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異世界フルオフライン  作者: 玄界魚


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第1話 過労死、そして異世界へ

 目を覚ましたときキリタニ・リョウマはまず思った。


(あ、これ死んだな)


 理由は単純だった。

 体の感覚がどこにもない。

 重さも息苦しさも心臓の鼓動も存在しない。

 それなのに意識だけはやけに冴えていて頭の中が妙に静かだった。


(夢にしては情報量が少なすぎる)


 生前の記憶は驚くほど鮮明だ。


 深夜のオフィス。

 誰もいないフロア。

 モニターの白い光だけが疲れ切った目に突き刺さっていた。


 連日の残業。

 人手不足。納期短縮。仕様変更。


 本当は分かっていた。

 この設計は一度立ち止まって確認すべきだと。


 だが時間はなかった。

「まあ、大丈夫だろう」と自分に言い聞かせ確認を後回しにした。


 結果、想定外の不具合が出た。

 修正作業に追われ気づいたときには視界が歪んで――そこで記憶が途切れている。


(過労と知識不足による判断ミス)


 自分の死因をリョウマは感情を挟まずに結論づけた。


 もし、もう少し余裕があれば。

 もし、もう少し知識があれば。


 そんな「もしも」を考え始めた瞬間、周囲の景色が変わった。


 一面の白。

 床も壁も天井も区別がつかない空間の中央に人の形をした存在が立っている。


「えーっと……キリタニ・リョウマ、で合ってるかな?」


 声は拍子抜けするほど軽かった。


「はい」


 反射的に返事をしてからリョウマは首をかしげる。


「君は死んだ。過労だね。うん、最近多い」


「やっぱり」


 否定されなかったことで妙に納得してしまう。


「ちょっとした手違いもあって君には転生してもらうことになった」


「異世界、ですか?」


「そうそう。最近流行ってるだろ?」


(流行ってるのか……)


 突っ込みたい気持ちを抑え、リョウマは確認する。


「……特典は?」


「お、話が早いね」


 神――らしき存在は満足そうに頷いた。


「君がいつも使ってたノートPC、あれは持って行かせてあげる」


「……PC、ですか?」


「大事にしてたろ?」


 確かにしていた。

 だがそれは仕事道具としてであって――。


「異世界で PC があって何に使うんです?」


 思わず素で聞いてしまった。


 神は一瞬考え込む。


「あ、そうか。ネットは使えないな」


「そこじゃなくてですね」


 リョウマは一度深呼吸する。


(冷静に。ここは交渉フェーズだ)


「能力とか知識とかは……?」


 リョウマがそう口にすると、神はぱっと顔を明るくした。


「それだ!」


 軽い音を立てて神は手を打つ。


「君は知識が足りなくて死んだようなものだしな。なら知識を授けるのが一番だろう」


「いいんですか!?」


「もちろん」


 その言葉にリョウマはわずかに安堵した。


 知識があれば、判断できる。

 判断できれば、同じ失敗はしない。


 次は、もっと慎重に。

 次は、ちゃんと考えて。


 そう思った瞬間足元が抜けた。


「え、ちょっ――」


 落下感覚。

 白い世界が一気に遠ざかり意識が引きずられていく。


(知識さえあれば……今度は生き残れるはずだ)


 そんな素直な期待を抱いたままリョウマの意識は闇に沈んだ。


 神はそれを見送り満足そうに頷く。


「大事なPCに入れておいたからな。頭に直接入れるとびっくりするかもしれないと思って」


 誰にともなくそう呟いて、神は腕を組んだ。


「それに、ああいうのは"必要なときに調べる方が安心"だろう?」


 善意は確かだった。

 ただし、人間の事情とは少しだけ噛み合っていなかった。


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