第19話 集まらない食材
祭りまであと三日。
朝、小屋の前に置いた籠を前にして俺はしばらく立ち尽くしていた。
じゃがいもが2山。
玉ねぎも同じくらい。
干し肉は鍋1つ分あるかどうか。
(……全然足りない)
数字にすると現実が殴ってくる。
五百人。
どう考えてもこの量でどうにかなる話じゃない。
村の人たちは確かに分けてくれている。
でもそれは「余っている分」だけだ。
自分たちが食べる分を削るわけにはいかない。
畑はどこも余裕がない。
干し肉も冬に向けた大事な保存食だ。
(……無理もない)
俺が考えなしだった。
昼前、ジンが様子を見に来た。
「……あんまり増えてないですね」
「正直だな」
「すみません」
二人で籠を見る。
「このままだと……どのくらい作れます?」
「……五十人分いけばいいほう」
「祭りは五百人ですよね」
「言うな」
言葉が途切れた。
(他に方法は……)
ふと、別の考えが浮かぶ。
(……狩りに行くか)
肉が足りないなら取ればいい。
やったことはないが知識ならある。
「……俺、狩りに――」
言いかけた瞬間ジンが首を振った。
「間に合いません」
「……え?」
「干し肉にする時間が足りないです」
何も干し肉にする必要はない。
生肉を使っても肉じゃがは作れる。
「それに……」
ジンは少し間を置いて続ける。
「怪我でもしたら祭り自体で出れませんよ」
(……その通りだ)
俺は何も言えなくなった。
二日前。
集まった材料はほんの少しだけ増えた。
じゃがいもが一籠。
玉ねぎが数個。
干し肉が少々。
(……まだ足りない)
夜になると自然と人が集まった。
ハタケヤマさん。
シオヤマさん。
ジン。
他にも心配している何人か。
焚き火を囲んで静かな話し合いになる。
「五百人分を集めるのは無茶なんじゃないのか」
ハタケヤマさんが言った。
「皆余ってる分しか出せないからね」
シオヤマさんが頷く。
「……」
沈黙の中で誰かがぽつりと言った。
「……持ってきてもらったら、その場で作ればいいんじゃないか」
「その場で?」
「その場で料理してすぐ鍋に入れるんだ」
「少しずつでも作れば作業は止まらない」
俺は息を飲んだ。
(……なるほど)
最初から集めようとするから足りなく見える。
別に作り置きしておく必要もないし、その場でどんどん作ればいいのか。
前世でのライブキッチンににているかもしれない。
「……それ、やりましょう」
自然とそう言っていた。
夜も遅いしそれ以上話すことなく解散した。
翌日、祭り前日。
ジンと村の中を回って声をかける。
「余っている材料があったら祭りい持ってきてください」
「その場で肉じゃが作ります!」
「自分が食べたい分を持ってきてください」
反応は正直よくなかった。
「本当にできるのか?」
「持ち逃げするつもりじゃないのか?」
「人手は足りるのか?」
疑いというより不安だ。
無理もない。
みんな材料も味つけも人手も足りないのを見ている。
そうこうしているうちに日が落ちた。
小屋の前に並べた籠はまだ空いているものばかりだ。
(……大丈夫か)
祭りは明日。
準備はぎりぎりどころか綱渡りだ。
神が静かに言った。
(不安だね)
(……ああ)
(でもね)
(あとは待つしかないよね)
(来るか来ないかそれは君が決めることじゃない)
優しくはないが逃げ道もない。
俺は夜空を見上げた。
明日は祭り。
鍋は空。
不安だけは十分すぎるほどある。
それでも――
やると決めた。
みんなで食べる場を作ると決めた。
……明日本当に人は集まるのだろうか。




