12月28日
「あ、これいいかも」
昨夜、布団に寝転がりながらスマホでスポットの仕事を探していたら破格の仕事を見つけた。思わず布団の上で起き上がり条件を再確認した。
集合時間が早朝なのがネックだが、短時間で高給与、しかも送迎付きだ。スマホで応募の様子を確認すると次々と枠が埋まっている。急いで僕はこの仕事に申し込んだ。
当日、集合場所に向かうと、すでに送迎のバスにメンバーが乗り込んでいた。まだ早朝なのでバスの中は暗い。そこに20人ほどのメンバーがすし詰めになっていた。僕の席は補助席しかなかった。狭いスペースに体を押し込もうとすると、体の前に抱えたリュックが隣の席の人にぶつかってしまった。
「あ、すいません」と軽く頭を下げる。
「いえいえー」
隣の席の人は一瞥もくれずスマホの画面に視線を落としたままだった。
現場に到着すると、さっそく作業場に配置された。
今日の仕事は宅急便の荷物の仕分けだった。
コンベアの荷物の送り状番号を確認して、自分の担当する番号であれば子コンベアに流すという仕事だ。
配置されたのはコンベアの下流だった。持ち場について最上流に視点をやると、荷物がトラックからコンベアに載せられているのが見えた。その荷物がゆっくりとコンベアの下流へと流れてくる。
上流の作業員も僕と同様の仕事をしているので、僕のところに到着する荷物はかなり減っている。僕はほぼ立っているでいい。汗の一つもかかない。僕はついにんまりと笑みをこぼしてしまった。
しかし時間がたつにつれ、その笑みもやがて強張っていった。あまりにも荷物が届かないせいで、手持無沙汰になってしまったのだ。あとから聞いた話によると、今日は荷物が特別少ない日だったらしい。
コンベアの横で立ち尽くす僕に十二月の木枯らしが吹きつけてきた。僕は思わず身を震わせた。
空のコンベアがズンズンチャッとリズムを奏でていた。それに合わせて膝をわずかにカクカクさせてみる。コンベアの横を離れられない僕の、それが唯一の寒さしのぎだった。
「え?」
耳を疑う言葉に、僕はつい聞き返してしまった。
「今日はもう荷物載せたトラック来ないんで、後は掃除で」
時計の針はまだ午前10時だった。退勤まであと四時間。まさかひたすら掃除をやれというのか?現場は高校の体育館二つ分くらいの広さがあった。視線を上げて現場を見渡すと、なんだか自分がひどくちっぽけに思えた。
めいめい箒とチリトリをもって現場に散らばった。時計の針は午前10時からまだほんのわずかしか動いていなかった。
箒の穂先で強めに床を擦ると真っ黒な砂みたいなチリが浮き上がってくる。その量は驚くほど多い。それをひたすらチリトリにかきこんでいった。
吹きっ晒しのこの現場では、どうせすぐに埃が溜まってしまうというのに。だが誰もが現場の指示に従って黙々と床を箒で掃いていた。綺麗になった床に僕のため息が積もっていった。
いつの間にか、僕の傍でとある男性が掃除を始めていた。最初は気づかなかったのだけど、よくよく見ると朝のバスで僕がリュックをぶつけてしまった隣の席の人だった。
暗黙の了解でお互いの間に国境線を引き、互いに互いの領域には不可侵で掃除を続けた。
しかし、次のエリアに移ろうとした時、外を眺めながら歩いていたら、ふと視界の端に謎の物体が目に入った。
床に黒く描かれた謎の意匠。
近寄って確かめてみると、それは取り残された黒いチリの塊だった。場所は一緒に掃除してた男性の担当エリアだ。そこかしこに黒いチリが固められて残されていた。
チリトリで取り忘れたのだろうか。このままだと僕がゴミを取り忘れていると勘違いされる可能性もある。
だが、わざわざ指摘するほどのことでもなかった。仕方ない、と思いながら、僕はほうぼうに残る黒いチリの塊をチリトリで回収した。
あらかた取り終わると、チリトリと箒を一旦床において、僕は一度大きく背伸びをした。
気づけば時計の針は十二時を指していた。日差しの角度はずいぶんと高くなり、あれほど辛かった朝の寒さも随分と和らいでいた。
ああ、これが小春日和ってやつか。大きく深呼吸しながら僕は再び大きく背伸びをした。
ふと遠くを見やると、一緒に作業していた男性も一緒に大欠伸をしていた。あまりに平和的で、僕はつい笑ってしまった。




