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雨降って地固まる

「説明するよ


その前に言っておくけど…二人ともこれから話すことはパパやママにも話すなよ」


「言うわけないでしょう 頭おかしいと思われるのがおちよ」


「ちょっと待って…その、説明したからお兄ちゃんがいなくなるなんて…こと」


「その心配はないよ鳩子 俺はもういなくならない」


よかった…


「おねーちゃんは素直で羨ましい…」


茉莉…


「俺がこの姿になったのは心臓発作で倒れて入院してからだ


正確に言うと茉莉がフランスに行ってから」


「私のせいなの? あんは止めなかったじゃない」


「茉莉、話の腰を折らないの 続けて お兄ちゃん」


茉莉は黙り込んだ


「手術が決まって毎日朦朧とベッドで過ごしてた


茉莉…お前に会いたくて触れたかった…」


なんか…聞いてて顔が赤面してくる


「手術が成功してもポンコツな俺はいつまでお前たちの傍にいられるかわからない


今度大きな発作を起こしたら再手術は無理だと…


医者もやりたいことをやって一日一日を悔いのないように生きてほしいって言ってくれたよ」


「鳩子…俺は17の時に茉莉を抱いた


茉莉も拒まなかった


抱けば抱くほど深みにハマって忘れられなくて…


好きで好きでどれだけ自分に言い聞かせても俺以外の他人の男がお前に触れるなど考えただけで気が狂いそうになる!!


どんなに愛しても俺たちは兄妹だからな」


な…何て言ったの…お兄ちゃん?



「17の時って…茉莉が14歳の時…」


「おねーちゃん、私ね…中1になった時、お兄ちゃんを誘惑したの」


どこか悲し気な虚ろな瞳で茉莉は呟いた


「でも笑われて上手くあしらわれて…子供だから相手にしてくれないと思った


それからやけになって…、同級生と歌舞伎町で遊ぶようになって」


「歌舞伎って…ホストとか〇〇マフィアとかもいてめちゃめちゃ物騒な…茉莉、あなた、何して遊んでいたの」


「誤解しないで(笑)バカなことはしてないから


私は仲間と映画観たりゲーセンで遊んでただけ


たまに他校の子に絡まれてタイマンはったけど…」


み、見た目が優等生だった茉莉が不良だったのね…


それより…お兄ちゃんと…やっぱり…愛し合っていたんだ…


「どれだけ愛し合っても出口の見えない関係に俺たちは心が荒んで鳩子も知っての通り 喧嘩が絶えなかった」


「心配症の茉莉は俺の病状を知ったら間違いなく後を追うだろう…


そんなことはさせたくなかった


だからもうやめようって言ったんだ」


「こんなおぞましい関係に吐き気がするって言われて悲しくて悔しくて当てつけに友達の個展で知り合ったゲイのボナールと婚約してやったのよ


でも…あんはショックを受けるどころか!! 微笑んでよかったなって…言って…許せなかった


憎くて憎くくて殺してやりたいって何度も夢にみたわ」


「一秒たりとも一緒に居たくなくて私は逃げるようにフランスへ行って結婚したの


でもねボナールには昔からのお弟子さんの恋人がいて…あんとの事を打ち明けたら協力してくれたの


入籍はしたけど夫婦の関係は一度もなかった」


「…話を戻そうか…鳩子が混乱しているから


茉莉が嫁いで心臓が悪化した俺は毎日毎日傍にいたいとひたすら願ってそれこそ命がけで生霊を飛ばしていたよ」


「先生に言われたように一日一日を悔いのないように生きようと決心して…


どうせ散る身なら茉莉の傍で逝きたいと願った」


「茉莉はピンクのイルカが好きでずっと見たがっていたからな…


連れて行ってやれない代わりに自分がイルカになりたいと願っていたら…


突然、意識が飛んで空の上に自分が浮かんでいて下をふと見下ろすと庭園で誰かと話している茉莉が見えて…


ここが何処とか考える余裕もなく


やっと会えた嬉しさに夢なら覚めないでくれと俺は茉莉の胸めがけて落ちていった」


「俺は自分がピンクのイルカのぬいぐるみだって自覚もなく茉莉に抱きしめられて死んでもいいと思ったんだ」


「あん…」


「お前に別れを切り出した時に見せられたマイナス100℃の冷たい蔑むような瞳が離れなくて


俺はもうお前の傍にいられればそれだけでよかったんだ


俺と鳩子の妹だからひょっとしたら俺の声が聞こえるかもと願いながら俺は毎日お前に話しかけた


だがお前は何も聞こえていないようで知らん顔するどころか俺に触れようともしなかったんだ…


それでも一緒に暮らしているうちにお前がボナールと男女の関係がないことを知った


それが何を意味するか…


俺へのあてつけだと知った時の俺の安堵と喜びに俺は狂いそうだった」


「たとえお前に触れられなくても俺の声が届かなくても傍に居たいと思った矢先…俺は生霊を飛ばし過ぎて身体が衰弱して


この世の者ではなくなった


茉莉は毎日毎日慟哭して食事もろくにとらず眠らず…


俺は茉莉を連れて逝くつもりだった


そんな時…悲鳴のように俺を恋しがり懐かしんで呼んでいる鳩子の声が聞こえて


どんどんオーラが薄くなっていくのを感じて…


店へ行く途中でぼんやりして車に跳ねられる鳩子が浮かんで…いてもたっても居られなかった


茉莉に話したかったが俺の声が聞こえないから知らせようがなく気付いたらここに来ていた」


「それで…いなくなったの…あん…」


「私、おねーちゃんのこと…考えてあげられなかった


前は人一倍、心配してたのに…あんのことしか考えられなかった…最低…」


「茉莉…お前は何も悪くない…俺が偽善者でお前を追い詰めたんだ!



こんな姿になったけど愛してる…例え地獄に落ちようが俺はもうお前から絶対に離れないし離さない


「あん、私を連れて逝って」


生前の姿のお兄ちゃんと抱き合っている茉莉


悲しくて切なくて


涙が止まらない


でも…でもね ちょっと…待って


「お兄ちゃん、鳩子も一緒に逝く


この世に何の未練もないよ!


お兄ちゃんと茉莉がいない世界なんか生きていくのが怖いだけ…」


お兄ちゃんは微笑むと私をそっと抱きしめてくれる


「安心して…俺はもうどこにも行かないよ


お前たちが生きている限り…いや、二人が俺と同じになったら…その時は三人で一緒に逝こうな」


「ごめん…あん…私…あんの気持…わからなく…て」


「謝らないで…今夜から俺を抱いて寝てくれよ 茉莉…」


「そうね…これからはずっと一緒ね


あんともおねーちゃんとも…」


茉莉がお兄ちゃんに口づけすると…また霧が立ち込めてお兄ちゃんはピンクのイルカに戻っていた


「可愛い 小さいから何処へでも連れていけるわね」


「うんうん でも茉莉、今夜は二人で寝たいでしょ」


茉莉は頬を赤らめコクリと頷いた


「明日からは三人で寝ような 鳩子」


「もちろん♪」



「茉莉ちゃん、おかえりなさい


そしておめでとう」


リーダーのピンクのゾウさんのぶーさん


「よかったな 鳩子」


編みぐるみのちっちゃん


「あーちゃん、よかっとす」


ピンクのゾウさんのマコ


「ママ、よかったね」


愛娘のぽぽちゃん


「茉莉ちゃん、お兄ちゃん、おかえり」


パグのかなちゃん


「雨降って地固まる…だね」


古株の猫のミーコさん



愛するぬいちゃん達も皆で祝福してくれている





一週間後…





茉莉は私のハーブショップで片腕として働くことになった



控室にはイルカのお兄ちゃんがクッションに座って私達を見守ってくれている



穏やかで優しい日々が戻ってきたのだ



これでまたパパとママに秘密がひとつ増えたけどね




a happy ending of a story









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