「明日のために」
目が覚めた時、僕は見知らぬ世界にいた。
一見しただけなら元の世界とそう変わらないのだけど、決定的に違うところがある。
見知ったはずの友達が、先生が、家族が、銃を手に取り、人を、×していた。
彼らは、口々にこう言う。
―「明日のために」と。
何故か人を×すことでしか生き延びられない、理不尽な世界。
自分が生きるために、彼らは他人を×す。
それを僕は、認めることができなかった。
他人を傷つけるくらいなら、自分一人が犠牲になった方がマシだ。
当然のようにそう考え、宣言する。
「僕は、誰も傷つけない!
誰かを犠牲にして手に入れた明日なんて、僕はいらない! 」
――でも僕は、世界に対しても、
自分自身に対しても、
どうしようもないほどに、甘かった。
宣言した翌朝、僕は警察に連行された。
そこで僕は、一人の少年に出会う。
彼は、元の世界では、僕のクラスメイトで、いじめられっこだった。
そんな彼は、右手にナイフを持っていた。
その足元では、朱い花が、いくつも咲いていた。
何故だろう、この時僕は、彼が「生きている」と感じていた。
結局、直後に襲って来た猛烈な吐き気で全部流れ出てしまい、理由はわからずじまいだった。
警察では、拳銃を渡されただけであった。
その夜、僕は夢をみた。
僕は元の世界で、クラスメイト達と笑いあっていた。
バカなことをやったり、抜き打ちテストでひいひい言ったり、
それはもう、平和そのものだった。
……はずなのに。
僕はそれを、平和とは思えなかった。
嘘で覆われた、ハリボテのような世界。
そう、思ってしまった。
夢から覚めた時、僕は拳銃を握ったまま寝ていたこと、枕元に誰か―彼が立っていることに気付いた。
「俺は、明日が欲しい」
「だから、人を傷つけるの?」
「そうだ」
「他に方法は?」
「・・・ない」
会話することに、意味はなかった。
彼はすぐに動き、僕を×そうとする。
それに僕は、とっさに銃を向け牽制する。
「・・・撃たないのか」
「うん」
「お前、死ぬぞ」
「うん」
「死にたいのか」
「・・・」
答えられなかった。
死は、怖い。
この世界に来て、宣言したことを思い出す。
・・・あぁ、僕は、こんなにも。
「弱かったんだ」
諦めに似た、悟り。
それを得た瞬間、僕の右手に、力が籠る。
……一発の銃声が、空気を震わせた。
目の前に広がる光景を自分が作ったと思うと、全身が震える。
何故かはわからない。
ただ一つ、わかることは。
右手には、一丁の拳銃があって。
もう、恐れるものなど、どこにもなかった。
舞台の脚本用に書いたプロット掌編です。
本当は他にもキャラが出てくるのですが、
まとめてみるとこうなってしまいました。