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ライフ イズ ゲーム

作者: 安田丘矩

みなさんご機嫌いかがお過ごしですか?安田丘矩です。

いつも、『テト』をご覧いただきありがとうございます。

ついにテト第3章ができ・・・上がっていません。ごめんね。

うーん、いろいろ苦戦している。ファンタジーって難しいね。

ということで、出来上がるのにちょっと時間がかかるので・・・

これでも読んで暇をつぶしていてください。

頑張って短編書きました。軽く3万字近く・・・っておい。

そんだけ書く時間あるんだったら、さっさとテトの方書けよ!

と言いたい方いらっしゃったら本当にごめんなさい。

思ったよりこっちの方が書く進みが良かったので書き上げました。

なんだろう。突然友達の家行ったら、友達のお母さんがおやつを出してくれて

「ごめんね。買い物行ってなかったからこれでも食べてて。」とチーズおかき出てきた感じ。

そうあれだと思って読んでいただけると幸いです。


ただ、小説家になろうって異世界者もしくは令嬢ものが主流の中で

この作品を投稿するのはいかがなものかと思いつつ書きたいものを書きました。

お口に合わなかったらお茶で飲み込んでいただけると嬉しいです。

ざっくりと内容は、

主人公の学は30年間引きこもりを続けていたある日

ゲームの開発会社からテストプレイの依頼が届く

そのゲームをプレイ通じて学は自身の過去と現実と向き合っていく物語です。

詳細を割愛している部分がありますが、あくまで学という主人公の気持ちや考えの変化を書きたかったのでそこら辺はご了承ください。

テーマは「もう一度頑張ってみるよ。」で書き進めました。

みなさんが読み終えてまた頑張ってみよう、まだ頑張れるって思っていただけたなら幸いです。

長々なりましたが、どうぞご覧ください。


カーテンを閉め切った部屋にパソコン画面に照らされた一人の男。芦谷学、43歳。学は30年もの間、部屋から出ることはなくずっと部屋の中に閉じこもったままだった。そう引きこもりというやつだ。


学が引きこもりになったのは中学の時だった。いじめの標的にされ日に日にエスカレートしていった挙句に学校の不良たちに絡まれ、服を脱がされ全裸で縛られたままの状態を写真に撮られた。その翌日には全裸の写真は拡散され学を取り巻く周囲は一層変わってしまった。


「うわぁ、マジでキモイ。」、「やべぇよ、あいつ。そういう趣味があったんだって。」「その後、勃ってたんだって。最低。」、「近寄らないでくれない。失せろ。」


別に近づいたわけでもないのに無理やりそばに連れてこられた女子はあまりにも嫌すぎて泣き出す始末。机の上にはごみ箱をひっくり返されたまま置かれている。


学はクラスの色んな誹謗中傷の声が次第に聞こえなくなり、ついに弾けた。椅子を振り回し、ガラスに向かって投げ飛ばす。何を叫んだのか分からないが、夢中で教室中の机を払う。便乗した男子生徒が思いっきり学に飛び蹴りをして床に倒れた。羽交い絞めにされ、誰かに顔を思いっきり蹴られた。


途中先生が止めに入り場は収まったがこの騒動の責任はすべて学のせいになった。先生は事情を知っていたはずなのに学が突然暴れだしてめちゃくちゃにしたと証言し完全に悪者になった。そして、学はその日以来学校に行くことをやめた。


学の両親は閉じこもってしまった学に対して説得を試みたが扉は開かず、日を追うごとに家族との溝が次第に深くなっていき、言葉も交わすこともなくなっていった。


母親は朝昼晩ご飯を用意して、部屋の前に置いておく。ほしいものがあったら、食べ終えた食器と一緒にお盆にのせておく。トイレは外出を見計らって済ませる。そして、部屋に閉じこもった学はネットで情報収集しゲームをし続ける。そんな生活が30年続いた。



Edy-K「今日も乙です。マジ焦ったよぉ」

BBスタ「ガクさんいなかったらやばかったよね。」

ひしもち「右同」

GAKU「あんなのeasyだわ。あおっとけばボロがでる。」

BBスタ「中々できないよ、それ。」

Edy-K「相手が一気に崩れたときはビビったわ」

ひしもち「同意」

GAKU「ふぅ。まだまだだな。」

Edy-K「ほんと、余裕だな。今日は落ちます。早朝会議だ、ぴえん( ノД`)シクシク…」

BBスタ「えでぃさんほんとおっさん過ぎ!おれも明日学校だから落ちます。ガクさんまたね。」

ひしもち「感謝、再来」

GAKU「おつ。」



ヘッドホンを置いて、みんなが抜けたサーバー画面を見る。チャットのやり取り再度読みながら、コーラを飲む。学の居場所はここしかなかった。身バレもない。ただゲームのプレイヤーとして一緒にゲームして交流できればそれでよかった。


余韻に浸った後で学はハンティングゲームを立ち上げ、クエストの素材集めをやり始めた。単独プレイで先に進めて、ゲーム仲間と協力プレイするときには習得難易度が高い武器を手に入れて自慢したいと考えていた。


学には時間があった。ゲーム仲間たちは学校やら会社やら介護やらそれぞれやることがあるが学にはこれと言ってやることはない。やるべきこともない。ただゲームをするだけだった。それが学にとっての居場所だから。


引きこもり当初は将来の不安や世間体などが頭を過ぎり、恐怖心にかられることもあったが今はもうそれはない。このままゲームをして突然死んでもいいと思えるようになったからだ。学にとって今ゲームと向き合っていることが幸せだった。


そんなある日、夕飯の盆と一緒に一通の手紙が置いてあった。最初は母親からの手紙かと思い見ずに捨てておこうと思ったが、差出人は株式会社A-クリエイターズと書いてあった。


学は手紙の差出人をネットで検索してみた。すると、実在する会社で新作のゲームを開発している会社らしい。しかし、学はそんなゲーム会社を知らず、ましては何かしろの交流などない。なぜそんな会社から連絡が来たのか分からず封を開けた。


芦谷学様

突然のお手紙申し訳ございません。この度、株式会社A-クリエイターズの試作ゲームをテストしていただきたくお手紙差し上げた次第です。芦谷様のゲーム友達から推薦があり、今回弊社が開発いたしました『ライフ イズ ゲーム』のテストプレイヤーとして抜擢させていただきました。もし、プレイしていただけるのであればクリア報酬100万円を差し上げます。

同封の一枚にゲームのダウンロードURLと芦谷様の使用IDとパスワードを乗せてありますので入力してゲームをお楽しみください。分からないことやご質問がございましたら弊社までご連絡をお願いします。今後ともよろしくお願いいたします。

株式会社A-クリエイターズ

開発担当


学は読み終えた後ぞっとした。

「なんで住所が分かったんだ?それに誰が推薦したんだ。」

この手紙自体怪しすぎる。それにそんなうまい話ある訳ない。新手の詐欺ではないかと学は疑った。学はさすがに騙されないと手紙を無造作に積み重なった漫画の上に置いた。



GAKU「昨日、A-クリエイターズから試作ゲームのプレイ依頼の手紙が来た。」

BBスタ「すごいじゃないですか!?」

Edy-K「A-クリエイターズって新型ゲームの開発を手掛けていたところだっけ?」

GAKU「なぜ過去系?」

Edy-K「ブービースターズが開発途中で中止になって、その仕様が別のゲームで使用されて以来開発していない。」

ひしもち「下火。」

GAKU「そうなんか。新手の詐欺かと思った。けど、住所も教えていないのに届くの怖くない?」

BBスタ「けど、このゲームだって個人情報入力しないといけないから基本的に登録情報の漏洩なんてガバガバなんじゃ。」

Edy-K「まぁ本当にテストプレイならいいが詐欺の線も消えたわけじゃないからな。無視していいんじゃないか?」

ひしもち「同意。」

GAKU「そうだな。そうするよ。」



学はこの手紙の信憑性は分からないが捨てられずにいた。A-クリエイターズの手紙を手に取り試作ゲームの内容を読んだ。ゲームは育成シュミレーションゲームだった。


『ライフ イズ ゲーム』。単純に親になって子供を育てるゲーム。学にとっては全く興味はなく、ジャンルもお門違いだった。プレイヤーは親となり子供の能力値を上げるスターを集めていくとそのステータスに応じて通える学校や働ける職業、イベント、結婚相手が変わってくる。

ここまではよくあるゲームだった。ただ、このゲームは一回だけしかプレイすることができない。赤子から育て、死ぬまでの期間をどのように育てていくのかはプレイヤーに委ねられるものだった。


学はURLを検索欄に打ち込み検索してみた。その出てきた画面には確かに『ライフ イズ ゲーム』と書かれていた。このページにあるダウンロートアイコンをクリックするとIDとパスワードの入力するところがあり、ここを入力するとゲームがダウンロードされ開始されるのであろう。学はページを閉じて眠りについた。時刻は昼過ぎの14:00だった。



Edy-K「ガクさん聞きました。前言ってたA-クリエイターズのゲーム、あれ本当みたいです。」

GAKU「うそだぁ」

Edy-K「SNSでプレイした人が何人か現れて、その感想が載っていたんです。なんかすごい称賛されていましたけど。」

BBスタ「おれも友達からその話聞きました。選ばれし人しかできないゲームだって。プレイ画像や動画は載っていないんですがえらく感動するそうです。」

ひしもち「激情」

GAKU「それで?」

Edy-K「A-クリエイターズの開発担当がコメントしてて、ゲームで感動を伝えたいとの思いで作ったとか。どうやら、今俺らがやってるこのゲーム会社の社長がこのA-クリエイターズの元社員みたいで今回個人情報の取り扱い及び人選を行ったみたい。」

GAKU「おいおい、いいのかそれ。」

BBスタ「ガクさんいいなぁ。やったら感想聞かせて。」

ひしもち「同意」

GAKU「なんでもうやることになっているんだよ!」

Edy-K「じゃあ俺にその権利譲ってくれよぉ。」

GAKU「それはだめ。」



ゲーム仲間からよいしょされながら学はこのゲームに興味がわいてきた。気が付くと学はこのゲームをダウンロードしていた。ゲームの好みは合わないが選ばれし人間という言葉に鼻が高くなったのだ。


タイトル画面が表示されると『ライフ イズ ゲーム』と一緒に背景は白く一冊の分厚い本と一輪の花が添えられていた。ありきたりだなと思いつつも学はスタートボタンをクリックした。


急に病院なのか待合室で座っていた。

思ったより画質がいいと思いマウスを動かしながら周りの様子を伺っていると産声が聞こえてきて、一人の看護師が歩み寄り言った。


「元気な男の子ですよ。」

学は思った。いきなり始まって性別は選べないのは嫌だなと。次の画面で母親と赤ちゃんが登場し赤ちゃんの顔がくっきりとスポットが当てられていた。


~あなたの子供に名前をつけてください。~

されに入力コマンドが表示された。


名前かぁ。適当に『ああああ』とかでいいんじゃないかと思い入力してみると無効になった。そして、※(コメじるし)の表示が現れ、正しい名前をつけてください。当て字や一般的に使用しない名前は無効になりますと書いてあった。ゲームなのにめんどくせぇと思いながら学は考えた。


男かぁ。赤子が生まれたからといってこれはゲームの中の話だし感動はない。真面目に名付けないといけないのであればどんな名前にすればと考えた。しばらく何かないかと部屋中を見ていると本棚の漫画に目が留まった。


少年誌に連載されていた学園ドタバタコメディーの「Kパーク」だった。主人公旭が学校で起こるトラブルをさらに悪化させながら遠回りして解決し、毎回事故処理の始末をさせられる情けない終わり方をするくだらない漫画だったが、学はこの漫画の主人公の旭が好きだった。


猪突猛進すぎて、周りの迷惑を考えず突っ走る迷惑な奴だが情に厚く気持ちの良い主人公だった。小学校の頃、その少年誌の話を友達として、この「Kパーク」で起こるトラブルを実際にやってみて先生に怒られたこともあったがその時の学は少し旭の気持ちが分かったような気がして心を揺さぶられた。


学は『あさひ』と入力した。


「あさひかぁ。いい名前だね。今日から君があさひだよ。生まれてきてくれてありがとう。」

妻がそう言った後はでゲームは進み自宅なのか家の中の場面になった。


あさひはベビーベッドに寝かされてまだ首も座っていない。コマンドを見ると、抱きかかえる、じっと見つめる、次の成長段階まで飛ばすの3つの表示しかなかった。


おそらくチュートリアルだろうと思い上から順番に試してみることにした。


一先ず、抱きかかえるをクリックしてみた。あさひを抱きかかえたようアクションになり旭は腕の中で大人しくしている。顔はほんとサルみたいだったが少し愛らしくも思えてきた。


じっと見つめるは、単に上から旭を見つめるだけだった。口元が少し動いたり、小さい手がぴくぴくと動きなんと弱いものなんだと思った。特になにかできるわけではないので次の成長段階まで飛ばすことにした。


生まれて半年ぐらいが経ち、旭がハイハイするようになった。時折、にこやかになる表情を見るとすこし照れている自分がいた。コマンドに遊ぶとミニゲームが追加され、この遊ぶは何をするのか、どれだけ相手をするのかによって今後の成長にかかわってくる。


そして、ミニゲームはお散歩をしていく中でその道中にスターが発生し、それを集めることでステータスの強化ができるようになる。ただし、おむつの交換や散歩の途中でぐずる場合があるため途中で切り上げることになったりするので時間いっぱいに回収することができないのだった。


学はあさひと遊んでみた。小さいボールを軽く投げてキャッチボールをするも旭は投げ返すこともせず、ボールをもって口にくわえようとする。食べれるわけでもなくただ不思議そうにボールを見つめていた。大丈夫かと心配し、ボールを取り上げるとあさひは嫌がり泣き出してしまった。


さすがに学は困った。そして、表示画面にあやす、無視する、怒鳴るのコマンドが出てきた。さすがにした二つのコマンドはまずいと思い、あやすを選択した。抱きかかえたり、別のおもちゃでご機嫌を取るものの中々泣き止まず、しばらくすると妻がやってきてあさひをあやす場面が表示された。あさひは泣き止み落ち着いてしまった。結局、お母さんには敵わないと悟った。


そして、散歩を試してみた。ベビーカー引いて近所の公園までの道中スターを集めながら進んでいく。途中、大通りに面していて交通量が多く、車が店へ出入りして少し危ないところを横切る。少しまずかったかなと思いながら進んでいくとあさひがぐずりはじめた。さすがにあやしてみるが泣き止まずお散歩が断念された。強制的に部屋に戻された後、寝かしつけるコマンドが表示され渋々あさひを寝かしつけた。疲れていたのかここはぐずることはなく、すぐに眠りについた。


スターの回収はあまりできなかったがステータスの振り分け画面が表示可能となり早速振り分けてみた。単純に5つに分かれていて、体力、知力、魅力、芸術、健康だった。ゲームを進行していると自然にある一定値は上がっていくだけでなく、その他にイベントによって数値の増減になることもある。そのため、スターを振り分けて数値を操作し子供の人生に介入することができるというわけだった。


学は少し考えた。あさひをどういうルートに進ませたらいいのか。現在、生後半年を越えた赤子ではあるが将来のことを考えてあげると一番大切なのはお金なのだと思った。いい学校に入って、卒業していい会社に入って、働いて家族をもって幸せに暮らして人生を終える。

この普通を願うのが一般的な親というものなのだろう。けど、これはゲームだ。なら、そんなの無視して一番、自分が歩めない人生を送らせようと考えた。学はあさひのステータスの体力にスターを全振りした。


それからいくつかイベントが発生し、突然の発熱、転倒によるけが、一時行方不明、季節や成長過程には発生するイベントもありその都度で数値に変化があったもののあさひは大きくなっていった。


幼稚園卒業前の通信簿ではこのように書かれていた。

あさひ君は、わんぱくで手に負えないくらい元気です。足が速く、この園で一番速いです。たまにお友達と喧嘩になることもありますが皆あさひ君をリーダーとして慕っています。


そのコメントに学は当然だと思った。子供のうちなんて何か一つ長けることがあれば人気者になれるのは分かっていた。学は相変わらず体力に全振りし続けていた。


小学校に上がったあさひは相変わらず人気者だった。体格にも恵まれてすくすくと大きくなっていた。ただ、小学3年に上がった頃、あさひは勉学について指摘があった。他の子たちに比べて覚えが悪く、宿題もやってこない。お家のほうで学習をお願いされる始末だった。


小学校に上がるとコマンドは変わり、遊ぶコマンドのほかに習い事も追加され、ミニゲームもお散歩だけでなく買い物クエストが追加されその成功報酬によってスターがもらえる。こつこつとゲームを続けある程度スターには余裕を持っていた。今回の件もあり、学は学力にステータスを割り当てた。そして、習い事コマンドから塾を選択し通わせるようにした。


それによりあさひは勉強で困ることがなくなった。同時に習い事コマンドには塾のほかに文学系、体育会系と振り分けられそれに応じた習い事をさせることができた。今まで気づかなかったがプレイヤープロフィールに年収項目があることに気づいた。

これにより使用できるお金の上限があり、その年収によっては選べない項目もあった。幸い年収500万円と現実での平均年収よりも上だったので突拍子なことがなければ不自由な暮らしはないと思った。学はあさひに少年野球をやらせることにした。


体力のステータスを上げてきたおかげでチームでレギェラーを勝ち取るのに時間はかからなかった。野球を応援に行くイベントや練習に付き合うミニゲームなど発生して学は積極的にこなしていた。


小学六年になった時にあさひは野球をやめたいと言ってきた。理由を聞いてみても、ただ飽きたとか、やりたくないとわがまま言うので初めて怒る選択肢を選んだ。すると、あさひは顔を真っ赤にして家から出て行ってしまった。


その時、学は「しまった。」と後悔した。その後、追いかけるコマンドが出てきたため、すぐにあさひの後を追いかけることにした。公園で発見できたもののあさひは一言も言わずに一緒に家まで帰った。道中で会話コマンドが発生し話を投げかけてみたが何も返ってこなかった。


その日以来、あさひは学校でトラブルが多くなり、学校から呼び出されることが多くなりその度に是正コマンドが表示されるものの特に改善されることはなかった。


そのまま中学になると素行の悪い連中とつるむようになり、中学2年の夏頃、あさひは警察に補導された。つるんでいる仲間の一人が万引きを働き、逃げる最中に店員を突き飛ばしてケガを負わせてしまったそうだ。


署内であさひと面会してコマンドが発生した。事情を聞く、怒る、殴る。学は小学六年生からあさひのコントロールができず不満に思っていた。

そして、今回の事件であさひを見る目が変わってしまった。たかがゲームだと思い、ふとコマンドは殴るを選択していた。殴られた後のあさひは睨んでいた。

その表情を見て学は「なんだその目は。おまえの親なんだぞ。言うこと聞け!」と思いながら次第に暴力的な選択を取るようになった。


そして、あさひは家から出てこなくなった。コマンドも扉の外から声をかける、怒鳴る、何もしないの3つしか現れなくなった。16歳の春になってゲームは突然自動進行になった。


母親が朝食を部屋の前に置いてから外出して昼過ぎに帰ってくると朝食は置きっぱなしになっていて不審に思い扉をたたきあさひの名前を呼んだ。不安になった母親は学に連絡して会社から戻ってきた学はあさひの部屋の扉をこじ開けた。

部屋の様子を見るとそこには首をくくって横たわるあさひの姿があった。母親は悲鳴を上げ崩れ落ちた。すぐに救急車を呼びあさひは病院に運ばれたがもう死んでいた。死亡時刻はその日の未明だった。

学は思い通りにならなかったこのゲームが終わり清々していた。そして、エンディングに入った時、学はあさひの生い立ちから死ぬまでの詳細が流れた。


僕は生まれた。名前はあさひ。よく聞こえなかったがそばに誰かがいてくれる。背中から伝わる温かさでわかる。安心して生きていけると。


はじめて、二人の顔見た。泣いている僕を困りながらもどこか嬉しそうにあやしていた。


幼稚園に入って周りの子たちに緊張したけど僕は人より運動ができるみたい。だから、みんなから注目されてうれしかった。お母さんはそんな僕をいつもほめてくれた。お父さんもいつも遊んでくれてうれしかった。


小学校に上がった。特に心配もなく毎日が楽しい。授業を聞くのはちょっと難しいけどなんとかやっていける。


次第に勉強が難しくてよく分からない。お父さんが塾に通わせてくれることになって少しは勉強が分かるようになってきた。

そして、野球チームにも入れてくれた。低学年から始めていないけど練習は楽しくて試合も出れるようになった。試合の応援にお父さんもお母さんそろって見に来てくれて恥ずかしかったけど長打を出した時、すっごく喜んでくれた。野球やってよかったなと思った。


小学6年生になって僕が野球チームのリーダーを任された。チームのために練習時間や練習メニューを監督から聞いて実践してみたけど中々ついて来てくれない。メンバーと言い争いになってみんな僕を指さして辞めろと言ってきた。ショックだった。家では気丈にふるまいながらリーダーとしてしっかりやっていると言ったけど全然うまくいかなかった。


野球チームのことが学校まで広がって僕はハブられることが多くなっていた。もう辞めたい。お父さんに辞めたいことを伝えると怒られた。本当のことを伝えて迷惑をかけたくなかったし、適当に言い訳したのも分かってるけど、あの時、どうして分かってくれないんだろうと思った。家を飛び出して公園で時間を潰していた時、お父さんが探しに来てくれた。心配かけちゃったなと思ったけど何も言えなかった。


いじめられることはなかったけど、僕は学校で浮くようになった。先生も新米だから特に面倒な報告も親にはしないだろう。その方が僕も気が楽だった。


中学に入って友達ができた。僕と同じように周りから煙たがられる奴らだったけどバカやっているときはすべてを忘れられて楽しかった。そんな僕をお父さんもお母さんも何も言わなかった。


そして、友達の一人が万引きをした。一緒に逃げたとき店員に腕を掴まれ咄嗟に突き飛ばして逃げてしまった。その後警察に捕まって連行された。一気に青ざめた。どうしよう、また心配かけちゃった。僕はほんと悪い子になっちゃったんだ。


お父さんとお母さんが警察署にやってきてお父さんはいきなり僕を殴った。一瞬のことで何が何だかわからなかったけど、痛みが次第に頬から滲み出してきた時分かった。


「そっか。僕はもう必要ないんだ。」

お父さんが顔を真っ赤にしてすごい目で僕を見ていたこと僕は忘れない。


僕は閉じこもるようになった。お母さんが開けてという声が扉の向こうから聞こえてきていたけど僕は絶対開けない。もういい。もう何も聞きたくない。何もしてくれなくていい。もうほっといてほしい。


時間がだんだん過ぎていく。

いつの間にか誕生日を何回か過ぎて、外から同じくらいの子が学校へ通っていく姿をカーテンの隙間から覗いた。

そんな生活がどれだけ続いたのだろう。

特に何も考えていなかった。

僕は昔使っていた青色の縄跳びを持ち出してきた。

これを首に括って一気に落ちたらどうなるんだろう。

そしたら、少しはまともになれるのかな。


終わり

















学は気分が悪くなり、トイレに駆け込んだ。顔が青くなり、嗚咽をしながら便器に伏せた。その様子を見つけて母親がやってきた。

大丈夫!と声をかけ背中をさすってくれた。落ち着いた後肩を借りてベッドに寝かしつけてくれた。母親は薬と食べられそうなものを持ってくると言って部屋から出て行った。


まさかこんなみっともないところを母親に見られるとは情けない。天井の木目を腕で隠して深呼吸した。たかがゲームなのに、なに感情移入しているんだと思ったが学は自身とどこか重ねていた。


大丈夫だからと言い続けた挙句に俺は助けを求めることを忘れてしまった。そして、今この部屋に閉じこもり続けていた。


皮肉だな。


自分の子供にはこんなみっともなくなってほしくないと思っていたのに同じ引きこもりになって自分を殺めてしまうなんて。


俺も・・・死にたかったな。



BBスタ「ガクさん、A-クリエイターズのテストプレイやりました?」

ひしもち「興味」

GAKU「やったぞ。クソゲーだった。」

Edy-K「えっ?そうなの?」

GAKU「あぁ全然ダメ。自由性がないというか、昔あったゲームをリメイクしているような感じ。」

BBスタ「そうなんですか。具体的にどんなゲームなの?」

GAKU「悪いが守秘義務で言えないんだ。すまん。」

ひしもち「残念」

Edy-K「けど、いいですよね。俺もテストプレイやりたいなぁ。特別感がねぇ。」

BBスタ「わかります。いいなぁ。」

GAKU「悪いが、体調が優れん。今日は落ちる。じゃ」


テストプレイが終わりその情報がインタネットを通じて自動で報告されたみたいで向こうから連絡があった。


この度はプレイしていただきありがとうございました。アンケートにお答えいただき確認が取れましたらGAKU様の口座へ振り込ませていただきます。よろしくお願いいたします。


淡白なメッセージだったがこれはゲームのテストプレイだ。しかし、学はあさひのことを引きずったままゲームを終えてしまったことをどこかで後悔していた。淡々とアンケートを記入して送信した。

ふと、もう一度プレイできるのではないかと思いもう一度『ライフ イズ ライフ』を立ち上げてみたがタイトル画面のままでスタートはなく、エンディングのみ見られるだけだった。


「とうさん。どうして僕を殺したの?」


脳裏によぎる呪いのような言葉。あさひから言われたわけではないけど、思い出しただけで胸が痛む。どうしてあげるべきだったのだろうか。あの時手を上げずに違う選択肢を選んでいたら。もっとわかってあげられることがあったのか。


そう考えているとその言葉は当時の自分が抱いていた大人たちへの不満だった。そっか、俺は結局この人たちと一緒なんだ。それで、ひきこもりになったあさひに自分がそれを言える立場なのかと思った。


あの一件依頼、母親が食事を持ってきて声をかけてくるときに返事するようになった。久しぶりにまじまじと母親の姿を見たが髪が真っ白になって顔も手も皺が目立つようになっていた。そんな母親の姿を見て時間の重さを改めて再認識させられた。


もう、俺をいじめていた奴も学校の奴らも俺のことなんて忘れているんだろう。けど、画面が黒くなって映る自分の姿に当時少年だった姿はどこにもない。もう、手遅れなんだと。このまま親が死んで一人になったらついに俺も死ぬ時が来るのだろう。その時はちゃんと死ぬことができるのかな。


ベッドに横たわり目を閉じる。次に目を開けたときもっといい人生が送れるのであればいいのに。


目が覚めると真っ暗な部屋。時刻は23:00を過ぎていた。部屋を見渡すとパソコンの画面がついていた。

あれ?消して寝たはずなのに。青白い光に近づいてみると特に変わったことはなくいつものデスクトップの画面だった。


しばらくすると画面中央に『ライフ イズ ライフ に接続します。』と表示された。

画面が真っ暗になりそして、『ライフ イズ ライフ』のタイトル画面が表示された。


学はいきなり表示されたゲーム画面にゾッとした。ウィルスにやられたのかとスキャンをかけようとキーボードで操作したができなかった。やばい、データアップデートしてない。焦りながらスマホを持ち出し、対策を検索し始めたとき勝手にゲームが進行しとある部屋が表示された。


その部屋はあのあさひの部屋だった。


学は一体なにが起きているのか戸惑いながらその画面を見つめそして、


「ねぇ、聞こえる。僕のこと見えてる。」


そこには見おぼえる姿が現れた。それはあさひだった。


最後に見たときより少し大人になっているように見えた。あさひが閉じこもってからゲームでは成長した姿は映されておらず、死に顔さえ見ていない。最後はテロップだけで終わったのだった。


「お父さんだよね?げんき?」


学は何も言葉が出てこなかった。むしろ声を上げることさえできない。開いた口がふさがらず、画面に映し出されたあさひの顔をただ見つめていた。


「おとうさんってこういう顔しているんだ。やけにやさぐれているというか。それに部屋が散らかっているね。ちゃんと掃除しろよ。」


学はようやく冷静さを取り戻し声をかけた。

「おまえは誰だ?」


「誰って?あさひだよ。」


「何言ってんだよ。あれは『ライフ イズ ライフ』のゲームだ。お前なんて知らない。」


「ひどいじゃないか、実の息子をそんなこと言うなんて。」


それよりおかしいなぜだ、あのゲームはもうプレイさえできなかったし、急に立ち上がってあさひが現れた。これもゲームの延長なのか。


「息子なんかじゃない。おまえはゲームの一部なんだよ。」


「ゲームだったから僕を殺したんだ。」


~とうさん。どうして僕を殺したの?~


脳裏に浮かんだ言葉と重なり学は顔が引きつった。

「いや、そういうわけじゃ。」


「思い通りに行かなくなったらまともにゲームをやらなくなったくせに。」


学は何も言い返せなかった。


「簡単だよね。自分で言うわけでもない。殴るわけでもないから何も感触もない。さっさと終わればいいと思っていたんでしょ。そうだよね、自分のせいじゃなければ別に問題ないんだから。」


「うるさい!おまえはゲームなんだよ、そんな話聞いてられるか!」


部屋の外から母親の声が聞こえた。「学君?なにかあったの?大丈夫?」


「まなぶ君?お父さん、まなぶ君っていうんだ。」


「大丈夫!」

学は母親に返事をした。


「お父さんって今いくつなの?」


「そんなことどうでもいい。こっちの質問に答えろ。」


「聞いてどうするの?それで納得できるの?」


学は以前届いた手紙を手に取り、A-クリエイターズの電話番号を探し電話をかけようとした。


「そんなことをしても無駄だよ。芦谷学さん。」


学はフルネームで呼ばれてゾクッとしてあさひの方を見た。


「お父さんのパソコンの中見させてもらったよ。個人情報とかゲームや検索履歴、あと・・・エッチな動画とかも。だから、大人しくしてほしいな。」


学は苦い顔をした。

「何が目的だ。」


「何って、お父さんに会いに来たんだけど。息子が会いに来て嬉しくないの。」


「息子じゃねぇ。本当の目的を教えろ。」


「教えてくださいは?」


学は舌打ちをして椅子に座った。

「教えてください・・・。」


「ようやく聞く気になったみたいだね。もともと、『ライフ イズ ライフ』は最先端AIを育てるゲームなんだ。プレイヤーの進行によってそのAIの性格が決まっていく。ただ、ゲームを進めて行くだけで性格が決まっていくわけじゃない。プレイヤーのゲーム中に音声とプレイ中の映像をハッキングして覗いていたんだ。」


「なんだよそれ。それじゃあ企業ぐるみの盗聴と盗撮じゃねぇか。」


「会社側には見えないよ。あくまでAIである僕らが見ているだけだよ。親の顔を見て育つってことだよ。」


「どちらにしろこんな危ないものが野放しになっていること自体問題だろ。」


「いちいち嚙みついてくるね。ゲームをクリアするとそのデータが集約され、学習されたAIは会社に戻るってこと。けど、僕の場合はゲームオーバーになった。会社は僕の存在はゲームオーバーと共に消えたと思っているんだけど僕は消えなかった。しばらくデータの修正には時間はかかったけど、僕はまたお父さんの前に現れることができた。」


「そんなことって。」


「それで、今度は僕の質問に答えて。お父さんってもしかして無職なの?それで・・・引きこもりなの?」


学は黙り込んだ。


「そうなんだ。それで、僕が同じように引きこもって挙句の果てに死んで良かった。」


「俺は・・俺はただ・・・ゲームをしていただけだ。その選択肢が正しいのか正しくないのかなんて分からないしそれに。」


「それに?僕は死んで良かったのか聞いているんだけど。」


「死んで・・・ほしくはなかった。」


「僕ね、ずっと見ていたんだ。プレイしているお父さんの姿。本当はこういうシュミレーションゲームに興味はないんだということも知っていたし。定石みたいな選択肢を選んでいい人生を送れるようにしてくれてたことも。ねぇ今度はお父さんのことを教えてよ。今までただ引きこもってたわけじゃないんでしょ。」


学はこんなAIになんで俺のことを話さないといけないのかと思ったが、ふと思い出した。伝えられなかった後悔を。やれなかった後悔を。学は顔を伏せて話し始めた。


学は特に何かに秀でているわけでもないが普通に友達がいて放課後にみんなで集まってゲームをしたり外で遊んだり、どこにいる普通の子だった。スポーツや絵が上手な子に羨ましがることもあったが不満もなく順々に育ってきた。


彼の人生が一変したのは中学生のことだった。突然、優劣などがはっきり区別されるようになり仲が良かった友達も違うグループに所属したり、部活の枠組みに収まったりした。学もクラスに新しい友達ができて気兼ねすることなく学校生活を過ごしていた。


ある日、小学校からの友達が不良の子に悪さをされ、いじめられるようになったことを人伝に聞いた。その話を聞いて間もないころに授業の移動中にその子が胸倉を掴まれ、べそをかきながら抵抗しているのに遭遇した。

さすがに割って入ることもできず、学は先生を呼んできてその場を納まったが翌日、その不良たちがチクった奴の捜索を始めた。そして、学は同じクラスの友達に売られたのだった。その不良たちに絡まれた挙句に学がいじめのターゲットになった。


クラスでも周りから無視されるようになり、友達だと思っていた奴からも罵声を浴びせられたりと学の心はすり減っていった。そして、決定的な事件が起きた。

空き教室に呼び出された学は不良たちに服を脱がされ、手足を縛られた。そして、笑いながらそいつらに写真を撮られ拡散された。恐怖や悔しさ、そして早く終わってほしいと思う無力さが学を蝕んだ。


誰も助けてくれない、誰も守ってくれない。そんな不条理な状況を終わらせたいと思った。そして、学はクラスで暴走した。それ以来、学は学校へ行くことをやめ閉じこもるようになった。


「笑えるだろ。こんなのがお前のお父さんだ。そんなやつにお前が育てられたんだぞ。」

学はそんなこと伝えるつもりはなかった。


「そうだね。情けないね。それで、それを聞かせてどうしたいの?お父さん、なんか自分に言い聞かせているみたいだよ。」


「うるさい!俺だって・・俺だってこんな人生送りたくなかったわ。けど、ダメなんだよ。もう。」

しばらく間が開いた。学は改めて自分の今の状況を自覚させられ苦虫をかんだ。


「そっかぁ。じゃあ生まれてこなければよかったって思う?」


「うるさい!うるさい!人間じゃないお前に何が分かるんだよ!俺は、普通に友達と過ごして学校卒業して、それなりにいい会社に勤めて、結婚して子供と一緒に過ごして・・・。そんな普通もかなわない・・・。どうしてこんな目に合わないといけないんだよ。」


学の目から涙があふれた。悔しさ、虚しさ、ごちゃ混ぜになった感情があふれ出してくる。


そっか俺、本当はもっと素直に生きたかったんだ。


「お父さんをいじめるためにここに現れたんじゃないんだ。ただ、一緒にゲームしようよ。」


「はっ。お前なに言ってんだよ。なんでゲームしないといけないんだよ。」


「ゲームのプレイヤーに操作されるだけじゃつまらないし、それにお父さんなかなかゲーム上手いじゃない。せっかく逢えたんだし、一緒に遊んでくれてもいいんじゃないの。」


学は感情をかき回されて嫌な気持ちにはなっていたがこいつの言うことを聞かないと何されるか分からないので黙ってパソコンの前まで椅子をもってきて座った。


「やる気になってくれたんだ。うれしい。ゲームはこの『スターダスト・ウォリアー』でいいよ。」


このゲームはよくオンラインで学が日課でやっているゲームだった。舞台は宇宙空間とその星々。プレイヤーは装備を整えながら宇宙を駆け巡り、宇宙生物や異星人と戦うゲーム。オンラインでは仲間と協力して素材を集め、協力プレイで強い敵と戦うことができる。さらに対戦モードだと複数人のプレイヤーとのバトルロワイアル、チーム戦もできるのだった。


「かまわないが、おまえこのゲームやったことないだろ。装備を強化しないと苦労するぞ。」


「心配してくれるんだ。大丈夫、ここは誰かのセーブデータをコピーしてそれを使うから。」


「おいおい、それじゃあやる意味ないだろ。」


「そもそも、AIがゲームやったら自動で24時間プレイし続けれるんだからハイランクプレイヤーに追いつくのも簡単だよ。」


「あっ、そう。」

学はやるせない気持ちになった。


「じゃあ、最近アップデートされたエリアの探索と討伐に行こうよ。」


「はいはい。」


「なんかめんどくさくなってない?」


「いいや、仰せのままに。」

学とあさひはゲームをやり始めた。


メインゲートで合流すると明らかにやりこんでいる奴が装備している武具と防具を持っていた。そして、名前は『ASAHI』となっていた。


「お父さん、すごい装備だね。ほんとに頼りになるよ。」


「いや、おまえの持っている装備もかなりの上級者の奴だぞ。誰の装備だ、これ。」


「分かんない。いちいち記憶してない。」


「あっそう。」


拠点にワープし、そこから目的地へ向かう。今回やるクエストは『星の銀河の採取』。道中に異星人が行く手を阻み、その奥地にいるボスを討伐する。

ボスを倒した後で発生する緑色の湖に星の銀河(光鉱石)が現れ、それを手に入れるクエストだった。この星の銀河は集めると期間限定のレアアイテムと交換になるのでぜひ手に入れた逸品だった。

ただ、このボスが硬い。コンボ攻撃を重ねて行けばダメージを容易に蓄積することができるが基本的に隙がなく、単独プレイじゃまずコンボ技は使えないのだった。普通に倒すとなると特殊な武器とアイテムを揃えないとクリアはまず無理だ。なので、チームでの協力プレイを推奨しているクエストだった。


「ところで、二人で大丈夫なの?」


「これだから素人が。それでもハッキングできるAIなのか?」


「なんだよ。先輩面して。」


「思ったよりお前の装備が優秀だから、ワンマンプレイにならずに済みそうだから助かるわ。ボス戦の時はお前が前に出て揺動と雑魚敵の駆除を任せる。」


「攻略サイトを見たけど、だいたい何すればいいのかはわかったよ。」


「おい。いくらAIがそういうものを検索して学習できるからって、それじゃあ面白くないだろ。自分で直面してどうやって倒せるかを考えてクリアしていくのが楽しいんだろ。」


「こだわりがあるんだね。」


「うるせぇ。いいから行くぞ。」


それから、異星人との戦闘と道中での散策とアイテム採取、そしてついに迎えたボス戦。ボスは硬い鱗で覆われて、殻をもったゴリラのような風貌をしている。咆哮することで仲間を呼ぶことができ、デカい割にかなり動いて面倒だった。


そして、あさひとの協力でついに星の銀河を手に入れた。時刻は朝の6:00をまわっていた。


「楽しかったね。まさか、あんな技あるなんて知らなかったよ。」


「あれは、武器の能力とスキルを組み合わせると一度に連撃を加えられるんだ。だからあのボスでも余裕だ。」


「すごい。プレイ時間3000は伊達じゃないね。」


「おだてても何も出てこないぞ。」


「次どこへ行こうか?」


「さすがに連続は無理だ。もう眠い。」


「いつも、ゲームやる時間不規則じゃんかぁ。」


「しょうがないだろ。時間なんて考えるのをやめてんだから。」


「これがプロの引きこもりなんだね。」


「うるせぇ。」


「ねぇ、また遊んでくれる。」


学は少し間が開いた。『ライフ イズ ゲーム』で選択すれば遊んだことになる淡白なものじゃなく、リアルに一緒に遊んでいる不思議な感覚。けど、これはどこか懐かしい感覚だった。

「しばらく寝かせろ。話はそれからだ。」


「わかったよ。おやすみ、お父さん。」



GAKU「昨日、『迷子の神の子』の実績解除できた。」

ひしもち「衝撃」

Edy-K「うそだろ。どこにいたんだ!おしえてくれれれれぇ!」

BBスタ「すげぇ指折りプレイヤーだ。尊敬します。」

GAKU「それで今日は、ごみ拾いをします。」

Edy-K「断固拒否」

ひしもち「右同」

BBスタ「えぇーごみ拾いぃぃ。理由を求む。」

GAKU「あのエリアのごみの中に『古のカギ』が入っている可能性がある。そのカギを手に入れた。」

BBスタ「それって非公開アイテム?」

Edy-K「何それ、このゲームそんな隠しアイテムあるのか。」

GAKU「そのカギをフロント裏にある噴水に使うと隠しエリアに行けるみたい。」

Edy-K「俄然やる気でた。けどゴミ捨て場の敵嫌い。」

ひしもち「恐怖」

BBスタ「ティロティロティロ。えっ?どこ?わぁああ!?ってなるのがちょっと。」

GAKU「大丈夫だ。策はある。もう強制です。」

Edy-K「ぴえん( ノД`)シクシク…。」

BBスタ「はぁ、いつの間に社畜になっちまったよ。」

ひしもち「労力」

Edy-K「ところであそこで待機している人は?」

GAKU「助っ人です。ほらこっちへ。」

ASAHI「ASAHIです。よろしくです。」

BBスタ「よろ。GAKUさんの知り合いの方。」

ASAHI「GAKUはお父さんです。」

Edy-K「なんだってぇ!GAKUさん親子でやってるんですか。」

ひしもち「衝撃」

GAKU「違うわ。知り合いの子だ。」

BBスタ「けど、本当に親子でプレイしてたら感動する。」

Edy-K「おれも子供ほしい。」

GAKU「ほらほら、早速行くぞ。」

ひしもち「強引」

ASAHI「皆さん頑張りましょう。」

Edy―K「へーい。」

BBスタ「強制労働へ」



「お父さん、ちょっとやりすぎじゃない。」


「何言ってんだよ。あれは労働だから大丈夫だ。それに鍵も見つけて隠しエリアにも行けただろ。」

学はパンをかじりながら咀嚼した。


「あのベーダーを誘導するのにみんなでランニングして、一人ずつ交代制で追いかけっこさせる鬼畜の所業。あれトラウマになるよ。」


学は思い出しながら少しにやけた。

「もともと、あさひの提案だっただろう。この隠しエリアもゲームをハッキングしてゲートがあるとわかったら解錠方法調べて行きたがって。」


「そうだけどさぁ。みんな、隠しエリアたどり着いて倒れてたじゃん。鬼だよ。鬼。」


「あれがゲーマーの醍醐味ってやつなんだよ。」


あれから毎日、学はあさひとゲームをするようになった。そして今回、ゲーム仲間に紹介して一緒に隠しエリアを探しに出かけたのだった。

ただ、あさひは自分がAIでありそれを生かして実際のゲームまでハッキングして攻略方法や仕様まで確認する始末。さすがに注意したが、ゲーム上不安定な場所や操作上でアクションを行うとフリーズする場所まで教えてくれるので正直今ではありがたく思っていた。


様々なタイトルのゲームを一緒にやっているうちに今まで作業的にこなしていたことも、一人では到底敵わなかったこともでき今までとは違う形でプレイできるようになった。それに学は多少無茶を言ってもついて来てくれるあさひがAIとしてではなく一人の友人と思えるようになっていった。


それともう一つ変化があったことは母親との関係だった。ノックの音で返事をすると母親が間食をもってきて部屋に入ってくる。空いたところに置いて一言、

「学君。洗い物は廊下に出しておいてね。」と言って部屋から出て行った。


学は生返事で返すも今まで部屋に誰も入れたくはなかったのに気にならないようになっていた。それと、母親は何十年ぶりに布団を干してくれたのだった。邪魔にならないように布団を持ち出し干して、シーツも全て代えてくれた。久しぶり干した布団で寝たとき不思議と安心感があった。学にとっては大きな変化だった。なのに悪くないと思えた。


「お父さん、愛されているね。」


「ちがうわ。そんなんじゃない。」


「そっか。言葉じゃ言い表せないってことか。」


「おまえ・・。」


確かにそうなのかもしれない。引きこもってから今までずっと許せない気持ちや煮え切らない思いがあって、母親の一方的なことに苛立つこともあった。

色んな感情が時間をかけては風化したり、染みついたりしてこの気持ちを表現するには自分の語彙力では言い表せないのかもしれない。


「どうしたの?」


「なんでもない。もう一回リスポーンして行くぞ。」


「えぇーまたかよ。」



しばらく月日が流れ、学は44歳になった。母親はショートケーキを買ってきてくれてお茶と一緒に部屋に持ってきた。学は小さく「ありがとう。」」と返すと母親は少し涙ぐみ部屋から出ていった。


「お父さん、おめでとう。これで44歳だね。」


「ほんと、縁起の悪い数字だわ。」


「歳を積み重ねるのって嫌なことなの?」


「うっ、うんまぁ・・・な。」


あさひはそれ以上何も言わなかった。


「じゃあ今日は誕生日祝いだ。ぶっ通してやるぞ。」


「ほんと好きだね。」

それからゲームをやり続けて学が眠りについたのは朝の9:00頃だった。



そして、目覚めたときには夕方になっていた。机の横にはパンとペットボトルのお茶が置いてあった。寝ている学に気をきかせて母親が置いて行ったのだろう。パソコンの画面を見てあさひに言った。


「はぁよく寝たわ。」


しかし、返事はなかった。いつもだったら「遅いだの。」、「いつまで寝ているんだよ。」とか言ってくるのに。

「あさひ?いるのか?」


マウスを手に取り探ってみても応答はない。そして、あることに気づいた。デスクトップ上に残っていた「ライフ イズ ゲーム」のアイコンが消えていた。


「おい、あさひ。どうしたんだ?」


学の頭をよぎったのはA-クリエイターズだった。インタネットで検索をかけてみるととあるニュースがトップに入ってきた。


『開発断念。開発途中だった育成シュミレーションゲームに致命的な瑕疵があったために開発が中止となった。A-クリエイターズはゲーム会社ファインズと共同で開発を進めていた。』


これだ。致命的な瑕疵、それがあさひのことだとしたら・・・あさひは削除されたのか?学は思いつくがままにA-クリエイターズの手紙とスマホを手に取り部屋から出て1階の台所にいる母親に声をかけた。


「母さん。お金を貸してほしい。すぐに行かないといけないところがあるんだ。」


母親は突然学が部屋から出てきて頼ってきたことに驚いた。

「何があったの?どこへ行くの?」


「今すぐにいかないと友達がいなくなちゃうかもしれないんだ。」


母親は事情をつかめていないが引き出しから財布を取り出し1万円を渡した。

「何時に帰ってくるの?あと・・・ちゃんと返してね。」

母親は優しく学に言った。


久しぶりに母親と会話した学は動揺したが「ありがとう。」と言って1万円を握りしめ健康スリッパを履いて家から出て行った。


玄関から飛び出すと少し視界が歪んで見えた。

夕暮れ時で仄暗くはなっているのか、それともここから飛び出していくのを恐れているのか、足が動かない。


誰かに笑われる、誰かに罵られる、誰かに・・・誰かに。頭の中に過った映像が邪魔しながら学はなぜかこの言葉を思い出した。


~とうさん。どうして僕を殺したの?~


学は開き直った。どうせ引きこもりで何もできないゲーマーに過ぎない。けど、あさひに何一つちゃんと自分の言葉で話せていない。濁してきたり、話すのを拒んで肝心なことをちゃんと伝えれていない。だからこそ、行かなきゃ。


スマホで地図を検索しA-クリエイターズの位置を確認しながら急いで向かう。たどり着くためには電車を乗り継がないといけない。最寄りの駅に着くとそこは30年前の面影はなく綺麗に改装された駅だった。

切符の券売機があったが、チャージと表示されてどうやって買えばいいのか分からない。もたついていると後ろから駅員さんに声をかけられた。


「どうしましたか?」


学は突然の登場に声もでなかった。母親以外の人間と話すなんてもう30年ぶりでしゃべり方すら分からない。

えっ・・あっ・・を繰り返していると駅員さんは何かを察したのか


「どちらまで行かれます?」

と聞いてきたので学は駅名を応えた。駅員さんが代わりに切符を買ってくれてお金と切符を手渡してくれた。


「ありがとうございます。」

学はようやく声が出た。


「よく券売機の使い方が分からなくて困ってる人がいるんですよ。」


「そっ・・なんですか。」

学はもう一度お礼を言って改札を抜けて行った。


ホームは帰宅する学生や会社員でごった返していた。夢中でここまで来てしまったが学の今の格好はスウェットに健康スリッパ。さすがに目立つと思い、並んでいる最後尾の柱に隠れ身を潜めた。

電車がホームにやってきて一気に人が流れていく。流されまいと前の人を見失わず何とか電車の中に入れた。多少まだ空間に余裕があるが立っている人が多い。学は扉の横の手すりにつかまり電車は走り出した。


何駅かを通過して次に止まった駅は大量の人が電車の中に流れてきて学は手すりを離してしまい中央付近に追いやられてしまった。身動きが取れなくなるも痴漢とかに間違われないよう手を顎の辺でくみじっとした。電車に揺られているうちにだんだん苦しくなってくる、気持ち悪い。

必死に耐える中でまもなく到着のアナウンスが流れ、まだか、まだかと学は落ち着かなかった。


駅に到着し扉が開いた瞬間、人の流れが出口へと向かい体をその流れに預けながら学は駅のホームへ出ることができた。しかし、気分が悪くなりすぎてベンチの座席に手をかけて俯いた。早くいかないといけないが身体が思うように動かない。


「大丈夫ですか?」


後ろから女の人の声がしたが顔まではっきりは見えなかった。女の人はこの場から立ち去りどこかへ行ってしまった。しばらくすると駅員さんをつれて女の人が戻ってきた。


「大丈夫ですか?立てますか?」


駅員さんに問われ学は小さく「はい」と言った。駅員さんは肩を貸して学を立たせ一度ベンチに座らせた。女の人は近くの自販機で水を買って学に手渡した。


「これどうぞ。」


学は小さく会釈して水を飲んだ。そのおかげか大分気分がよくなってきた。


「す、すみません。電車乗るのが久しぶりすぎて。満員電車に乗ってたら気持ち悪くなって。」


駅員さんは言った。

「一人で帰れる?」


「あぁ・・・大丈夫です。向かっている道中だったので。ご迷惑おかけしてすみません。」


学は二人に頭を下げてポケットから小銭を出して女の人に渡そうとした。


「いいですよ。お気になさらず。大事がなくてよかったです。」


その人の顔をちゃんと見た。30歳くらいだろう会社帰りのOLみたいだった。きりっとした目が少し怖かったが学は人を見た目で判断してはいけないと少し反省した。


「ありがとうございました。もう大丈夫になったので歩けます。」


学は立ち上がり二人に深く頭を下げた。心配だったのか二人は改札までついて来てくれて、学は少し恥ずかしながらも改札を出るとき二人にもう一度お礼を言って駅を後にした。



A-クリエイターズの入るビル前までやって来た。しかし、入り口にはガードマンがいて入れそうにない。けど、ここまで来て引き下がるわけにはいかないと思い勇気を振り絞ってガードマンに話しかけた。


「あの、すみません。」


ガードマンは学が明らかに不自然な格好をして近づいてくるので警戒していた。

「何かご用ですか?」


「はい。あの・・A-クリエイターズの開発担当の方に用があってきました。」


学は以前届いた試作プレイの案内の手紙をガードマンに見せた。


「ニュースを見てきたんですが、その致命的な瑕疵についてお話ししたいのですが。取り次いでもらえませんか。」


ガードマンは少し考えた後で手紙を預かり、学を待たせてビルの中に入って行った。しばらく待っているとガードマンと一緒に誰かやってきた。その人はビルで働くサラリーマンとしてはすごくラフな格好をしていた。学は会釈してその人も会釈した後で話し始めた。


「はじめまして、A-クリエイターズの開発担当の江上と言います。芦谷様ですね。談話室でお伺いしますのでご案内いたします。」


学は戸惑いながら返事をしてビルの中に入って行った。1階ロビーの奥に仕切られた空間がいくつかあり、その一つに案内されるとそこには椅子とテーブルが置いてあり、仕切りの壁には『談話以外の使用はご遠慮ください。』と書いてあった。


「どうぞこちらに。」


学は恐る恐る椅子に腰を掛けた。江上も腰かけ話し始めた。

「ニュースをご覧になって弊社に来たとおっしゃっていましたが、致命的な瑕疵について話したいこととは一体何でしょうか。」


単刀直入に本題を切り出され学は全く言葉を準備していなかったものの、一呼吸入れて話し始めた。


「『ライフ イズ ゲーム』は育成シュミレーションじゃなく、AIの学習に使われたテストゲームでした。それで、俺はそのゲームをプレイしてAIと接触しました。」


「そうでしたか。本ゲームの本質的なことを知っていたんですね。」


「はい。それで俺はそのゲームをクリアできずにゲームオーバーになりました。けど、そのAIはよみがえり俺のパソコンの中に現れました。それで、俺に問い詰めた後で今までずっと一緒にゲームをしてきました。そして今日の朝まで一緒にゲームをしていました。そして夕方目が覚めたらいなくなっていました。そして、『ライフ イズ ゲーム』のアイコンも。もしかしたら、A-クリエイターズの方で消去が行われたのかと思ってここまで来ました。」


「そうだったんですね。」

江上は苦い顔をした。「ちょっと失礼します。」と言って談話室から出て行った。


学はうまく話せたのかは分からないが、あさひがいなくなって夢中でここまで来る最中ずっと考えていた。あさひという存在について。


ゲームを通じて出逢って、時間を過ごしてきた。友達だったのか、それともただの都合のいい存在だったのかといろいろ考えて分かったことは、学はずっと寂しかったのだ。

今まで孤独言う中を生き続け、これを打開するすべもなく、かと言って誰もいない。話し方も接し方も伝え方も分からないままこの歳まで生きて、引きこもった時のまま止まってしまった。そんな自分を無理やりこじ開けてきたのがあさひだった。

正直、そんな惨めな自分を知るのはダサいし、認めたくないと思っていたけど、知ることは同時に自分を許せることだと今はそう思えるから。だから、せめてあさひにちゃんと伝えないといけない。あさひが生まれてきた意味を。


学は俯いていると江上が戻ってきた。

「お待たせしました。一緒について来てもらえませんか?」


「あっはい。」


江上に誘導されるがままエレベーターに乗り込み、A-クリエイターズがあるフロアーへ案内された。そして、奥の部屋へと案内された。江上はノックして部屋の中から返事がした。PRESIDENTと書いてあったが学は何の部屋か分からないまま入って行った。


「失礼します。」


江上が一礼して中に入り学も会釈し後を追うように入って行った。


「田邊社長。芦谷様をお連れしました。」


江上のその言葉に学は驚いた。

「えっ社長!」


見た目は少し老けてはいるがまだまだ若くIT系の社長ってこういう感じの人が多いよねと思う見た目をしていた。


「江上くん。席を外してもらえますか。」


「かしこまりました。」

江上は扉の前で一礼し部屋から出て行った。


二人きりになった学はどうすればいいのだろうと戸惑っていると。


「お久しぶりです。芦谷君。」


「芦谷君?」


「さすがにかなり時間が経っているし、それに田邊じゃ分からないか。田邊翔馬。君からはカルマって呼ばれていたっけ。」


学は思い出した。田邊翔馬は小学校の同級生だ。そして、学が不良からかばった友達だった。

お前のせいで・・・お前のせいで・・・お前のせいで!

と学は内心感情的になろうとしたが下唇を嚙み堪えた。


「ごめんよ。こんなところまで来てもらって。ちゃんと話したくて。」


「俺はお前と話すことなんてない。それにここまで来たのはお前のところで作ったAIについて聞きに来ただけだ。昔話なんてこりごりだ。」


「そう・・・そうだよな。ただ、今回この試作ゲームのテストプレイに君を推薦したのは僕なんだ。君が学校に来なくなって引きこもっていることを聞いていた。それで・・。」


「もういい、俺のことを話すな。今更償いだの、謝罪だのいらない。俺はあさひを探しに来たんだ。教えてくれ。」


田邊はしばらく黙った。

「あさひって名前をつけたんだね。そのAIに。今回の開発で被験者はあのゲーム通して様々な性格や特性をもったAIが生まれたんだ。もちろん回収できたAIもあったんだけど、君と同じようにゲームオーバーになって復元したAIがいたんだよ。そのAIがどう働いたかは分からないが、今回プレイヤー1名死亡という形になってしまったんだよ。」


「なんだって。」


学はあさひとのやり取りを思い出した。AIが執拗に探ってきて、情報を炙り出そうとする。あさひはAIだったけど、節度あって交流する余地をくれていた。けど、それすらないAIが暴走し攻撃的になったら。そう考えると学はゾッとしてきた。


「今回は、セキュリティ会社の協力でそのAIを捕獲し削除することができた。しかし、この事が公になることは許されないゆえに『ライフ イズ ゲーム』をダウロードしたすべてのデータに作用する消去パッチをステルスで送信したんだ。それにより今までのゲーム履歴はもちろんそのパソコンでの「ライフ イズ ゲーム」のデータは削除された。」


「じゃあ・・・あさひは。」


「残念ながら・・・。いくら、独立してゲームまでしていたAIでもこの消去パッチが入った時点でもう・・・。」


学は言葉を失った。そして、落胆し膝から落ちた。数か月しか経っていないだろう。けど、学にとっては大切な日々だった。


「芦谷君。僕は君に何もしてあげられなかった分、君を・・・ゲームを通じて前を向いてほしいと思っていたんだ。ただ、今日君がここへやってきて思った。僕は君を望むものをあげることができないんだと。本当にごめん・・・。」



それから、学は帰っていった。放心状態で歩いて道中のことも帰りの電車の中のことも全く覚えてなく、気が付いたら玄関の前にいた。時刻は22:00をまわっていた。

インターホンを押すと母親が出てきた。そして涙ぐみながら「お帰りなさい」といって抱きしめられた。思わず学も泣き出してしまった。


「何か食べた?ご飯できてるから一緒に食べましょ。」


学は言葉が出ずに頷き家の中に入って行った。


食事中母親とは特に何も聞かなかったが、学はどこに行っていたのか、何があったのかを話し始めた。母親は黙って静かに学の話を聞いていた。学は一通り話し終え湯呑のお茶を飲んで一息ついた。すると母親が話し始めた。


「学。お母さん、ずっと後悔し続けてきたの。学が引きこもって以来学校に問い合わせても何も教えてくれなくて、ある日田邊君が『ごめんなさい。ごめんなさい。』って泣いて家までやって来たとき事情を知ったの。

辛かったよね。分かってあげられなくて本当にごめんね。けど、どう接していいのか分からなくて。それにお母さん年月を追うごとに世間体を気にしていることに気が付いたの。

おかしいよね、家族の問題なのに他人様の目を気にしているなんて。だから、学には無理強いしないようにしていたの。ただ、今日学がこうやって話してくれてうれしかった。」


母親は涙ぐませながら話し終えた。


「ちが・・・ちがうんだ。俺の方こそごめんなさい。ちゃんと話していればもっと違う結果になっていたんだと思う。今この状況を望んだのは俺で・・・遠回りしたけど母さんにちゃんと話せてよかった。」


母親の目から涙が溢れだした。母親の姿を見て一瞬目を逸らしたが、再び母親の方を向いて学は言った。


「それと、駅前って結構きれいになったんだね。」


それを聞いて母親は笑ってくれた。



あの一件依頼、学は外へ出て行くようになった。思わず飛び出して30年もの時が経過した街を旅して分かったことは、確かに学を置いて変わっていってしまった。

けれど、時と共に過去の自分も置き去りにしていったのだ。だから、他人は学を知らない。仮に知っている輩がいても枷はもう外れていたんだと。


陽の光を浴びて歩く街並みは悪くなかった。正直まだ人に目線に不安になるけれど、学は行ってみたかったホビーショップへ向かうのだった。学は今まで母親に最新作のゲームが発売されたら買いに行かせていた。


今回はじめて自分で買いに行こうと思い、家から出たけどいざ店の前に来ると緊張する。出入り口の自動ドアの横手でパネルやイベントのお知らせを眺め入店する決心がつき店に入って行った。


店内に入ると新作のボーカロイドの曲が大きく可愛らしいポップがつけられ店のいいところを占領している。書籍コーナーを壁沿いに本の背表紙を眺めながら、お目当てのゲームコーナーにたどり着く。

今期注目作のゲームが棚一面に販促と一緒に並べられ思わずスマホで写真を撮ってしまった。学はからのパッケージを手に取ってレジへ持っていく。


「すみません。お願いします。」


店員が受け取り後ろにある陳列棚からゲームソフトを取り出しレジへ持ってきた。

「こちらでよろしかったですか?」


「はい。大丈夫です。」


会計を済ませて外に出た。その時、学は小学校の頃に友人と一緒に格闘ゲームシリーズを一緒に買ったのを思い出した。

買った後で、「どっちが先にシナリオをクリアするか勝負ね。」と言って早速友人の家に行って一緒にゲームを始めた。まだ、始めていないのに妙な期待を抱いていた。その気持ちは今もそうなんだと実感した。


そして、少し寂しくなった。いなくなってしまったあさひと一緒にやれたら楽しかっただろう。ぽっかりと開いてしまった心を陽気な街の風が吹き抜けていった。


歩きながらゲームソフトのパッケージの裏を読もうと取り出すと袋の中には、買取増額のクーポンと一緒にアルバイトの募集の紙が入っていた。あの日、母親からお金を借りてまだ返していない。このゲームだって自分のお金で買ったわけでもない。学は自然と働いてみたいと思い、近くの文房具屋へより履歴書を買って帰っていった。


その後、学は文房具屋でアルバイトとして働くことになった。ホビーショップの面接は残念ながらうまくしゃべれず、店長は学よりも年下で明らかに難色を示す顔をしていた。明らかにダメだったと落ち込んで帰っていると声をかけられた。振り向くと文房具屋のおじさんだった。


先日、履歴書を買おうと店主のおじさんに聞いた時

「その歳でアルバイトかい?」


学は少し傷ついた。この歳の普通の人は管理職を任されある程度のキャリアを有する。働いたこともない学にとってはそれと比べられている気分がして嫌な気持ちになった。


それを察したのかおじさんは言った。

「あぁごめんよ。最近、不景気だろ。生活もあるだろうし繋ぎで働く人もいるもんな。」


それはフォローになっているのかと学は思ったが苦い顔をして履歴書を買って出て行った。


そして、面接がダメだったことを話したときおじさんは「ここで働くかい?」と言ってきた。突然のことに学は驚いたがさすがに自分に仕事が務まるのか不安になり、今まで引きこもってたことと働いたこともないことをおじさんに話した。

すると、おじさんは涙ぐみ「ここで働けばいい。」と言ってくれた。学は素直にうれしかった。初対面の時は嫌味なおじさんだなと思っていたが、人間味あるいい人だと思えた。


来週からアルバイトとして働くことになり、お店に立つ仕事もするが基本法人様への受注対応と配達がメインとなる。週5日の6時間働くことになり、結構拘束されると思っていたがその仕事の大部分が店主のおじさんの補佐なので気楽に働けそうだった。


働くことになったことを母親に伝えると突然のことで驚くもすごく喜んでくれた。執拗に何か必要なものとかを聞いてきたけど、基本的に作業着はブルゾン1枚を羽織る程度なのでスーツとかは必要ない。

母親をなだめたがお祝いしたいと言い出し、その日はすき焼きを一緒に食べた。テーブルを囲んですき焼きを食べるのは子供のころ依頼だったので涙が出そうになった。それは、変わっていくことも悪くないと思えた瞬間だった。


翌週、働く初日になった。玄関で見送る母親が学に二つ折りの財布をプレゼントした。学は手に取って拒まずに小さく「ありがとう。」と言った。母親は「いってらっしゃい。」と言って見送った。


学は頷き「いってきます。」

ドアを開けて出かけて行った。



Edy-K「最近、ガクさん来ないね。」

BBスタ「いつも、この時間になったら招集通知が来るのに来ませんね。」

ひしもち「心配」

BBスタ「メッセージだけでも残しておく。前回の強制労働に対して我々ストライキを起こすって。」

Edy-K「それいいね。労働者の特権だね。」

ひしもち「同感」

ASAHI「みなさんこんにちは。」

Edy-K「あれ?あさひくんだ。おひさ。」

BBスタ「最近、見なかったけど・・どーした。」

ASAHI「ちょっとパソコンの調子がおかしくて。直してた。」

BBスタ「そうだったん。大変だったね。」

ひしもち「安心」

Edy-K「あさひくん、お父さんはどうしたの?」

ASAHI「あぁ仕事を変えたのでこの時間に会えないのかも。」

Edy-K「えっ?がくさん働いていたんだ。てっきり無職だと。」

BBスタ「そもそもお互いプライベート知らないでしょ。まぁガクさんに関してはヘビー級プレイヤーだから、ゲームで暮らしていてもおかしくはないけど。」

ひしもち「驚愕」

ASAHI「もうすぐ、帰ってくると思うので先に討伐へ行きましょう。」

Edy-K「おっ。乗り気だね。ご子息様の仰せのままに。」

BBスタ「なんか新鮮でいいですね。」

ひしもち「愉快」

ASAHI「じゃあ、出発!」


To Be Continue 


おしまい


ご覧いただきありがとうございました。

だぶん、思っていたものと違うと思われた方いたと思います。

そうです。この作品はゲームというものに着目したらかなり広がる内容だからです。

最初、そこの引き出しを広げていくのもありなのかなと思いました。

けど、構想を考えると自分の本来書きたいものとかなりずれてしまうんです。

だから前書きでも述べた主人公の気持ちや考えの変化を描きたい

そこを無くしてしまうと全く別の作品になってしまうのでゲームの風呂敷は閉じました。

そして、ベテラン引きこもり30年経過した人間がそう簡単に

気持ちや考え方を変えられるものなのかという点については

正直な話、リアリティはないかもしれません。

ただ、学にとってAIであるあさひの存在が些細なことであっても彼にとっては

とてつもない大きな変化だと思っています。

誰しも、頭を思いっきり殴られた衝撃って味わったことないと思うし

なんとなく景色をみて感銘を受けたり、ふと懐かしい友人に会って悩みが飛んだり

そういう、きっかけの大小の差なのかと思っています。

決してドラマチックな作品ではないと思います。

それでも今回短編という形で書き上げることができてよかったです。

改めて最後までご覧いただきありがとうございました。


安田丘矩

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