正体
「いや~茉莉が帰って来てくれてめでたいめでたい はっはっはっ」
「何言ってるのパパは…離婚したのにめでたくなんてないでしょう」
茉莉の離婚を聞いて上機嫌のパパと心配そうなママ
久々に家族そろっての食卓は賑やかであたたかい
これでお兄ちゃんがいてくれたらな…
「鳩子ちゃん、よっぽどそのイルカちゃん気に入っているのね」
「本当だな 食卓にまで座らせて
いくつになっても子供だなぁ 鳩子は はっはっはっ」
「あ、いや、これはその…」
だってお兄ちゃんはエネジー吸うから…なんて言えないし…
「久々に茉莉のカレー食べられるからこの子にも食べさせたいなって…えへへ」
「おねーちゃんはピュアな子だからね はいっ、どーぞイルカくん」
茉莉はお兄ちゃんの前にもカレーを置いてくれる
よかったね お兄ちゃん
「それで…相手の方とはちゃんと話し合ったのね」
「心配しないでママ
ボナールも納得したうえでの円満離婚だから」
「いいよいいよ 茉莉も鳩子も嫁になんか行くな行くな
一生パパが面倒みるぞ~」
パパ嬉しそう
やっぱり茉莉がフランスに行って寂しかったんだな
私もそうだ
価値観がそっくりで優しくてしっかり者の茉莉と離れて正直、病んでたからな
「茉莉も戻ってくれたし今年は家族で花見にでも行くか♪なあ ママ」
「まあ! お花見なんて久しぶりだわ この子達が小さい頃は新宿御苑に行ったわね
鳩子が茉莉を抱っこしている写真を思い出すわ…」
「新宿御苑の桜か…懐かしいな…後でアルバム見せてよ」
家族団らんで思い出話に花を咲かせていたら…
…!…
うそ…お兄ちゃんのカレーのお皿が空になってる!!!
いつの間に…完食したのぉ??
「おかわり…」
「茉莉、おかわりくれる?」
「はいはい♪相変わらず痩せの大食いで作った甲斐があるよ」
「これ部屋で食べるね
久々に茉莉と話したいし…」
「いいわよ
姉妹水入らずでゆっくり話しなさいな」
「さんきゅ 茉莉、いこう」
「あ、うん」
戸惑い気味の茉莉の手を引き私はイルカのお兄ちゃんを抱っこして自分の部屋へ向かった
※
パタン
ドアを閉め小さなテーブルにカレーを乗せるとお兄ちゃんをクッションに座らせた
「はいっ どうぞ」
「おお、ありがとう」
それは不思議な光景だった
目の前でカレーライスが超スピードで減っていくのだ
まるで腹ペコの子供ががっついているように
「流石はカレーのお姫様だな 茉莉」
「カレー好きだもんね…美味しい? あん?」
え……いま、あんって言ったよね…??
「おねーちゃん、昔から私にも聞こえてたよ ぬいちゃん達の声
もちろん あんの声もね…」
「気付いてたか…」
「当たり前でしょ…パリで知り合った日本人の友達とうちの庭園を散歩していたらいきなり空からピンクのイルカが降って来たんだから…」
「なに…その話…マジ…だよね?」
「うおおぉぉぉぉって、独特のメタルヴォイスで叫びながら落ちて来たのよ
そんなことするのあんしかいないじゃん」
「会いたかったよ…茉莉…って言われた時は耳を疑ったけどね…」
「お前、気付いていたのに知らないフリしてたのか…」
茉莉はお兄ちゃんをガシッと両手で掴むと泣きながら叫んだ
「私が…どんな気持ちでフランスに行ったと思ってるのよ!」
「ここにいたらあんを諦めるなんて…出来ないじゃない…
あんはズルい! いつだってそう…本当は何もかもわかっているくせに…」
「私が苦しんでいたことも知ってたくせに甘いスマイルで…いつも…あやふやにごまかされて…
あんはあざとい…」
そう呟くと茉莉は思いきりイルカのお兄ちゃんを抱きしめた
「茉莉…だから俺は心臓を病んだんだよ…」
「どうして突然パリに現れたと思ったら急に黙っていなくなって…何事もなかったようにここにいるのよ!」
「鳩子が呼んだから…俺がいなくなって引きこもりになって…毎日 俺を呼んでいたから心配だった…」
「そう……」
茉莉とお兄ちゃん…もしかして…
なんか…頭がくらくらしてきた…
突然…うちにやって来たこの子はお兄ちゃんだったんだ…
「悩みすぎると禿げるぞ」ってよくお兄ちゃんに言われたもんね…お兄ちゃん…なんだ
「ひどい…ひどいよっ 私、私、寂しかったんだから…会いたかったんだから…ずっとずっと…お…にい…ちゃんに…ううう…」
「おねーちゃん…わからなかったのね…可哀想に…」
「鳩子は天然だからな…」
「どういうことかちゃんと説明してよ」
「そうね…どうしてあんはいきなりピンクのイルカになっちゃったの?」
「…わかった…」
お兄ちゃんがそう言った途端に…部屋中に霧が立ち込みはじめる
私達を包み込んでいた濃い霧がだんだんと薄らいでいくと
茉莉と私に詰め寄られたピンクのイルカは私たちの目の前で生前のお兄ちゃんへと姿を変えていた
be continued