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矜持と

かなり間が空いてしまいました。

これからゆっくりとではありますが復活いたします。

どうか見捨てず、今後もよろしくおねがいいたします。


「今からすぐに入り込むのですか?」


「かえってその方が騒がれないでしょう。それに、案内人がこれならばその方が良いと思います」


「そうですなぁ」



翌日の昼過ぎ、軽く昼飯を取ってからウィルキンズの酒場に来たアルトは、これからすぐに教会へ向かうと言い放った。もっとも、ウィルキンズもそれは見越していたようで、その言葉に驚いた様子は無い。


逆に、レーンが案内人と聞いたアルトのほうが驚いた。レーンのほうを見て、ため息に近いものと諦めのような視線を発した。普段のレーンならその視線に対して一言二言あっただろうが、先日の恐怖を思い出して思いとどまった。


しかしながら、その後の話の中で「これ」呼ばわりされたのは流石にカチンと来たようだ。


「これはないんじゃないですか!!」


「そうか…」


軽く流そうとしたアルトだったが、何かを思いついたように言葉を止めると、レーンの方へと向き直り大仰に謝り始めた。


「そうか、それは大変失礼をした。貴方も一流だと自負しているわけだ。それはとても心強い、ぜひぜひ勉強させていただこう。玄人なのだろう?これと、そう呼ばれて怒るような、低い扱いに誇りを損なうように感じる精鋭なわけだ。すまなかった、誠意を持って謝ろう」


「え、うえぇ」


「どうか話に加わり案内人としての君の見解を聞かせてくれ。どういう計画を立てている?状況の説明をしてくれ。予定は?時間はどのくらい必要だ?発見された場合の退却路や行動については如何考えている?さぁ、教えてくれ」


「え、え、あ、えあ」


「さぁ、さぁ、どうした?」


「え、その」


「許してあげてください。その娘にはちと厳しい」


ウィルキンズが顔だけは笑みを作って止めに入る。その視線はレーンに対して厳しいものではあるが、冷たいものではない。とは言え、レーンがその視線に気が付く様ならアルトはこんな行動に出なくてすんだだろうが。


「そうしましょう。仕事をする上で必要と思いましたが…子猫のように怯えられては。それに、萎縮してしまっては使いにくい」


「本来この娘に向いている世界ではありませんから。しかし、若さゆえに勢いだけで行動するのも特権です。年長者は笑って済ませるのも良いのではありませんか?」


ウィルキンズだけが、その時見返したアルトの視線に本気の殺気や怒りがこもったことを見抜いた。しかし、その意は一瞬で隠されてしまう。


「若者の蛮勇や勢いで本人が傷つくのも、あるいは死ぬ事でさえ本人の権利と言えるかもしれません。しかし、その蛮勇や勢いが他人を殺し傷つけた時、それは権利の言葉で済ます事が可能でしょうか?傷ついて、そしてその傷を癒す手段さえ無くすのはその者自身です。それも権利のうちなのでしょうか?」


「ふむ」


「痛みを知ることも権利です。しかし、その痛みが誰かに波及した時、それは…」


言葉をかみ殺すように仕舞い込んだアルトが繋げたかったのは、責任と言う言葉ではなくもっとも単純な痛みを表すものだろう。それが分かったからこそウィルキンズもそれ以上言葉を逸らす事をやめた。


「申し訳ない。身内に対して私は甘かったようですね。あるいは冷酷だったのかもしれません、誰かに対して冷たかったようです。教育者には向いていませんなぁ」


「いえ、言い過ぎました。忘れて下さい」


誰も言葉を紡ぐことなく、しばらく部屋には静寂だけが存在した。


ウィルキンズは少し悲しそうに目を細めると、一人ゆっくりと語り出した。


「レーン。もしも貴方が彼の必要とするだけの能力を持ち、私が信頼をおいているならば、彼の言葉を私は訂正したでしょう。


しかし私はそうしなかった。


貴方にはそれだけの力が無いと言う事を知っていたからです。


よく考えて見なさい。貴方と彼は対等な関係ではありません。私と貴方も同様です。今まで私は甘すぎた、そして貴方について関心も低かった。私にも反省すべき点はあります。それでも貴方に言わねばなりません。


平等な人間などいません。若さは時に差を見え辛くします。しかし、それは見えていないだけです。貴方はアルトさんに下に見られて当然なのです。それを悔しく思うのは勝手ですが、今の貴方にその評価を覆す事はできません。


覚えておきなさい。


能力がない事、それ自体は罪でも悪でもありません。


しかし、必要な時にその力を十分持ちえていないという事には、一片の利点すらも見出せないのですよ。


だから、人は自身を磨くのです」


淀みなく語る彼の言葉には、経験に重厚で硬く裏打ちされた物があった。それをレーンも素直に受け入れる事ができた。


実際の所、理解できないのなら今後一生彼の世界には関わらせてもらえないと言う確信にも似た直感を彼の視線から受けていたからでもある。


「そこまで言わせる心算は無かったのですがね。それに、もう少し痛い目を見ると思いますし」


アルトはばつが悪そうに頭を掻きつつ椅子に座りなおす。そして泣きそうになっているレーンの方は見ないままで言った。


「もともと浮付いていたのを諌めようとしただけですよ。どうせ、彼女にまでこそこそと這い回るように潜入させる気なんてなかったんでしょう?同行者や協力者ではなく、案内人なのだから。まったく」


「おや、気が付いておられましたか。この()には今までにも何度か使いに行ってもらっています。そのときと同じように堂々と面会を願えばよいのですよ。あとは、貴方がついていけばいい。あと、彼女にも報酬を出す以上は責任が発生します。その辺りは任せますよ」


ウィルキンズはとてもにこやかに笑った。アルトは、やや嫌そうな顔つきになる。


「そんな所でしょうね。大体思っていた通りですよ。あと、面倒ですね」


「ですが、貴方なら何とかするでしょう」


「少々不快にも思っていますし、あまり手加減は出来ませんよ」


「よろしいでしょう。で…何時分かりました?」


「昼に来いと言われたからですよ。後はさっきも言いましたが案内人と言っていたからですかね」


「そ…それだけの事で、分かるの…」


それまで黙って、落ち込んだまま二人の話を聞いていたレーンが漸く口を開いた。


「後は目だな」


「目?」


アルトは大きくため息をつくと、レーンの方へと向き直りやや不機嫌そうに言った。


「俺の周りにいた年寄り…いや、若いやつも含めてからかうのが好きな奴等が多くてな。そんな時の奴らの目とウィルキンズさんの目が似ていた。底の方でチラチラと好奇心と悪戯心と、後は良く分からないものが見え隠れする目だ。覚えておくと良い……ああ言った目をする手合の相手は苦労をする」


「うん、伯父さん偶に変な目をする。いやな目じゃないけど、なんだか引いちゃうような目」


「その感覚を覚えておくと良い。違和感を大事にするんだ。勘でしかないと言われればそこまでだが、勘は直感だ。数々の経験や行動の上に成り立っている。まず蓄積する事だ。あんな事を言われないようになりたいならな」


パンッパンッと拍手が店に響いた。手を叩いたのはウィルキンズだ。


「私よりも、余程良い教師ですねぇ。如何です?ついでにその()を弟子にでもしてみませんか?」

 

「そう言う趣味はありませんよ。人を育てるのも……柄じゃない」


「そうは思えませんが。そうですか……でしたら嫁にしては如何です?少々足りませんが可愛らしいですし料理も上手いですよ」


「なぁっ!!」


レーンは顔を真っ赤に染めて息を荒げたが、アルトの方はと言えば心底如何でも良さそうにレーンを見た。視線が会ってしまいさらに慌てるレーンを見て、アルトはため息と共に指を鳴らした。パチンと言う音にレーンがビクッと反応すると、アルトは淡々と言った。


「馬鹿馬鹿しい話に反応するものじゃない。過剰に反応するからからかわれるんだ。普通に面会に行くのなら、その違和感の塊の服装では駄目だ。着替えて来い」


「はい!」


ドタドタと足音を立てて、裏口から家へ着替えに帰るレーンを見送ってアルトはため息をついた。


「変わった服装で。ご指示で?」


「まさか、あの娘の変な憧れでしょう。なんと言いますかな、闇に隠れて生きるとかそう言ったものに対しての変な憧れと言いますか。そう言ったものの発露でしょうな」


「その発露が真っ黒な布を体に巻きつけた格好になるんですか…悪目立ちもいいところです」


「おや?貴方の言っていた格好もたいがいですよ?悪目立ちという意味では」


「あれは万が一発見された時に囮に使うように態と目立つ格好、判りやすい格好のものを頼んだんです。当たり前でしょう」


「まぁ、あの娘にはそんな事は分かりませんからなぁ。彼女なりに考えた格好だったのでしょう」


「あれが…」


「ええ、あれが」


アルトは理解できない思考形態を想像して首をかしげる。しかし、早々に投げ出して首を振った。


つや消しの黒で染めたサラシか包帯を手首から足首まで巻きつけた格好に、なぜか赤い色の仮面を持った格好。少年少女に向けて作られた歌劇の怪盗などが想像の元かもしれない。


「分からない」


「まぁ、私も理解しきる事は出来ない領分ではありますが…少しだけ想像は出来ます」


「何です?」


「自分で考えなさい」


アルトと目があったウィルキンズはとても良い笑顔をしていた。


アルトは少しばかり背中に寒いものを感じた。もっとも、これからもっとも大きな吹雪に晒されるのは、アルトではなくレーンだろう。ウィルキンズは、そもそもその嵐を作る側の人間だ。傍でにこにこと眺めている。


「さっきも言いましたが、そう言う目はあまり好きじゃありませんよ」


「先達の特権というものです」


やはりウィルキンズは、にこやかにアルトの言葉を切って捨てた。



読んでいただきありがとうございます。

諸事情によりかけぬ日が続き、ようやく時間ができて書いてみたら書けなくなっていました。

リハビリも何とか形になったので、再開いたします。

次の更新は、今月中には何とか。

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