第27話 カレー完成
火を落とす。
鍋の中では黄色い液体が静かに揺れていた。
前よりも濁りは少ない。
香りは――まだ弱いが確かに「それっぽい」。
隣の鍋では白くない穀物が水を吸って膨らんでいる。
粥というほど柔らかくはないが、粒はほどけまとまり始めていた。
(……今までで一番、形になってる)
そう思うと逆に緊張した。
「できた?」
ジンが小屋の入口から覗き込む。
「……多分」
多分、という言葉が抜けない。
皿を二つ出す。
片方に白くない主食。
もう片方に黄色いカレー。
色の対比ははっきりしていた。
白じゃない。
でも並べると落ち着いて見える。
(……いけるか)
スプーンですくい、米っぽいものの上にカレーをかける。
流れる。
染みる。
その瞬間、香りが少し立った。
「……お」
ジンの声が漏れる。
俺は何も言わず先に一口食べた。
――
一瞬、言葉が消えた。
(……あ)
うまい、とは言えない。
完璧でもない。
でも――
(……ちゃんと、カレーだ)
主食が自己主張しない。
淡いからこそカレーを受け止めている。
辛さが立ちすぎず苦みも広がらない。
カレーもスパイスが足りない成果そこまで攻撃力が高くないのがまたいい。
(……土台がある)
それだけで全然違う。
「……どうだ?」
俺が聞くとジンはすでに口に入れていた。
次の瞬間目が見開かれる。
「……なにこれ」
もう一口。
ゆっくり噛む。
「……うわ」
言葉が追いついていない。
「これ……混ぜて食うやつだろ」
「……そう」
「単体だと普通なのに」
スプーンを止めずに言う。
「合わせたら急に完成する」
ジンは笑い出した。
「なんだよこれ」
「意味わかんないけど……すごいな」
三口目。
今度は慎重に。
「……腹にくる」
その言葉が妙に嬉しかった。
(……それだ)
神が少し離れたところで腕を組んでいる。
(料理って、単品だけじゃ完成しないよね)
(……今、分かった気がする)
ジンは皿を見つめながら言った。
「これさ」
「毎日でもいける」
「派手じゃないけど」
「でも……体が温まる感じがする」
(……体が温まる)
その表現が胸に残る。
「村のやつら驚くぞ」
「……どうだろ」
「肉じゃがより、人気出るかもしれない」
確かにそうかもしれない。
派手に広まる料理でもない。
でも香りあるし何より主食候補が増える。
でも――
食べ終わったあと、しばらく黙る。
皿は空だ。
「……なあ」
ジンが言う。
「これまだ関税してないだろ」
「うん」
「でもさ」
少し照れたように笑う。
「途中でももう好きだわ」
(……)
言葉が出なかった。
神が小さく頷く。
(失敗の上に、ちゃんと一段乗ったね)
(……ああ)
鍋を見る。
香りはまだ弱い。
スパイスも弱い。
でも――
主食ができた。
「次は?」
ジンが聞く。
俺は答える。
「もう少し黄色を深くする」
「どうやって」
「……分からない」
正直に言うとジンは笑った。
「じゃあ、また試すんだな」
「ああ」
夜が深くなる。
火は落ち着き小屋は静かだ。
でも――
一皿、完成した。
完璧じゃないが、ちゃんと主食になった。
(……やっとだ)
俺は空になった鍋を見つめながら思った。
次はこれをもっとカレーに近づけよう。
そう決めると不思議と腹が減った。
(……もう一回、作るか)
ジンが帰った後に火をまた入れた。




