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異世界フルオフライン  作者: 玄界魚


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第29話 変な形の鍋

 翌朝俺は職人の工房を訪ねた。


 カレーを美味しくするためには鍋が必要だ。

 そう思い作ってもらうために来た。

 だが――肉じゃがやカレー用ではない。


「炊くための鍋を作ってほしい」


 そう言うと職人は首をかしげた。


「煮るんじゃなくて?」


「炊きます」


「……同じだろ」


「違います」


 自分で言っておいて、どう違うのかを言葉にするのが難しかった。


 俺は地面に棒で絵を描き始める。


「これくらいの深さで」


「ほう」


「底は、厚くて」


「厚いのは分かる」


「で、蓋が……」


 少し詰まる。


「重いです」


「重い?」


「はい。かなり」


 職人は一度手を止めた。


「……なんでだ」


「蒸気を逃がしたくないんです」


「逃がさないと、吹くだろ」


「……吹かせたくないんです」


 自分でも無茶を言っているのは分かっていた。


 さらに続ける。


「中で水が全部吸われて、最後に一気に仕上がる感じで」


「……意味が分からん」


 正直な感想だった。


「それに、火から下ろしたあともしばらく中で仕上げたい」


 職人は腕を組み天井を見た。


「変だな」


「はい」


 即答した。


「変なのは自覚してます」


 しばらくの沈黙。


 やがて職人が小さく笑った。


「……まあいい、俺は料理には詳しくない」


「それに変な注文は嫌いじゃない」


「作れますか」


「たぶん」


「たぶんでいいです」


 数日後。


 完成した鍋を見て思わず息を呑んだ。


 ――完全に土鍋だった。


 見たことがある。

 前世で何度も見た形。


 丸みのある胴。

 分厚い縁。

 ずっしりと重い蓋。


「……その顔」


 職人が言う。


「当たりか?」


「はい!」


 続けて聞いてみた。


「やっぱり変ですか?」


「見たことない形だ」


 職人は笑った。


「それに、蓋が重すぎる」


「最高です」


「褒めてんのか、それ」


 小屋に戻る。


 鍋を据え例の“白くない穀物”を洗う。


 今までは普通の鍋で煮ていた。

 だが今日は違う。


(……ちゃんと、炊く)


 水の量を慎重に決める。

 火は最初弱め。


 ハタケヤマさんが横で見ている。


「最初は弱いのか」


「はい」


 沸いたら強火にする。


 しばらくすると鍋から吹きこぼれそうになる。

 そこで火を弱める。


 蓋をそのまま待つ。


(……頼む)


 鍋の中は見えない。

 だが音だけは聞こえる。

 シュウ……という静かな音が聞こえる。


(……あ)


 神が静かに言う。


(美味しそうな匂いになってきたね)


(……たしかに)


 蓋は重い。

 蒸気はほとんど逃げない。

 しばらくして、蓋を開けた。


 ――


「……」


 言葉が出なかった。


 粒が立っている、気がする。

 一粒一粒が分かる。


 白くはない。

 だが艶がある。


(……炊けてる)


 今までの「煮た主食」とは明らかに違う。


 一口食べる。


「……全然、別物だ」


 そのとき、小屋の戸がきしんで開いた。


「いい匂いがした」


 ジンが中に入ってきた瞬間、足を止める。


「……ん?」


 鼻をひくりと動かす。


「なんか、前と匂い違わないか」


「そうか?」


「うん。前はもうちょい、ぼやっとしてた」


 鍋の中を覗き込み目を細める。


「それに――見た目も違うな」


 軽く表面を指す。


「粒がはっきりしてる」


「前はもう少し潰れてた気がする」


「鍋を変えた」


 そう言うとジンは納得したように頷いた。


「ああ……なるほどな」


「同じ中身でも、道具でここまで変わるんだよ」


 そう言いながらジンに木べらを渡した。

 湯気の立つ粒を口に運ぶ。


「……」


 一拍。


 噛む。


「……あ」


 それだけ言って、もう一口。


 今度はゆっくり。


「前のより匂いが先に来るな」


「で、噛むと中に残る」


 少し考えてから短く言った。


「……うまい」


 大げさじゃない。

 でも迷いもない。


「これなら毎日でも食える」


「主役張れるやつだ」


 神が腕を組む。


(炊飯って、技術なんだよ)


(……今、分かった)


 鍋を見下ろす。


 変な形、重い蓋。

 意味の分からない要求。


 でも――


(この鍋がないと、ここには来れなかった)

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