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セキュリティ


「和、体調大丈夫?」



教室に戻った和が最初に聞いたのは、切刀のそんな心配した声だった。



「えーっと……あんまり大丈夫じゃない、かな」


「なら寝てないと、保健室戻ろうよ、送っていくから」


「いや、保健室の先生から帰るように言われたからさ。悪いけど、これ先生に渡しておいてくれない?」



あらかじめ考えていたセリフと共に、柿音によって作られた偽の紙を渡す。


教師のサインと偽装された症状が書かれているそれを切刀へと渡し、机の中身を急いでカバンへと戻す。



「熱があるのに帰れる?……送ろうか?」


「いや、帰る位なら大丈夫、それに切刀は授業があるでしょ」



だから一人で、と言葉を続けながらカバンを掴み振り返れば、彼女は唖然とした表情でこちらを見ていた。



「……どうかした?」


「い、今……切刀って……」


「え、あ、うん。言ったけど……どうかした?」



そんな言葉に彼女は少し固まり、そして顔を真っ赤に染めた。


何故、名前を読んだだけで顔を真っ赤にするのだろう、そんな疑問を和は考える。


彼女と会ってからこれまで、ずっと名前で呼んできているというのに。



――――――ん?



ふと、何かが頭の中をよぎった。


とても大事な何かを忘れているような感覚、重要な事を見落としている感覚。


しかし考えても思い出せないので、和は思いすごしだろうと、考えるのをやめた。



「それじゃ、よろしく切刀」


「え……あ、うん!任せといて!」



嬉しそうに、しかし恥ずかしそうに言う彼女に違和感を感じつつ、和は急いで教室を出た。


教室の窓から見えた校門、そこに立っていた人影を待たせないために。









【セキュリティ】










和が校門へと着いた時、彼女は少し真剣な顔をしながら電話をしていた。



「本気で言ってる?衝撃強いだろうし、万が一もあるかも……分かった、それじゃあ取り敢えず連れて行くけど、何かあったら……うん、ちゃんと注意しておいてね」


「……あの、先輩?」


「……ごめん、予定変更、―――敵を倒しに行きます」


「………へ?」


「今近くにセキュリティ……つまり敵が出てるんだってさ」



だから悪いけど、実践見学って事でお願い。


そう言って彼女は和の手を取り、走り出す。


急に掴まれた手の柔らかさに少しドキリと感じ、そしてすぐ事の重要さに気づく。



「―――実践見学って何ですか!?」


「その名の通り、実践を見学してもらうんだよ!」



そう言いながら彼女の脚は少しずつ早くなり、ついに和の限界を超えた。


余裕を持っていた腕は完全に伸びて和を引き、それに縋るような形で和も精一杯走る。



「先輩……早い……!」


「ごめん、もうちょっとだけ耐えて!」


和は運動が苦手なわけではない、寧ろ得意な方だ。


それなのに、彼女はそんな和の全力疾走を以てしても追いつけない速度で軽々と走ってゆく。


彼女の手に錘のように繋がっている和の体を易々と前へと動かし、汗一つ、息切れ一つ起こさずに走る。


ここまで変わるのか、そんな驚愕。


そして、少しズルいと非難が心をよぎる。


だから少し意地になり、走る速度を上げた。


柿音に負荷を書けないよう、引っ張られないように走った。


そして、



「お、まだまだイケルのかな、―――じゃあもうちょっと速度上げるよー」


「え、いや先輩ちょっと待って……!」


「いっくよー!」












そこは、学校から数キロ先の工事現場だった。



「いやー、思ったより早く着いたね、―――大丈夫?」


「……もう、……無理」


「……あー、うん。ちょっと早すぎたかな?」



―――早過ぎたなんてレベルじゃなかった。



思えば途中で意地になったのが原因だろう。


もう少し、そう言った彼女はその後も少しずつ速度を上げ、そして最後には完全に引っ張られていた。


脚も地に着いたと思えば既に浮いていた、転ぶ事を恐れて一歩一歩集中して進むのが限界だった。


あの速度で転べば簡単に骨折出来るだろうレベル、今思い返すだけでも寒気がする。


本当ならば嫌味の一つでも言ってやりたいところだが、今の和は呼吸するだけでも精一杯だった。



「さて、そろそろ来るかな……?」



急に柿音が呟いた言葉。


それに反応するよりも早く、それは来た。









それは狼のような何かだった。


はっきりと断言出来ないのは、その見た目があまりにも異様だったから。


その右目は機械で出来ていた、その左目は赤く染まっていた。


その牙は口に収まらず、その爪は鋭く細く刀のように伸びてい。


全体を白い何かで覆われ、毛は見えない。


そんな存在を狼とは呼べないが、知っている生物の中では狼に一番似ていた。


積まれた鉄パイプの裏側、掘り返した土砂の後ろ、放置された土管の中。


その三ヶ所から現れた三頭は威嚇のように唸り、そして和たちを囲うように動き出した。



「……先輩、これ何ですか?」


「この世界のセキュリティ。バグデータを消去させるフォーマットシステムの端末。――――――つまりは敵だよ」



そんな彼女の言葉に呼応するように獣が吠える。


機械的で、しかし感情の篭った雄叫び。


その感情は殺意で、悪意で、敵意。


その目に感情は映らないが、しかし突き刺さる程に感じる負の感情。


得体の知れない恐怖が心の芯から溢れ出る。



「私たちみたいなバグデータを消す存在だから、今の君からすると凄く怖いよね。―――すぐ終わるからちょっと待ってて」



そう言って彼女が前に出る。


一歩、二歩、三歩。


カツン、カツン、と彼女のブーツが音を鳴らし―――



―――ブーツ?


茶色の革、流れる紐先、少し厚みを帯びた靴底。


それは正しくブーツだ、見間違える事がない美しいフォルムだ


しかし、―――彼女は何時からブーツを履いていた?


学校を出るとき?―――NO、彼女は普通の革靴を履いていた。


敵が出てきたとき?―――NO、彼女はその時も革靴だった。


では、一体何時履き替えた……?



そんな答えは、目の前で記された。



彼女のスカートがブレた。


ピント的にでも、視界的にでもなく、存在的に。


そして、―――それは一瞬の間に、レギンスへと変わっていた。



「……何だよ、これ」



理解しようがない。


そんな感想を口にするのと同時に、次は彼女の上着がブレた。


靴、スカート、上着、次々と衣服が変わってゆく。


そしてそのブレは彼女の右手へと集まり、―――形を成した。




リン、と美しい音を靡かせ、それは彼女の手の中に身を収めた。



――――――それは刀だった。



光を反射させる綺麗な表面、精錬された滑らかな反り。


彼女の手から僅かに見える赤い柄。


銀と赤、そして軸の黒で作られた美しい刀。


それは和の位置からでも良く見え、そして心を奪った。


心奪われ、焦がれ、そして求めた。


心の中の何かがアレを求め、あの境地を求めた。



そんな事を知ってか知らずか、彼女は刀を振り上げる。


そしてそれは、―――飛びかかっていた一匹のセキュリティを切り裂いた。



「――――――っ!?」



何時の間にか動いていたセキュリティに驚き周りを見渡せば、和達を囲っていたセキュリティは行動を変え、柿音一人を目標としていた。


グルルと唸り、爪を鳴らし、二頭で彼女を囲み動きまわる。


そんなセキュリティの行動に動揺を表さない彼女に痺れを切らしたのか、残っていた二匹は同時に左右から飛びかかった。



そこからは一瞬だった。


左右からの同時攻撃に彼女は前へと一歩進んで避け、そして後ろへと向かい刀を振るう。


一瞬消えたかと思う速度で振られた刀は一頭の頭を切り落とし、そして二頭目の体をも二つに裂いた後、その刃を止めた。



「……凄い」



思わず口から溢れる感嘆の言葉。


セキュリティの残骸が青白い光へと変わっていく中で一人、刀を右手に持つ彼女は美しく、凛々しく、そして少し恐ろしくも思えた。








ハッピーニューイヤー


多少とは言え戦闘シーン、楽しかったです。


結果、投稿日を忘れていました・・・・・


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