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異世界フルオフライン  作者: 玄界魚


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第26話 米の代わり

 朝、鍋の中は空だった。


 昨日の肉じゃがは残っていない。

 村の匂いももう落ち着いている。


(今日は別のことをやる)


 そう決めて外に出ると、ちょうどジンが井戸のそばにいた。


「早いな」


「そっちこそ」


 顔を見るなりジンが鼻をひくひくさせる。


「なんか最近、村の匂い変わったよな」


「肉じゃががアレンジされてるんだよ」


「あー、やっぱり」


 少し笑ってから俺は本題を切り出した。


「なあジン、米って見たことあるか?」


 一瞬、間が空いた。


「……白くて、小さいやつだろ」


「知ってるのか」


「噂だけな。南の方の商人が話してた」


 やっぱりここにはない。


「高いらしいぞ。祭り一回分の酒より高いって」


「そうだよな」


 分かってはいた。


(じゃあ代わりだ)


「一緒に探してくれないか」


「何を?」


「米の代わりになりそうなもの」


 ジンは少し考えてから頷いた。


「なにするかわからないけど面白そうだね」


 午前中、村の中を歩く。


 穀物倉。

 干し芋。

 豆。

 粉。


 どれも食べてはいるが「主食」というほどではない。


「腹は膨れるけど毎日は食べてるから飽きるんだよね」


 ジンの言葉が的確だった。


「毎日食べても飽きないもの」


「それで手に入りやすいものがあればいいんだけど……」


 カレーは日常の料理だ。

 特別すぎるものじゃ成立しない。


「森の奥なら何かあるかもな」


「……森はやめとこう」


 ジンが言って立ち止まる。


「なんで」


「止められる気がする」


 案の定だった。


 通りすがりの年配の男が眉をひそめる。


「森は危ないぞ」


「それに迷子になったら戻ってこれんぞ」


 言葉は静かだが、はっきりしていた。


(……生活圏の外)


 無理に踏み込む場所じゃない。


 引き返す途中、声をかけられる。


「ねえ」


 近所の女性だった。


「最近なんか違う匂いしてるけど……」


「料理です」


「肉じゃがじゃないよね」


「……違います」


 少しだけ迷ってから言う。


「試作中です」


 彼女は笑った。


「あんた、面白いね。また期待しとくよ」


 否定できなかった。


 お昼ごはんを食べて再び村を回る。


 食べ物じゃない場所にも目を向ける。


 倉庫。

 家畜小屋。

 加工場。


 そこで、気づいた。


「……多いな」


「何が?」


「これ」


 倉庫の奥に積まれていた袋。


 中身は――

 白くない、小粒の穀物。


「それ家畜用だぞ」


 管理している男が言う。


「人は食わない」


「なんで」


「味が淡い。腹は膨れるが旨くない」


(……なるほど)


 袋の数を見る。


 明らかに多い。

 余っている。


「でも、毒じゃないんですよね」


「まあな」


 ジンが俺を見る。


「……主食向きじゃないってだけだ」


 俺は一粒つまむ。


 硬い。

 匂いは弱い。


(……白米ほどの主張はない)


 だが――


(だからいい)


 カレーはルーが主役だ。

 主食は土台でいい。


「これ煮たらどうなる」


「しらないよ」


「粥みたいにならないかな」


「あーなるかも」


(……いける)


 胸の奥が少し熱くなる。


「誰も食べないなら少し分けてもらえますか」


 男は肩をすくめた。


「好きにしろ」


 帰り道。


 袋を担ぎながらジンが言う。


「これ本当に使うのか」


「試す価値はある」


「うまくなくても?」


「主食はうまくなくていい」


 ジンは少し考えてから笑った。


「変なこと言うな」


 夕方。


 小屋に戻る。


 白くない穀物を鍋に入れ、水を足す。


 火は弱め。


 神が笑いながらこちらを見ている


(はじめチョロチョロなかパッパは知ってるんだね)


(耳に残るからね)


 匂いは静かだ。

 主張しない。


 だが――


(これならカレーを受け止められる気がする)


 神は微笑んでいる。


(見つけたね)


(……ああ)


(白くないけど、米の代わりだ)


 鍋の中で粒がゆっくり膨らんでいく。


 まだ味は分からない。

 成功かも分からない。


 それでも――


 主食は見えた。


 夜が来る。


 次は合わせる番だ。


 黄色い鍋と白くない主食。


(……うまくいってくれよ)


 俺はカレーを煮込んでいる火を見つめながらそう思った。

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