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◆ 牙を隠した国の空気史 ◆  作者: moca


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◆ 牙を隠した国の空気史 ◆

これは政治の話ではない。 この国の“空気”の話である。

誰もが感じているのに、誰も言葉にできなかったものを、

ただ静かに並べただけのポエムである。


日本はずっと、恥の文化の上に立っていた。

争わないふりをして、怒りを飲み込み、牙を隠し、「穏やかさ」という仮面を貼りつけていた。

だが本当は、誰よりも牙が鋭い民族だった。

ただ、その牙を見せることが“恥”だっただけ。

だから日本人は、牙を隠して生きてきた。

追い詰められる、その瞬間までは。


百姓一揆も、竹槍も、戦争も、全部そうだ。

我慢して、我慢して、我慢して、もう無理だとなった瞬間に牙がむき出しになる。

それがこの国の本性だった。


そんな抑圧された土壌の上に、政治への無関心が育てられた。

見ないほうが楽。考えないほうが安全。空気を乱さないほうが正しい。

そうやって、牙はさらに深く押し込められた。


そこに、弁当弁の劇場型おっさんが現れた。

彼は政権を取ったのではない。政治そのものを変えた“バケモノ”だった。

大衆の奥底に眠っていた怒り、嫉妬、攻撃欲、誰かを叩きたい衝動。

そのすべてを光の下に引きずり出した。


その瞬間、政治にも大衆にも攻撃文化の芽が生まれた。

匿名という名の仮面が攻撃を正当化した。

叩くことは快感になり、炎上は娯楽になり、論破は正義になった。


だがそれでも、日本人の政治への無関心は消えなかった。

政治は面倒で、空気を読むほうが楽だった。

だから大衆は、政治を見ないまま、攻撃文化の芽だけを静かに育てていった。


そして、その攻撃が花開いたのが政権交代だった。

彼らは政策でも理念でもなく、攻撃する文化と攻撃の正当性を武器に政権を取った。

攻撃すれば喝采が起き、叩けば支持が集まり、炎上させれば英雄になれた。

攻撃文化の時代に生まれた勢力は、攻撃を“正しさ”として信じていた。


だが、彼らの武器は攻撃しかなかった。

叩くことはできた。壊すことはできた。怒りを煽ることはできた。敵を作ることはできた。

しかし政権を取った瞬間、攻撃対象が消えた。

攻撃文化は敵がいる時だけ輝く。

政権を取った瞬間、敵は自分たちになった。


攻撃しか持たない者たちは、その矛盾に耐えられなかった。

そして彼らは、自分たちが作った予算を自分たちで仕分けし始めた。

本来なら仕分け役に前政権の人間を呼べばよかった。

だが彼らはそれを演じてしまった。

攻撃文化の時代に生まれた勢力は、攻撃以外の言葉を持っていなかった。

だから政権を取った瞬間に武器を失った。

空気は静かに離れていった。


政権が戻っても、空気は戻らなかった。

攻撃文化のまま、この国は静かに疲れていった。

民衆が絶望を感じ始めた時、空気はまた攻撃を求めた。

だが攻撃する相手がいなかった。

だから人々は絶望そのものを非難し始めた。


お前が悪い。努力が足りない。文句を言うな。自己責任だ。

責任なき怒り、匿名のような攻撃、空虚な正義感。

むなしい攻撃文化だけが残った。


そんな時だった。黒船が来た。

遠い国から、容赦のない言葉が飛んできた。

日本人が優しいと思い込んでいた国から、鋭い攻撃が突き刺さった。

その瞬間、この国は初めて知った。

殴られる痛みを。攻撃される恐怖を。自分たちが育てた攻撃文化の醜さを。


空気が割れた。

攻撃の快感は消え、攻撃の恥だけが残った。


その割れ目から、ひとりの人物が浮かび上がった。

サナちゃんだ。


サナちゃんは空気が変わったから対話を始めたのではない。

攻撃文化が流行る前から、匿名掲示板が荒れる前から、弁当弁劇場が牙を点火する前から、ずっと対話型だった。

攻撃文化の時代には弱さに見えた姿勢が、空気の反転とともに強さに変わった。

空気がサナちゃんに追いついた。


だが攻撃文化の成功体験を持つ者たちは空気に乗れなかった。

攻撃は彼らにとって武器ではなく、アイデンティティになっていた。

だから沈んだ。だから浮かび上がれなかった。


大衆は空気に敏感だ。

風向きが変われば、言葉も態度も価値観も変わる。

だがその空気は誰のための空気なのか。

誰が作った空気なのか。


空気は透明で、形がなく、責任を持たず、誰のものでもない。

だからこそ空気は最も強い。

そしてその空気の正体を掴むには、人類はまだ早すぎる。


空気は、この国のいちばん深い闇であり、いちばん美しい謎だ。

空気は誰のものでもない。

だからこそ、誰よりも強い。

その正体を掴むには、まだ人類は早すぎる。

このポエムは、その入口にすぎない。

もしも、あなたが何かを感じ取ったなら——

その続きを、いつか教えてほしい。

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