リアルワールド
それは月の綺麗な暗い夜だった。
「月見里和……で、合ってるよね?」
電灯の光を浴び、その茶色の髪の毛を風に靡かせながら現れた彼女は言う。
それは質問というより確信で、まるでコチラを知っているかのような言動だった。
しかし、俺は彼女を知らない。
身に纏う制服は確かに同じ高校の制服だろう。
しかしその姿に見覚えはなく、この時間に制服という事も怪しさを引き立てている。
無反応を肯定と受け取ったのか、彼女は笑顔で頷き言った。
「悪いけど、一回死んでもらえるかな?」
そう言って彼女は笑い、その手に持つ拳銃の引き金を引いた。
「ようこそ、最低最悪な現実へ」
【リアルワールド】
目覚めは最悪だった。
体が重く、足を上げるのでさえ精一杯。
頭痛がする、耳鳴りが激しい、鼻に違和感、目の奥が痛い。
五感全てが異常を訴え、動くこともままならない。
それでも、と、無理やり体を起こし、その手が冷たい金属の感触を訴えた時、漸く和は現状を理解した。
「どこだよ、ここ……」
そこは大きな部屋だった。
金属的な診療台、小刻みにテンポを刻む機械。
そして、銀の拳銃と黒い弾丸。
「……………」
その拳銃は机の上に置いてあり、鈍い輝きを見せている。
その銃弾は黒く染まっており、薬莢と弾丸の区別もつかない。
まるで飾り物のような色合い、合理的に考えられていない存在。
モデルガンのようなそれは、しかし本物だという確信が消えることはない。
『悪いけど、一回死んでもらえるかな?』
彼女の手の中で電灯の光りに輝く銀色の拳銃。
その銃口からは確かに弾丸が飛び出し、俺の胸を穿っていたのだから。
「俺、死んだよな……」
死んだ。
そう、死んだのだ。あの弾丸は確実に当たっていた。
肋骨の中心、心臓のある位置に当たり、血が噴出したのだから。
助かれるなんて思わなかったし、死ぬのが当然だと思った。
なのに、
「……何で」
―――何で生きてる?
そんな呟きに反応するものは誰も居ない。
胸元を見ても傷一つない。
寧ろ綺麗に引き締まり、前よりも良くなっている。
それなのに重く、まるで重度の怪我を負ったかのような感覚。
手を動かす事がこんなにも辛く感じたのは初めてだ。
「……ホント誰か説明して」
消えぬ頭痛への苛立ちを言葉にして吐き出した。
そして、
「一体何の説明をして欲しいのかな?」
自分の後ろ、視界に入らない所から声がした。
その声を聞いて、痛む体を無理やり動かし振り返る。
女性の声、それも歳の若い、同年代と思われる声だった。
しかも最近聞いた、聞き覚えのある声。
そう、まるで―――
「どうも、―――殺害者でーす」
振り返った先には彼女。
俺の名を呼び、俺を殺した彼女がいた。
ドクン、と心臓が大きく跳ねたのが分かる。
カツン、カツン。
歩く彼女の足が硬い音を鳴らしながら進む。
「それで、一体何から知りたい?」
気軽に、まるで友人の様に話しかけてくる彼女。
何か言葉を返すべきなのだろうが、頭の痛みは脈を作りながらも頭の回転を邪魔する。
一体何をしたらいいのかも考えられず、ただ冷たい感覚が体を包み込む。
死への恐怖というのは、つまりこういう事なのだろう
「ありゃ、返事が出来ない?……困ったなぁ」
カツン、カツリ。
気が付けば彼女は手の届く距離に立ち、こちらを見ていた。
ここまできて漸く、和は彼女を詳しく見ることが出来た。
茶色い癖っ毛は艷やかで、知的な黒い瞳に紅いメガネ。
細くしなやかな足や綺麗な腕、健康的な体。
可愛いというより美しいその顔はしかし、殺された為か恐ろしさを感じる。
「んー、時間が勿体ないし自己紹介でもしておこうか」
その顔に笑顔を浮かべ、彼女は言った。
そして動けない和を放置して話を進めてゆく。
「一之木柿音。君と同じ同紋高校2年、つまり君の先輩」
敬語は使ってね。なんて気軽に言い彼女は銃を手に取り、そのまま銃の置かれていた台の上へと腰を下ろした。
そして銃を手馴れたように扱い、中から三発の銃弾を取り出した。
黒い三つの銃弾、それを指に挟み目の前へ持ってくる。
その弾丸はやはり黒く、そして弾丸と薬莢の区切れは無かった。
弾頭も薬莢も存在しない、まるで玩具の様な銃弾。
それなのに彼女はそれを手元で軽く、しかし集中して扱う。
まるで爆発物を叩いてスリルを楽しむかのように、緊迫感を楽しむかのように彼女は手の中で銃弾を転がす。
「これ、君に撃ち込んだ弾なんだけど。普通の弾と違うのは分かるよね?これは―――」
ふと、彼女は言葉を止め俯き、少し考える素振りをした後、その銃弾を机へと置いた。
「今これを話し始めると、多分途中で途切れちゃうから、―――続きは君が起きた後でね」
何が、なんて聞く必要は無かった。
聞く必要なく、理解した。
話をしている最中から強くなっていた頭痛が急激に酷くなり、突き刺さるような痛みが体中を襲う。
叫びたくほどの痛みを受けて、しかし体は動かず叫びを上げない。
吐け先は無く、転げまわる事すら出来ない体は感覚が鋭くなりし、そして痛み増大する。
こんな状況で聞く必要も、聞く余裕もなかった。
そして痛みの強さは和の限界を超え、意識は途切れた。
満を持して!
↑悪い意味で
初めての方は初めまして。
懐かしい方はお久しぶりです。
そして、自分のサイトへ来てくださっていた方々は……お待たせしました!
私こと断耶初オリジナルになります。
何分受験生、そしてオリジナルという初挑戦ですので更新は遅く、ひょっとすると変なところ、違和感を感じる部分などがあるかもしれませんが、指摘があれば考え、そして直していこうと思います。
この断耶初挑戦、何卒優しい目で眺めてやってください。