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異世界フルオフライン  作者: 玄界魚


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第28話 カレーを囲む

 火を入れ直したのはその夜のうちだった。


 さすがに量は増やさない。

 さっきと同じ分だけ。

 失敗しても全部食べ切れるくらい。


 鍋の中でカレーは静かに温まっていく。

 米の代わりの鍋も横で同じように火にかける。


(……落ち着け)


 昨日までなら、ここで無駄に焦っていた。

 だが今は火も、鍋も、音も分かる。


 焦げない。

 煮えすぎない。


(……大丈夫だ)


 出来上がったころ小屋の外が少し騒がしくなった。


「ほんとに作ってるらしいぞ」


「黄色いやつだって」


 声の主は五人くらい。

 多くはない。


 だが確実に――来ている。


 扉を開けるとジンが先頭に立っていた。


「ほらな、また作ってた」


 どこか得意げだ。


「匂い、気になるってさ」


 後ろには顔見知りの村人が数人。

 皆、半信半疑の表情だ。


「肉じゃがじゃないのか」


「色が変だな」


「辛そうだぞ」


 否定から入るのはこの村では普通だ。


「少しだけですよ」


 俺はそう言って皿を出す。


 主食は少なめ。

 カレーも少なめ。


(全部は出さない)


 これは試食だ。


 最初に口をつけたのはハタケヤマさんだった。

 慎重に一口。


「…………」


 少し間が空く。


「…………なんだこれ」


 来た。


「辛いな」


「舌に残る」


「肉じゃがとぜんぜん違う」


 予想通りの反応。


 だが――


 もう一口食べた。


「…………でも」


 そこから声が変わる。


「腹に来るな」


 別の女が言う。


「味は強くないのに、不思議ね」


「この白くないやつがいいのか?」


 主食のほうを指す。


「単体だと味しないのに」


「一緒に食べるとありだな」


 ジンが横で頷いている。


「だろ」


 否定もある。

 首をかしげる者もいる。


 だが誰も皿に残さない。

 それが答えだった。


「肉じゃがは毎日は無理だけど……これはありだな」


 そう言った男も、最後はこう続けた。


「寒い日に食べたい」


(ウコンのちからかな)


 別の声。


「肉じゃがより軽いな」


「昼向きかも」


「これ朝でもいけそうだぞ」


(……日常の言葉だ)


 神が少し離れたところで呟く。


(特別扱いされてないね)


(……それでいい)


 肉じゃがは祭りで人気になった。

 だがこれは違う。

 日常で食べてほしい料理だ。


「また作るのか?」


 聞かれて俺は少し考える。


「……改良します」


 正直に言った。


「香りも、色も、まだ足りない」


「それでもいい」


 女が言った。


「変わっていくのが分かるの、面白いから」


 誰かが笑う。


「料理の成長を食うってやつか」


(ちょっとうまいこと言ってるやん)


 夜。


 人が引いたあと、小屋は静かになった。


 鍋を片付けながら思う。

 これは完成品を出す段階じゃない。

 途中経過を共有する段階だ。


 空の皿。

 少し残った鍋。


 ジンが言う。


「肉じゃがとは違う広まり方しそうだな」


「ああ」


「でも、これ」


 少し真面目な顔で続ける。


「村に残ると思う」


(……ああ)


 黄色い鍋を見る。


 まだ弱い。

 まだ浅い。


 だが――


 今日確かに一歩進んだ。


 カレーは「特別な料理」じゃない。

 日常に入る候補になった。


 火は落ち着いている。


 俺は鍋に蓋をしながら思った。


(次は深みだ)


 そのために――

 もっと知らないものが必要になる。


 夜は静かだ。


 だが、黄色い鍋の先にうっすらと道が見え始めていた。

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