第22話 祭りのあと
祭りは朝まで続いた。
正確には俺の意識が保たなくなるまで、だ。
夜が深まるにつれて冷え込みは増したが不思議と寒くなかった。
火の周りには常に人がいて鍋は休むことなく回り続けていた。
「寒い夜には、これだな」
そんな声が何度も聞こえた。
肉じゃがを抱え、湯気に顔を近づけながら、皆が笑う。
おかわりも多かった。
本当に多かった。
一杯目より二杯目。
二杯目より三杯目。
「まだある?」
「あるよ」
そのやり取りが当たり前のように続く。
それでも材料は尽きなかった。
むしろ最後まで減らなかった。
途中から俺たちは交代で鍋から離れさせられた。
「お前らも食え」
誰かが言い、誰かが場所を空ける。
ジンも、ハタケヤマさんも、シオヤマさんも。
皆、鍋の前を離れてようやく一杯を口にした。
「……うまいな」
ハタケヤマさんがぽつりと呟いた。
「今日は働きすぎだよ」
誰かが笑う。
感謝の言葉も次々とかけられた。
「ありがとうな」
「こんな祭り初めてだ」
「今までで一番楽しかった」
胸の奥がじんわりと温かくなる。
酒も回ってきた。
「明日のことは考えるな」
そう言われ杯を押し付けられる。
断る理由もなく受け取る。
一杯、二杯。
最後に覚えているのは、火の揺れと誰かの笑い声だった。
次に目を覚ましたとき天井があった。
……小屋だ。
身体が重い。
頭が少し痛い。
「……朝?」
外は明るかった。
ゆっくり起き上がると視界に入ったものに言葉を失った。
じゃがいも。
玉ねぎ。
干し肉。
山ほどある。
(……なんで)
神がいつもの調子で言った。
(昨日の成果物だね)
(成果物って)
(君が管理しきれなかった分)
(いや管理以前の問題だったんだけど)
呆然としていると扉がノックされた。
「起きてるか」
村長と呼ばれている人だった。
「……これな」
材料の山を指して言う。
「全部、お前のものだ」
「え?」
「祭りの残りだ。皆で決めた」
「そんな……」
「遠慮するな」
村長は穏やかに笑った。
「お前が作った結果だ」
何かが胸にしみる。
その日の昼前。
早速訪ねてくる人がいた。
「また肉じゃが食べたいんだけど」
一人、二人。
断る理由はなかった。
「……じゃあ、一緒に作りますか」
そう言って鍋を出す。
だが昨日とは違う。
火加減が難しい。
ハタケヤマさんはいない。
薪の位置が分からない。
強すぎる。
弱すぎる。
「……焦げたな」
「まあ、こんなこともあるさ」
誰かが笑う。
俺も笑った。
失敗しても誰も責めない。
その空気が妙に心地よかった。
午後になり一人の男が現れた。
道具を腰に下げた職人風の村人だ。
「面白いことしてるよな」
そう言って材料を見る。
「鍋以外で必要なものあるか?」
一瞬言葉に詰まる。
「……肉じゃが以外作れるってことですか」
「ああ」
「なら……」
俺は少し考えて、首を振った。
「すみません」
「?」
「何を作るか決めてからお願いしたいです」
男は笑った。
「いいな。待ってる」
夜。
机の前に座る。
そこに置かれたあの箱。
PCだ。
(……まだ開けない)
バッテリーが怖い。
この世界で唯一の切り札だ。
でも、考えることはできる。
次は何を作る?
肉じゃがは取得できた。
いや、皆で取得した。
なら次は。
神が静かに言った。
(君はもう一人で作らなくていい)
(仕組みを作るんだ)
俺は目を閉じる。
鍋。
火。
人。
頭の中で次の料理を探し始めた。
夜は静かだ。
(……次は何にしようか)
考えながら俺は机に肘をついた。
次の料理は何にしよう。




