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異世界フルオフライン  作者: 玄界魚


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第14話 飯で釣る

 翌朝小屋の中で俺はノートPCを前に腕を組んでいた。


(人に動いてもらう方法、か)


 昨日の時点で答えは出ている。

 金はない。地位もない。信用も、まだ薄い。

 この村で俺が差し出せるものを冷静に並べていくと選択肢は驚くほど少なかった。


 あるのは――


「……飯だけだな」


 声に出して確認する。

 飯で釣る。

 文字にするとひどいが現実はそうだ。


(俺の料理で、本当に人が動くのか……?)


 自虐気味に考えて少しだけ笑う。

 だがこの世界で人が動く理由は単純だ。

 腹が満たされるか、生活が楽になるか。

 そのどちらか、もしくは両方。

 俺にできるのはまず前者。


(じゃあ何を作る?)


 選択肢はない。

 結局行き着くのは――肉じゃが。

 前回作った、あれだ。


 俺はPCを操作して例のレシピを開く。

 画面に並ぶ工程を上から順に追っていきある一文で視線が止まった。


「最初に油で炒める」


(……あ)


 完全に忘れていた。

 じゃがいも、玉ねぎ、干し肉。

 全部いきなり煮た。

 炒めていない。


(そりゃ固いわけだ)


「固いけど嫌じゃない」という評価が今さら綺麗に腑に落ちる。

 炒めることで油が回り旨味が閉じ込められる。

 そこから煮るから味が入る。

 工程を一つ飛ばしただけで結果はまるで別物になる。


(逆に言えば)


 前回あれだけ喜ばれたなら。


(炒めたら……もっと行けるんじゃないか?)


 期待が胸の奥でじわっと膨らむ。


 そのとき頭の中で聞き覚えのある声がした。


(やっと気づいたか)


 ……神だ。


(君、意外と工程を省略するタイプだよね)


(うるさい)


(ちゃんと炒めるんだぞ)


(今回は大丈夫だって)


 確かに前世でも「とりあえず動かす」で本番事故を起こしてきた。

 今回はちゃんとやる。多分。


 俺は立ち上がり材料を準備する。

 じゃがいも、玉ねぎ、干し肉。

 前回よりほんの少しだけ量を増やした。


(バッテリー……)


 画面を見ると32%。

 減っている。

 今日でこの料理をある程度形にしないといけない。


 鍋を外に運ぶ。

 火は俺が扱わない。

 この世界の火は「出せる人」が限られているし安定もしない。

 だから必ず頼れる人に任せる。


「ハタケヤマさん、火、お願いできますか」


 農作業中にもかかわらず、声をかけるとすぐにきてくれた。


「任せろ。今日は調子がいい」


 信用していいのか微妙な台詞だが他に選択肢はない。

 鍋の下に火が灯る。

 揺れはあるが昨日よりは落ち着いている。


「今のうちだな」


 俺は頷き、油を入れる。

 まず肉。


 じゅっと音が立った瞬間、空気が変わった。


(あ、これだ)


 次に玉ねぎ。

 甘く、腹を直接掴んでくる匂いが立ち上る。

 じゃがいもを加えて全体を混ぜる。


(前回、これを全部すっ飛ばしたんだよな……)


 軽く後悔しつつ今は集中する。

 十分に油を回してから水を入れ、味付けは干し肉の塩気と甘い木の樹液だけ。

 前回と同じ調味料だ。


 コトコトと煮える音。


(……いい)


 前回より明らかに「食欲をそそる」匂いだ。

 ハタケヤマさんも鼻をひくつかせている。


「これは……昨日とは違うな」


「工程を一つ、思い出しただけです」


「料理は怖いな」


 火が一瞬強くなり、俺が慌てて声を上げる。


「ちょ、強いです」


「すまん、今ちょっと感情が乗った」


(感情で火力変わるんかい)


 それでも何とか持ち直し仕上がる。


「味、見ます?」


「頼む」


 小皿に盛って渡す。

 一口食べた瞬間にハタケヤマさんは目を細めた。


「柔らかい」


「炒めました」


「それだけでここまで変わるのか」


「正直言うと前は失敗でした」


「それであれか」


 ハタケヤマさんは笑った。


「今回は胸を張っていい」


 その言葉で胸の奥がすっと軽くなる。


 気づけば小屋の外に気配が増えていた。

 覗き見していた村人たちが今度は遠慮がちに中へ入ってくる。


 そして――


「……これ、使うか?」


 差し出されたのは土のついた野菜。


「余ってるからな」


 俺は一瞬、言葉を失った。


「……もしかして」


「野菜持ってきたら、料理してくれるのか?」


 誰かが言った瞬間に場が静まり、次の瞬間笑いが起きた。


「ま、毎日じゃないぞ」


 他の誰かが慌てて言うと、さらに笑いが起きた。


「ハタケヤマの火の調子がいいとき限定だな」


「今日は当たり日だな」


(俺の心配じゃないんだな)


 たしかに火力の責任は全部あっちだ。


 それでも野菜と引き換えに皿を渡すと皆嬉しそうに受け取っていく。

 顔が上がる。

 会話が生まれる。


 俺は鍋を見下ろした。

 前よりうまくいった。


(自信、持っていいよな)


 神がまた囁く。


(餌としては上出来)


(言い方!)


(でもまあ、事実だよな)


 確かにこれは餌だ。

 人を動かすための最初の一皿。


 俺は小さく息を吸い心の中で決める。


 この飯で、人を集める。

 この飯で、余力を作る。


 肉じゃがだけは自信を持った。


 次はどうやって釣るかだ。

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