第7話 気になっていた本
小屋の中は静かだった。
外から聞こえるのは、風の音とたまに木が鳴る音だけ。
布の上に横になり天井を見つめる。
眠ろうとして――
ふと、思い出した。
(そういえば……)
リュックの中のノートPC。
さっき閉じばかりだが、気になっていたフォルダがひとつあった。
起き上がりそっとリュックを開く。
周囲を確認する。
誰もいない。
足音もない。
「……一瞬だけ」
自分に言い訳しながらノートPCを取り出した。
起動音がやけに大きく聞こえる。
例のフォルダに視線が吸い寄せられる。
(ダメだぞ)
(今はそういう状況じゃない)
(異世界だぞ、ここ)
理性が必死に止めにかかる。
だが――
好奇心はそれを軽く飛び越えてきた。
「……中身を確認するだけだ」
誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。
フォルダを開く。
タイトルを見た瞬間理解した。
(あ、これ――)
前世で見覚えのある雰囲気。
説明不要のカテゴリ。
成人向け雑誌。
しかも複数。
「……神、そこは充実させなくていいだろ」
思わず小声でツッコむ。
閉じようとする。
だが指が止まる。
(見るな)
(見ると戻れない)
(ここで興奮したら色々まずい)
頭では分かっている。
ここは異世界。
文化も価値観も違う。
見られたら確実に終わる。
変な目で見られるどころじゃない。
……それでも。
クリックしてしまった。
「……あ」
画面に表示されたのは、
異世界とは何の関係もない、あまりにも見慣れた構図。
情報量が多すぎて思考が止まる。
(ちょ、ちょっと待て)
(久しぶりすぎる)
(耐性が落ちてる)
心臓の音がやけにうるさい。
慌てて周囲を確認する。
小屋の扉は閉まっている。
窓もない。
誰もいない。
誰も見ていない。
分かっているのになぜか緊張が抜けない。
(異世界で何やってんだ俺は……)
数秒。
ほんの数秒。
それだけのつもりだった。
だが気づけば時間感覚がおかしくなっている。
「……やばい」
慌てて画面を閉じる。
深呼吸。
深呼吸。
布の上に戻り、横になる。
……眠れない。
頭が冴えすぎている。
さっき見たものが無駄に脳内再生される。
(ダメだ)
(今日はもう、ダメな日だ)
異世界。
文明レベル。
電気もない世界。
そんな場所で、前世の煩悩だけが元気に生きている。
「……最悪だ」
天井を見つめながら俺は小さく呟いた。
――完全に、目が冴えてしまった。




