第13話 人手が足りない
その夜、小屋に戻った俺は寝る前にノートPCを開いた。
画面に映るのは見慣れた文字と図。
発電、回路、エネルギー変換。
(電気を作る)
それが俺がこの世界に来てからずっと握りしめている最終目標だ。
理由は単純だ。
このPCは電気がなければただの重たい箱になる。
そしてこのPCの中には俺が頼れる唯一の「未来」が詰まっている。
料理も大事だ。
生活も大事だ。
でも――
電気がなければそこで止まる。
(……で、どうやって作るんだっけ)
分かっている。
理屈は。
水を落とす。
回す。
軸を作る。
回転を電気に変える。
教科書的にはシンプルだ。
だが画面を閉じて現実を見るとため息が出る。
(……俺一人じゃ無理だろ)
小屋の外に出て夜風に当たる。
昼間村の外れで見つけた川のことを思い出す。
水量はそこそこある。
落差も工夫すれば作れそうだ。
だが問題はそこじゃない。
まず、材料。
木材。
石。
金属。
それを集めるだけで一人じゃ数日かかる。
(運ぶの、誰だよ)
自分にツッコミを入れる。
次に加工。
削る。
組む。
固定する。
工具も足りない。
精度も出ない。
仮に形になったとしても――
設置。
水は重い。
流れは強い。
(俺、流されて終わるな)
頭の中でシミュレーションして即座に却下。
さらに問題は完成後だ。
回せば終わりじゃない。
維持が必要だ。
壊れる。
ずれる。
(誰が直すんだよ)
答えは一つしかない。
俺だ。
……いや、無理だろ。
俺は地面に座り込み頭を抱えた。
(俺、何考えてたんだ?)
冷静に考える。
文明って個人の趣味じゃない。
継続して、守られて、初めて意味がある。
それを――
俺一人で?
(俺一人で文明作るつもりだったのか……)
声に出して自分で笑ってしまった。
プログラマー時代の癖だ。
設計は一人。
実装も一人。
デバッグも一人。
だがそれは
「電源がある世界」
「道具が揃っている世界」
だから成立していた。
ここには、何もない。
火も不安定。
道具も不足。
時間は体力と直結している。
(電気以前の問題だな)
昼の光景が蘇る。
畑で働く人たち。
夕方には疲れ切った顔。
それでも翌日にはまた同じ作業をする。
あの人たちに
「発電装置を作るから手伝ってください」
と言えるか?
……言えない。
価値が見えない。
(だから飯か)
昼の記憶がここで繋がる。
まず腹を満たす。
余力を作る。
時間を生む。
その先に初めて「手伝ってもらう」という選択肢が出てくる。
(逆だったんだ)
俺は順番を間違えていた。
電気を作れば楽になる、じゃない。
楽にならないと、電気は作れない。
その事実をようやく受け入れた。
「……人、か」
呟いてみる。
材料を運ぶ人。
組み立てる人。
見張る人。
直す人。
一人じゃ無理だ。
確実に。
だが同時にもう一つ分かった。
(助けてもらうって……悪いことじゃないんだな)
今までの俺は
迷惑をかけないように
関わらないように
一人で完結させようとしてきた。
だがこの世界ではそれはむしろ危険だ。
孤立は生存率を下げる。
飯を分けたとき、村人たちは自然に集まってきた。
匂い一つで。
(人は関わりたがる)
それを拒否する理由はない。
問題はどう関わるか、だ。
俺は小屋に戻りランプの火を見つめる。
揺れる炎は相変わらず気まぐれだ。
(安定しないな……)
だからこそ電気が欲しい。
でもその前にやることがある。
人に頼る準備。
人に価値を示す準備。
「……よし」
小さく頷く。
まずは飯。
次に人。
その先に電気。
目標は変わらない。
順番が変わっただけだ。
俺は布にくるまり横になった。
明日やることは決まっている。
電気の話はまだ先だ。
まずは――
人手が足りない。




