プロローグ
「
かつてもし、
僕が
ちゃんと覚えているなら。
僕の生活は祝宴で、
あらゆる心が、
あらゆる酒が、
流れていた。
そう詩人は言った。
それより前には雲があった。
風に追い立てられながらも、
山並によって
かろうじて地平線上にすがりつく、
黒く、
重い、
雲の群れ。
ある時はそれは
柱となり、
人々を導き、
またある時はそれは
人と馬のあいのこを
生んで、
ずっと後になって
べつの詩人は言った。
ぼくは、
雲が好きなんだ……
流れてゆく雲が……
ほら、
あそこを……
あそこを。
また別の時、
絵一指矣異々に
雲から現れ、
営地四囲口々に
水路図をひろげる
手があった。
誰かの声がした、
というのは気のせいで、
僕はひとりで図書館に来ている、
ひとりで。
ただぼんやりと、
何も考えずに
曲線を描き続ける。
すると、
出来上がった絵は
自然と
エロティックになって、
ああ、
何も言えなかったあの朝、
僕は密かに雲を呪った。
……風を感じたい、
ここは息苦しすぎる、
そう思った。
だけど、今日は風が吹いてなかった。
でもだからこそ、
夕方を待って、
夜を待って、
明け方を待とうと今は思う。
明日になったら背伸びしよう。
そのために今日は欠伸しようか。
そうして
けっきょく
今日の僕は
昼寝をし、
明日の僕は
どこに行こうか
考えている。
考えている。
風の降る世界の下で。