあ、誰が入れたんだよ。ずっと美波の事見てたなら、わかってんだろ」

「美波が学校を出てからは、誰も入れられなかったはずや」

 レイの答えに、三兄弟はそれぞれ困惑の表情を浮かべる。

「そんな……。学校を出る時には入ってなかったのは、みゆきも一緒に確認してくれたから確かなはずなのに……」

「二人で確認したなら間違いないと思うし、美波が席をはずしてる間も誰かに見張らせてたから学校でも無理なはずだけど」

 兄と姉の言葉を聞き、陸がレイを半眼で睨む。

「あんたがちゃんと見てなかっただけじゃないの? 老眼で見えてないとか」

「おっちゃんそこまで年いっとらんわ!!」

 陸に突っ込んでから、ふぅっと息を吐き、再びカードを見つめるレイ。眉間に軽く皴を寄せる。

「美波の鞄にカードを仕込む隙があったとは思えない。何か特別な方法で入れたにしても、カードは大量生産されている市販の物で何の仕掛けもなし。美波の持ち物にも怪しい物はない。美波の周りにそんな特殊技能持ってる人間も見当たらへん。あのガキも、オレをだし抜くほどの動きはしとらんかった」

「でも、実際にカードは二度も届けられたんだけど」

「そうなんやけど……」

 レイはカードを睨みながら、そっと机の上に置いた。

 美波は、気味悪そうにそのカードから目を逸らす。

「とりあえず、あのガキは犯人やない。何か事情は知ってるかもしらんけど」

「何の根拠だよ、それ。あんたが見逃しただけかもしれないじゃん。条件的にはあいつが黒の方が確立高いよ」

「おっちゃんの長年の経験による勘であいつは白」

 陸の答えに真顔で答えたレイを、兄弟二人は疑わしい顔で睨む。

「あと、美波の人を見る目も信じようかなーとか」

「美波は人を疑う事を知らないから、悪意ある人間を見抜くのには当てにならないです」

「そうだよ。あんたの勘だって信じられるか! そもそもあんた自身が信じるに値する人間か微妙なのに!!」

「ひどいっ、陸っ!!」

 しくしくと泣き真似を始めたレイを、冷たい瞳で見つめる陸。

 そんな弟を困ったような顔で見つめつつ、美波は机に突っ伏しているレイの背中にそっと触れた。

「私は、レイさんを信じます」

「美波……」

 翼が渋い顔で名前を呼ぶ。美波は微笑を返した。

「私だけじゃなくてレイさんもそう思うなら、きっと彼は悪い人じゃないよ。私はそう信じる」

「でも……」

「疑うより、信じたいもん」

「あーもう……」

 陸と翼は溜息をつきながらも、落ち込んでいた美波が真っ直ぐな瞳に戻ったのを、愛しそうに見つめた。それから、二人同時にまだ机に突っ伏しているレイを睨む。

「これで彼が犯人だったら美波がより傷つくのわかってて言ったんですよね?」

「責任もって、犯人割り出せよな! 身も心もしっかり守ってもらうからな!!」

「わかっとりますー」

 のそりと顔をあげ、睨む兄弟に返事をするレイ。それから身体を起こし、美波を見つめる。

「あいつが犯人ちゃうって事は、他に誰かおるって事や。おっちゃんも全力で守るけど、美波も油断したらあかんで。この手の輩は、だんだんとエスカレートするからな。そのうち、メッセージをよこすだけじゃすまなくなる可能性が高い」

「はい」

 緊張した面持ちで返事をした美波に、レイはニッと笑顔を返す。

「ま、その前に捕まえる予定やから、怖がらなくてもええけどな」

 言いながら手を伸ばし、美波の頭を撫でようとするレイ。

 が、その瞬間に机を乗り越えた陸がレイの腕を蹴り上げる。

「汚い手で美波に触るなーっ!」

「何でっ!? おっちゃんの手、汚くないで!!」

「今、美波を見る目に下心があった!!」

「んなもんないわー! 美波は可愛いけど、下心とちゃうー!!」

 目の前で繰り広げ始めた見慣れた陸とレイのやりとりを最初はきょとんと見ていた美波だが、少ししてクスクスと笑い始めた。

 呆れ顔で翼が止めに入るまで続けられた二人の攻防に、すっかり肩の力が抜けたのだった。


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