第9話
サッカー特待生として英理書院にスカウトされた後、司徒俊緯の母は多くの祝福を受けた。「息子さんが名門中学に入るなんて、将来は名門大学合格も間違いなしね」と。
母が他人にそのことを話す際、口にするのは決まって英理書院の名前だけだった。全港トップ10に入る名門校ともなれば、他の奥様方と話す際にも鼻が高いからだ。一方で、彼が香港U-13代表に選ばれたことについては、ほとんど口にすることはなかった。
「あら、いいじゃない。英理なら中文大学や香港大学への進学率も高いし(香港で最も有名な大学で、その地位は日本の東京大学に匹律します)、将来はお医者さんか弁護士かしら。あんたも将来安泰ね。」部屋でゲームをしている時、リビングからそんな話し声が聞こえてくることがよくあった。
「あらやだ、そんな高望みはしないわよ。普通に香港大に入ってくれればそれでいいの。少なくとも食いっぱぐれることはないでしょうから。」母はそう言って笑っていた。
『くだらない……他人はともかく、母さんは知らないはずがないのに。僕の成績がもともと悪い方だってことを……』
司徒俊緯の部屋には、大小様々なジダンのポスターが貼られていた。幼い頃からのアイドルだ。彼はいつも、このフランスの将軍に憧れていた。王者の風格で戦局を一変させ、優雅に、まるで演奏家のように相手を掌の上で転がすその姿に。
……
「ピッ。」
後半開始前の相手の選手交代を、蔡與榮は見逃さなかった。理善のスタメン十一人に詳しいわけではない。強豪校としての自負が、この無名な引き立て役チームの情報を探ることを良しとしなかったのだ。だが少し気になったのは、交代したのがフォワードだったことだ。まさか攻撃を放棄し、残り三十分間引きこもって一点を守り切るつもりなのか?
投入された新入りは見るからに緊張しており、足が震えているのが分かる。呼吸も浅く、実戦経験が乏しいことは明らかだ。もしかしたら完全な素人かもしれない。
前半に一点を決め、何度か決定機を作っていた左フォワードを下げてまで、なぜこんな交代をしたのか。蔡與榮には全く理解できなかった。
対照的に、理善の選手たちの表情は極めて冷静だった。前半終了時の迷いや動揺は消え去っている――それは明確な戦術目標がある証拠だ。
『面白い、実に面白い。どんな奇策を用意してきたのか見せてもらおうか。』蔡與榮は口の端を歪めて笑い、興味深そうに立ち上がってピッチサイドへ近づいた。
後半は英理のキックオフで始まる。つまり、理善はボールを奪い返すまで、再び長い時間を耐え忍ばなければならないということだ。
英理の選手たちはすぐに相手がワントップであることに気づいた。この一手は蔡與榮と司徒俊緯を少し驚かせたが、とりあえずは前半の戦術方針通りにプレーすることにした。
司徒俊緯は、自分のマークについているのが蕭智堯ではなく、あの交代で入った新人であることに気づいた。動きは非常にぎこちなく、スピードはあるものの、ただ闇雲に飛び込んでくるだけで脅威ではない。そして蕭智堯本人はより高い位置を取り、守備にはほとんど参加していない。狙いは明らかだった。
英理の全体的なペースは前半よりも落ち着いていた。横パスやバックパスでポゼッションを維持し、ペップ・グアルディオラ時代のバルセロナのように、相手を揺さぶり、ボールを動かし続け、守備の綻びが生まれる瞬間を慌てずに待つ。
そして、一撃で仕留める。
司徒俊緯が突然、前線へロングボールを放り込んだ。ボールは李向名と左サイドバックの間のスペースを抜け、左方向へカーブしながら落下し、ワンバウンドして左ウイングの足元に収まった。
「うっ!」
だが李向名はこのパスを予測していたかのように、司徒俊緯が重心を落としてターンする瞬間を見逃さず、早々にフォワードの位置へ走り出していた。
彼はフォワードがトラップでボールを少し足元から離した瞬間を狙って体を入れ、いとも簡単にその攻撃を無力化した。
司徒俊緯は横目で確認した。蕭智堯が李向名とアイコンタクトを取っているのが見える。だが英理のボランチが彼を徹底マークしており、近くのサイドバック二人も彼を包囲している。おいそれと彼にパスは出せないはずだ。
『あ?』
素早くターンして蕭智堯の動きを確認した李向名は、小さな予備動作でキックの体勢に入り、センターサークル付近へボールをふわりと蹴り出した。落下点はちょうど蕭智堯の前にあるスペースだが、そこは間違いなく数人の中盤選手に囲まれる場所だ。
『だが、あの足元の技術を持つ彼が、囲まれるのを恐れるわけがない……まさか……』
司徒俊緯は油断せず、すぐに落下点へ走った。案の定、柳柏賢が背後から寄せていたにもかかわらず、蕭智堯はプレッシャーなど存在しないかのように足の甲でボールをピタリと止め、相手が寄せてくる勢いを利用して軽くボールを押し出し、瞬く間に中盤のスペースを解放してしまった。
「囲め!」柳柏賢はマズいと思い、すぐに大声で叫んだ。
近くにいた左サイドバックはすぐに背後の右サイドハーフを捨て、蕭智堯の方へ向かった。同時に、司徒俊緯は理善のワントップがすぐに前線へ動き出し、ディフェンスラインと駆け引きをしてオフサイドラインギリギリを狙っていることに気づいた。両サイドハーフ、さらには両サイドバックまでもが一斉に上がり始めている。
中央をドリブルで上がる蕭智堯は冷静に左右を確認している。寄せてきた左サイドバックは迂闊に飛び込めず、戻ってきたボランチも再び彼にあっさりとかわされた。その一連の光景は、司徒俊緯の目には、まるで昔の映像で見るジダンが中盤で相手守備陣を翻弄している姿のように映った。
彼は中央を進む蕭智堯に向かって走ったが、同時に背後に張り付いているあの理善の選手が気配を消さずについてきているのを感じていた。気のせいではない。
『あいつの任務は僕へのマンマークか……だがなぜ……あんな新人を僕につけたんだ?』
司徒俊緯は自分が蕭智堯からボールを奪えないことを知っている。彼が向かったのは攻撃を遅らせるためだ。相手のエースに中央を好き勝手に進ませるわけにはいかない。
「阿隆、足出すな! ついていくだけにしろ! 阿南と柏賢のカバーを待て!」
彼の指示には少し焦りが混じっていたが、今、目の前に立ちはだかる左サイドバックの阿隆が不用意に足を出して抜かれれば、背後に広大なスペースを献上することになる。
蕭智堯は、意図的に遅らせようとするこの左サイドバックを強引に抜くのは少々厄介だと分かっていた。別の道を選ぶなら、二つの選択肢がある。左前方のフォワード、范家俊とのワンツー、あるいは右前方のスペースへ出し、右サイドハーフを走らせることだ。
フォーメーションを4-4-2から4-2-3-1に変更したことで、フォワードが一枚減った分、相手のセンターバックの一人がより前に出てこられるようになった。蕭智堯は、一人のディフェンダーが味方と声を掛け合いながら自分の方へ向かってくるのを見ていた。
表面的には、4-2-3-1の最大の利点は両軍のペナルティエリア間の支配力を高めることにあるが、前線の脅威は大幅に減少し、選手間の連携への依存度が高まる。
そして理善には、蕭智堯以外に「止める・蹴る」の基礎が合格点に達している選手はほとんどいない。これは単純に、彼が中盤エリアで前方のパスコースを一つ失うことを意味する。長年の経験から、レベルの低いチームメイトと単純な連携をしようとしても、失敗に終わることが多いと知っていたからだ。
司徒俊緯は左右を確認し、両サイドバックとセンターバックにスペースを埋めるよう指示し、他の中盤選手と共に彼を遅らせ、孤立させ、できるだけサイドへボールを出させようとした。
『いいぞ。相手が中盤でフリーマンとして振る舞いたいと分かった瞬間、即座に対策を打ち、現場での指示で彼を封じ込める……』蔡與榮は満足げに頷いていたが、すぐに視線を少し後ろ、突然オーバーラップしてきた李向名へと移した。『だが、この13番は本当に……』
「後ろだ俊緯!」
普段自分に対して指示を出すことの少ない蔡與榮の声に、司徒俊緯は驚いて振り返った。そして、いつの間にか李向名が上がり、自分のすぐ背後まで迫っていることに気づいた。
『センターバックが攻撃参加だと!?』
知らぬ間に、蕭智堯は四人のディフェンダーを引きつけていた。彼がボールをふわりと浮かせると、ボールは力なく高く上がり、アタッキングサード付近のスペースへ落ちた。そこに走り込んだ李向名が、誰のプレッシャーも受けずに軽々とボールを収める。
もし彼がそのままペナルティエリア手前まで運べば、あのワントップと共に二対一の局面を作り出すことになる。




