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連鎖と廃墟と転生輪廻

作者: マレ・シルワ


 ナザレ?あぁ、あの死にたがりか。


.




 あぁ月は今日も死に顔を晒している。


   青いな……


蒼いな……

         蒼白な……


俺もあんな風に

      死に顔を

         晒すのかね?


 ……死にたい。

 …………消えてしまいたい。


 死にたい。死にたい、死にたい、死に、たい死、にたい、死にたい死に、たい死にたい死にた、い死にたい死、にたい死に、たい、死にた、い死、に、たい死、に、たい死にたい……………………!


 あぁ…………、


 あぁ…………、


 死にたい……――――――――――生きたく、ない…………




















 骨が砕ける音がした。

 肉が分裂する音がした。

 血管が爆発する音がした。

 脳味噌が消える様な音がした。


 ――俺は同じ事を何度も何度も何度も何度も繰り返していた。





 †天体望遠博物館跡実験究室


 曰く、『天体望遠博物館』と呼ばれた施設は数多の実験が行われていて、世界を誇るほどの大きな博物館であった。然しながら、天体望遠博物館はある日大爆発を起こした。施設の有った周りを残して、今では『名無しの国』と呼ばれる国(その間約千キロ)辺りまでのエクリクスィ大陸(その地域一帯の呼称。川によって別れている)が更地どころかごっそり無くなっている。名無しの国も国土の半分が無くなった。世界のシンボルが大陸を半分消し去ったのだ。――天体望遠博物館に訪れていた人も含め数多の被害者をだした、余りに悲惨な事故だった。


「――――お前は」

 彼女は訊いた。全ての原因を作った彼女は眉を伏せ。

「お前は何で生きてるんだ?」

 彼女は訊いた。悲しそうに悲しそうに。自分の存在を認められない奴のように。

 俺は答える。

「俺は――死にたいのに、何度死んでも、転生……というのか……、そう転生!何度死んでも転生して消えて亡くなりたいのに出来ないのさ。俺自身は……死んで消えて亡くなりたい。だから俺は死ぬ為に生きてる」

 俺はストレートに自分の望みを伝えた。……俺は死にたいだけなのに。

「…………そうか……。私は昔、一度だけ変わった奴をみた」

 彼女は話を変えた。

「……彼奴は確か私と同じ技術を使って作られた機械人形だった……気がする。私を見て何て言ったと思う」

「さぁ?」

 想像つかないので適当に言っとく。「『お前が好きだ』とか?」

「彼奴も女だっての気色悪い。……彼奴はな『羨ましい』と言ったんだ。『感情を持つお前が羨ましい』だとさ」

「羨ましい……」

「そう。変わった奴だったよ」

 確かに変わった奴だ。

「もう一度訊く。ナザレ、何でお前は生きてるんだ?」

 俺は答えなかった。



 †廃墟ラズヴァリーヌィ


「『見なさい、見なさい。今宵も満ち月が綺麗ですよ。絶好の月見日和でしょう。

 聞きなさい、聞きなさい。草木の音を、妖しの声を

 水面の囁きを、妖しの囁きを。

 風の音を、死者の叫びを

 月の満ち欠けの如く物は全て諸行無常

 死にひれ伏すは生に依存するにおなじ

 転生の無駄な蘇生の成れの果ては我等

 死を枯渇するは生に生様を語るに同じ

 正義を行いたくば悪事を知り尽すべし

 死を恐れるならば今すぐ死するがよし

 長生きしたくば他者に憎まれるがよし

 死にたいならば今すぐ死ぬべきだ――』」



 †プスタターシィーラの丘

  カニェッツ寺院礼拝堂


「フィドゥーキア。久し振りだな。何度目だ?」

「また死ねなかったのかいな。382回目じゃ。つくづく運の悪い奴じゃのー」

「まったくだ」

「ナザレ、お前はそんなに心残りがあるんか?」

「あるわけないだろ」

「まぁそう怒るなナザレ・コルムバ・ムータティオよ。一度マトモに生きてみたらどうなんじゃ?死ぬ気しかないから何度も転生するんじゃないかのー?」

「……そうなのか?」

「じゃないかのー?」

「だが……俺はただ死にたいだけだ」

「それが悪いんじゃよナザレ・コルムバ・ムータティオよ」

「ふむ……スケーソル・パーストル・フィドゥーキアも大変じゃのー」

「誰のせいでだ!」



 †アジーン岬

  ヴェリェーミア灯台187階


 俺が会ったのはヴェリェーミア灯台一八七階の妖女ウーヌム・オクトー・セプテムだった。セプテムは会うなり、また死んだのか?と訊いた。俺は当然、また死んださ、と答えた。

 セプテムは呆れたように言う。もう死ぬのをやめたらどうだい、と。俺は、結局は死ぬじゃないか、と答えた。結局の所生きているのだから死ぬのだ。不死身になれと言っているのか。

 ウーヌム・オクトー・セプテムよ。俺は何を言われても死ぬのを止めない。そう言ったら馬鹿野郎と殴られた。痛みはさほど感じなかった。


 †旧エクリクスィ大陸

  孤島群テストゥード島


「誰だ?……ナザレか?」

「おう、グルース。久し振りだな。取り合えず槍を下ろしてくれ。警戒しすぎだ。……この姿で見るのはお初か?」

「お初にお目にかかります、だ」

「お前は何時来ても同じだなー」

「ったりまえだよ!テストゥードは長生きなんだぜよ?」

「……言葉があやふやだな……」

「何の用?またラズヴァリーヌィに行くの?」

「そうだ。交通網がないから不便なんだよなぁ……」

「ふーん。じゃあな」

「おぅ」



 †独裁国家グニェーフ


 レベリオ・カプト・カープスとユラーレ・イレクス・インシグネは相変わらず仲良くやっていた。

「よっす、おっちゃん」

「ひっさしっぶりーっ!叔父さーんっ!」

「うっす、レベリオとユラーレじゃねえか」

 俺はそう言い腰を屈め二人の頭を撫でる。

「ってか俺はおっちゃんでも叔父さんでもねぇよ」

 今は肉体的に女だし。

「でもおっちゃんはオレよりずっと昔から死んでるんでしょ?」

「まぁな」

 ざっと五百年。まぁ、確かにおっちゃんの年(おっちゃん処か長老を凌駕するレベルだぞ)と言われても文句を言えない気がする。

「また死にに逝くの?」

「そうだ。また革命起こしたりドパンチするんなら俺に言えよ」

「へーい」

「はーい」



 †ヴォルク・リェス(狼の森)岬旧上空海底都市スミェールチ神殿付近


「いるか、ベースティア」

 返事がない。

「いるか!ベースティア!」

 やはり返事がない。

「いるか――」「こっちだ馬鹿野郎!」

 三度目でやっと返事が返ってきた。旧上空海底都市のスミェールチ神殿を見に行ってたらしい。

 こいつ――というかこいつの家系はアクルト(陸で狼、水中で鯨の姿をとる人喰い獣)の様に陸で人狼とも人間ともつかぬ姿をとり水中で蹼を持つ狼や犬の姿をとる“妖怪”だ。

「よぉベースティア。久しぶりだな。お前がその姿なのは更に久しぶりだ」

「あぁ。なんやかんやで一番楽なんだ、この状態が」

 半狼半魚のベースティアは前足をあげながら言う。

「乾かしてくれ」

「……しゃーねーな」

 俺はベースティアと家に行くと『どらいやー』たる物がある部屋にタオルを持っていく。

「おーそこそこー。あったけー。あーもうちょい右ー」

「我が儘な奴だ。お前一人の時どうするつもりだ……」

 相変わらず呆れる奴だ。

「さんきゅー、あったけー」

 いつの間にか戻ったベースティアは暢気に言う。着込んでいるのは相変わらず真っ赤なキモノだ。

「着やすい脱ぎやすい直しやすい作りやすい。いい服だぁー」

 らしい。まぁ確かに帯を結ぶ以外は解りやすい。しかしそんな簡閲な中でありながら締まっている感じがいい。

 ベースティアは天パの赤毛を弄りながら言う。

「また死にに逝くのか?」

「まぁな」

「ふーん……」

 ベースティアは歯切れ悪く言うと躊躇いつつこんな事を言い出した。


「ナザレ、お前次こそ死ぬぞ」


「へー?」

「マジだ。死ぬ人間と同じ匂いがする。そうだ、お前の求める絶対的な死の訪れの匂いだ」

 珍しい。ベースティアが真顔なんざ。

「そうか」

「遺書とか書いた方がいいぜ?」

 ベースティアはそれだけ言うとソファで眠りこけてしまった。

 俺はとっとと出ていった。



 †廃墟ラズヴァリーヌィ


 だから、俺は来た。

 ひょおおおお、と風が鳴る廃墟ビルの屋上。

 なんて、素晴らしい眺めだろうか。

 明日も来世も来ないという景色。

「ふふふ…………」

 嗤いが漏れる。

――死ねるんだ!

  死ねるんだ!

  死ねるんだ!

 俺はビルの屋上の床を蹴った。














ナンテ素敵ナ景色デショウ。


スコシ寒イデスガ…………


アァ……死ネルンダ……


寒イ……………………


 大体、イグザミネルヲヴォルシェーブニクニ預ケタママジャナイカ……。

 ナンデアンナ死ニタカッタンダ……?

 死ンダラ償イナンテ……デキナキクナルジャナイカ……



 ざり、



「******・*********・******……!」


 霞む視界と麻痺していく感覚。口の筋肉だけを動かす。


「私がお前を助けてやる―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――だから、生きろ」














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