あれは、恐怖の大王です。
『1999年、7か月、空から恐怖の大王が来るだろう、アンゴルモワの大王を蘇らせ――』
(199年7月。空から来た恐怖の大王が、アンゴルモワを目覚めさせる)
――ノストラダムスの『予言集』百詩篇第10巻72番より
あれは暑い、暑い7月の日だった。
暑いを通り過ぎて熱い日である。
まるで、成層圏内に火の玉があるみたいだ。
空は赤く燃えている。
もうすぐ夕暮れだ。
どうせなら、夕立でも何でも降ってくれば、すこしは涼しくなるだろうに。
日課の散歩も、こう暑くてはつらいだけだ。
そもそも、こんな日になぜ外に出てしまったのだろう。
あぁ、空から黒いプラスチックの破片がたくさん降ってきた。
とうとう降ってきたか。
世界がじゃりじゃりしてきたので、浜辺の近くに建つボロ屋で雨宿りをした。
――くる!
そしてついに、空から降ってきたのは、大きな大きな火の玉である。
道理で暑かった訳だ。
あんな炎が空にあったのだから。
それは海に落ち、起こる波のハザマから、怪獣のような顔のでかい生き物があらわれた。
まさしく恐怖の大王らしい登場だ。
怪獣の登場を待っていたかのように、一人のヒーローが怪物の前に現れた。
怪物の右目つかみ引きちぎったけれど、すぐ再生する。
さすが大王と名乗るだけはある。
すごい再生力だ。
怪獣はますます大きく、世界を侵食していく。
屋根は飛ばされ、窓は割れ、建物は風に飲まれていく。
それを、今はもう屋根もほとんど残っていないボロ屋から見ていた。
「君も、早く逃げなさい」
目玉を引きちぎっていた者が、こちらに語りかける。
だけれども、体が動かない、動けないのだ。
ここを動いてはいけないのだ。
見届けなくてはいけないのだ。
できる限り最後まで。
この世界の行く末を。
ここに存在しているけれど、関わっていない単なる傍観者の――
恐怖の大王はアンゴルモアを目覚めさせ、この世界を支配する。
世界は消えてしまう。
――恐怖の大王が降りてきた時、アンゴルモアが夢の世界から現実に目覚る時は近いのだ。