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異世界フルオフライン  作者: 玄界魚


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第10話 第一歩は台所から

「じゃがいも、玉ねぎ、にんじん、肉」

「切る。炒める。煮る」


 小声で復唱しながら小屋の外に出た。


 朝の村は静かだ。

 人は動いているがせわしなさはない。


(俺もやるか)


 向かった先は世話になっているハタケヤマさんの家だった。


「おはようございます、ハタケヤマさん」


 声をかけると畑で腰を曲げていたおじさんが顔を上げる。


「おう。今日はずいぶん早いな」


「ええ、ちょっと相談があって」


 俺はできるだけ自然な調子で切り出した。


「料理を作ってみようと思いまして」


「ほう?」


 ハタケヤマさんの眉がわずかに上がる。


 話は早かった。


 村の人たちに声をかけると、にんじん、じゃがいも、たまねぎを少しずつ分けてもらえた。


「猪の肉ならあるぞ」


 そう言って、ハタケヤマさんが干し肉を指差す。


「……猪ですか」


「牛も豚もおらんからな」


(まあ肉は肉だ)


 深く考えないことにした。


 包丁と鍋はハタケヤマさんが貸してくれた。


「刃物は気をつけろよ」


「はい」


 道具を抱え材料を小屋へ運ぶ。


 途中も、ずっと呟いていた。


「切る。煮る」


 手順は覚えている。

 ……たぶん。


 小屋の中で料理を始める。


 まな板代わりの板に材料を並べる。

 包丁を握るのは久しぶりだった。


 じゃがいもを切る。


 ……角ばっている。

 明らかに不格好だ。


 にんじん。


 太さがバラバラだ。


 玉ねぎ。


 涙が出る。


「なんでだ……」


 誰も答えてくれない。


 切った材料を鍋に入れる。


 肉も入れる。


 見た目は、まあそれっぽい。


(よし)


 俺は満足して鍋をかまどに置いた。


 ――そのとき。


(……あれ?)


 頭の奥で、かすかな違和感がよぎる。

 だが考える前に流してしまった。


 調味料を探す。


 ……ない。


 醤油も、酒も、みりんも当然ない。


「……まあ似たようなものでいいか」


 干し肉の塩気。

 村で使われている少し甘い木の樹液。


 それっぽいものをそれっぽく入れる。


(料理ってだいたい雰囲気だろ)


 根拠はない。


「火、お願いできますか?」


 声をかけると、

 畑仕事の合間にハタケヤマさんが来てくれた。


「中火くらいでお願いします」


「おう、任せろ」


 自信たっぷりの言葉とは裏腹に、明らかに火力が強い。

 炎がかまどからはみ出している。

 明らかに強火だ。


「これじゃ焦げちゃいます」


 次の瞬間、今度は消えそうなくらいに弱くなった。


「ち、ちょっと違う気がします!」


「まあ、そんなもんだ」


 ハタケヤマさんは笑いながら火を調整してくれる。


 結果、超強火 → 超弱火という、よく分からない工程になった。


 ――なおこの一連の流れをどこか遠くで神が眺めていた。


「……ああ、忘れてるな」


 小さく、誰にも聞こえない声。


「炒める工程。完全に」


 指摘するでもなく、止めるでもなく。

 ただ少し楽しそうに呟いただけだった。


 当然その声が届くことはない。


 本人は真剣だ。

 必死でやっている。


 だからこそ――


「……まあ、いいか」


 神はそう言ってそれ以上は何もしなかった。


 しばらくして鍋の中を見る。


「……あれ?」


 見た目は煮物だ。

 だが何かがおかしい。


 じゃがいもを箸で突く。


 ……芯が残っている。


「……」


「まあ、食えんことはないだろう」


 ハタケヤマさんはあっさり言った。


 皿に盛り付ける。


 色は薄い。

 匂いもどこか控えめだ。


 一口食べる。


「……」


 噛めば噛める。

 味もある。


 だが、たぶん想像していた肉じゃがとは違う。


「どうです?」


 恐る恐る聞く。


 ハタケヤマさんは一口食べて、少し考え――


「悪くない」


 その一言で胸の奥が軽くなった。


「それに腹と心は満たされる」


 それが何よりだった。


 食後。


 ハタケヤマさんは鍋を見てにやりと笑う。


「気に入った。しばらくここに泊まっていいぞ」


「本当ですか?」


「飯を作れるやつは貴重だからな」


 ……主に火力面で失敗したけど。


 あやうく心の声がもれるところだった。


 完璧とは程遠い。

 むしろ改善点だらけだ。


 それでも


 食べられた。

 笑われなかった。

 居場所が一つ増えた。


 俺は鍋を見ながら小さく頷いた。


「……次は、もう少しうまくやろう」


 台所から始まった一歩は、思ったよりちゃんと前に進んでいた。

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