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またも、生命の足跡が消えていく。

消滅の運命は確実にやってくる。

そして、ほとんどのモノは、死に絶えていくのかもしれない。

それが、生命の螺旋、生命の歩んできた道。

足跡。


 ボクは、目が覚めた。

 露の香りがする。

 森の動物たちは、目覚めの歌を歌う。

 本来なら、この光り輝く露の朝は、さわやかなはずである。

 しかし、ボクはどうも意識がさっぱりしない。


 ほんのり暗くなった空間に、青や赤や緑の小さな粉のようなものがチカチカと瞬き飛び回っている。

 ボクはこの光の粉を、「灯の虫」と勝手に名づけていた。羽虫のように小さく、そしてたくさんうごめいているからである。

 それを、不気味で気持ち悪いと言うよりは、一種の懐かしさのような不思議な感情を感じながら、見ていた。

 ボクは、手を伸ばし灯の虫に触れようとした。

 が、灯が跡形もなく消えてしまう。

 目が慣れるまでのほんの少しの間だけなのである。


 ボクは、湿気を含んで、重くなった寝床の出口を開く。

 木々の隙間から射し込んできた朝日が、寝床の中に入り、静かに眠っている仲間たちの顔に当たる。

 ボクは、眠ったように死んでいる彼らを踏まないように、静かに外に出た。



 未知の場所。秘境。

 この魅力ある響きは、生物の好奇心と言うものを狂わせる魔力を持っている。

 ボクたちは、大自然の神秘、新しい土地を求めて、いた。


 太陽の光が揺れ、青い青い澄んだ水のあふれた故郷。

 故郷を離れ、こんなに遠くに来てしまった。


 しかし、何かがおかしかった。

 しかし、仲間たちに聞いても、気のせいだとばかりに、何も言わない。

 心落ち着かないのは、気にするに値しない警告なのだろうか?

 そう、心の奥でうごめいたザワメキが、コノママデハ、イケナイと警告していた。



 密林は、まだ瑞々しく、潤っている。弱々しく吹いている風は、近くにある川の音を運んでくる。

 日の光は、先ほどよりも濃くなっているが、木の葉に遮られて、薄い白銀の羽衣を作っている。触れれば、壊れてしまいそうなほど薄い。

 まだ、朝の気配は、消えていない。




 静かな森。静か過ぎる場所。自分以外に、誰もいない空間。




 脈拍が高まる、吐き気もある、頭痛もする。

 あぁ、何か聞こえる。ボクに警告を、悪意のある存在を知らせる音が。



 すこし広いところで休もう。

 そして、草むらに、倒れこむ。


 土の匂い。草の香り。露の味。




 ボクは、どうしていいか分からない。

 いつまでも、こうしていられないことは、分かってはいるつもりだ。

 しかし、その思考は、すぐに消されてしまう。



 感覚がない、目は開いているのに、閉じている。暗い闇。

 感触がない、右も左も上も下も分からない。黒い闇。

 手や足があるべき位置に存在していないかのように。身体という物が分からなかった。


 暗黒だけが静かに存在している。


 夢の続きのような感覚。気分。

 これは夢で、いつものように、目が覚め……


”コノヤミノナカデ、ネムロウ? ズット?”

 遠い昔に忘れ去られた音。

”コノヤミノナカデ、ネム、リタイ”

 言葉を言っているのは、ボクか、別の者なのか分からなくなった。ボクもこの闇のように、ネムリタイ。現実を見たくなかった。

 そうだ、眠ってしまおう。この闇の中で、いつまでも、いつまでも……





 二度と目覚めない悪夢。

 もう2度と戻らない過去。


 時代は変わる。変わっていく。

 新しい時代の音が聞こえてくる……


 いかし、今は、もう誰もいないのだ。

 静かな森、美しい光、優しい風の中には。


 そして、ボクは……

 生命の足音を聞くことなく……闇に鎔ける(とける)



 そこに残されたのは……




          小さな肺魚たちの化石。

どうでもいい話ですが、ペルム紀末(約2億5千万年前頃)の大量絶滅は、生物の95%以上が絶滅しました。

 史上最大規模の絶滅なんです。

 酸素濃度が極めて低下して、大量絶滅の原因は酸欠だったのではないかと言われているのです。

 この時代の後、恐竜の時代の幕が開けるのです。



 ちなみに、また、どうでもいい話ですが、本文中の「眠ったように死んでいる」は、「死んだようにねむっている」の間違いではないよ。

 眠ったように死んでいるのだから。間違いではないよ。わざとだよ。

 しんでいるんだもの。みんな。

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