第39話 夜問題
その日の夕方。
広場になんとなく人が集まってきていた。
用事があるわけでもない。
誰かに呼ばれたわけでもない。
ただ、いつもの場所に、いつもの顔が揃っていく。
俺は少し迷ってから口を開いた。
「なあ」
声は思ったより静かだった。
「ちょっと、整理してみたんだけどさ」
ジンが顔を上げる。
「おう」
他の村人も手を止めてこちらを見る。
「今までいろいろ試しただろ」
「冷やしたり」
「干したり」
「火を通したり」
何人かが頷く。
「でさ」
俺は一度、言葉を探した。
「やり方自体はそんなに間違ってなかったと思うんだ」
ざわ、と小さく空気が動く。
「でも」
「全部、同じところで失敗している」
ジンが腕を組む。
「同じところ?」
「夜だ」
そう言った瞬間、広場が静まった。
「夜になると誰も見られなくなる」
「冷やしても」
「干しても」
「温めても」
「夜の間、手が出せない」
村人の一人がぽつりと言った。
「まあ……寝てるしな」
「そうなんです」
俺は頷く。
「夜は寝る。それは普通だ」
「でも保存しようとしてる物は、夜も変わり続けてる」
何人かがはっとした顔をする。
「温度」
「湿り気」
「匂い」
「それを夜の間、どうにもできてない」
ジンがゆっくり言う。
「つまり」
「昼にどれだけ頑張っても、夜で全部ひっくり返るってことか」
「そういうことだな」
誰も反論しなかった。
諦めたような、納得したような空気。
「冷やしても」
「獣は夜に来る」
「干しても」
「見張れなきゃ虫が来る」
「火を使っても」
「誰かが起きてなきゃいけない」
言葉にして並べるほど皆の顔が曇っていく。
神も静かに同調する。
(まあ人は暗くなったら寝るしね)
「仕組みがいる……」
それを聞いて誰かが呟く。
「人が見てなくてもなんとかなる形」
「人が起きてなくてもいいやつ」
俺は頷いた。
「それがないと何をやっても続かない」
しばらく沈黙。
やがて誰かが苦笑した。
「……そりゃ難しいな」
「だな」
「そんなこと考えたこともなかったよ」
諦めの声。
でも不思議と暗くはない。
「でもさ」
ジンが言った。
「問題が分かったなら……」
「そう、次考えられる」
「でもさ」
ジンが言った。
「失敗が三つ並んでようやく同じ理由だって分かったんだろ」
「それ、結構すごいと思うぞ」
「夜だって気づいたのはすごい観点じゃないのか」
俺はその言葉に救われた気がした。
「そうだな」
夜が問題だと気づいた。
それは答えじゃない。
でも――
どこを越えなきゃいけないかは、
はっきりした。
広場の空が少しずつ暗くなる。
また夜が来る。
でも今はただ怖いだけの夜じゃなかった。
「……さて」
俺は息を吐いた。
「夜をどうするか、だな」
まだ何もできない。
それでも――
確実に答えには近づいている気がする。




