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打ち上げられた…

ピンクのイルカが落ちている


引越して数ヶ月後…


近所の家の前におもむろにピンクのイルカのぬいぐるみが落ちていた


海から打ち上げられたような微妙な角度で


しかも こちらを見つめているような…


まるで拾ってと言わんばかりに…



……落ちたのかな……


それとも捨てたの? いやいや、どうみても新しいし…


こんな可愛い子をどうして…


どうしよう…


これから郵便局に行かないとだし


そうだ、帰りにみてもしこの子がまだ転がっていたら拾ってうちの子にお迎えしよう!


うん、それがいい



郵便局の帰り


どうかまだいてくれますように…そう願いながら家の前を通りかかると


…いた!


これはもう運命だわ!!


ピンポーン♪


私はピンクのイルカちゃんを抱っこすると念のために落ちていた家のインターホンを押すと事情を説明した


「あの、すみません、お宅の家の前にピンクのイルカのぬいぐるみが落ちていたんですが…ベランダから落ちたとかではないでしょうか?」


「はあ…知りませんけど…」


思いっきり不信感たっぷりな怪訝そうな返答に私は「やったぁ♪」と思いながら「そうですか、すみませんでした」と、丁寧にお辞儀をして家路に向かった


お家の方にきちんと確認したんだから後から返してください、みたいな事にはならないもんね




「もう大丈夫だよ 今日からあなたはうちの子だからね~イルカちゃん」


一応、消毒して軽く拭いてあげたがまるで新品のように綺麗だ


ふわふわして大きな黒い瞳はキラキラしている


「可愛いね~お名前つけなくちゃ…」


数か月前に儚くなってしまった兄にどことなく面差しが似ている…


面長だし…ピンクの舌を出しているのがメタラーだった兄のタンギングを想わせる


「あなたは今日からお兄ちゃん、よ 私は鳩子 よろしくねっ」


裸だからお洋服作ってあげないとね


我が家のぬいちゃん達は皆、母が編んでくれたお洋服を着ているので裸の子を見ると胸が痛む


一念発起して私は母に編み物を教わり毛糸を買って来てお兄ちゃんにブルー系に裾がピンクのセーターを編んだ


「う~ん よく似合うよ♪可愛い可愛い」


「あら、チュニックタイプにしたのねぇ 上手に編めているわぁ」


「おお、なかなかいいじゃないか」


温厚で優しい父と母が褒めてくれる


私には双子のように仲がいい妹がいるが三年前にフランスに嫁いでしまい変わり者の私を唯一理解してくれた優しい兄は二月に、心臓の病で空へと旅立った


以来寂しいぼっち女である


「ねぇパパ、私が30過ぎてもこのまま独身だったら困る?」


新聞を読んでいる父にふと問いかける


父は新聞から顔をあげると優しく微笑んだ



「かまわないよ。パパもママも鳩子がやりたいようにやるのがいちばんだと思っているからね」


「そうよ 嫁ぐのは茉莉ちゃんだけで十分(笑)」


兄が亡くなってから仕事以外は引きこもりになっている私を気遣っているのだろう


重度のブラコンの私は兄が理想なので誰と付き合っても兄とくらべてしまい告白されても一週間ともたなかった


そんな私を二十代の頃までは父も母も心配していたが三十路を過ぎて以来、諦めてくれたような気がする


夕食をすませると自分の部屋に戻りお気に入りのぬいちゃん達と憩いのひと時を過ごす


そう…私には両親や妹に言えない秘密がある


それは…


「新入りさん、よろしくお願いね 私はマコ

あーちゃんの妹よ」


タイからお迎えしたピンクのゾウさんのマコちゃんが話しかけてくる


「マコちゃん、よろしく。俺はお兄ちゃんだよ、今日鳩子ちゃんに拾われたんだ」


さっそく皆に挨拶するお兄ちゃん


うん、グッジョブ! 社交性も高いわ


「きみ…拾われたんじゃなくて…泳いできたんでしょう」


そう口火を切ったのは編みぐるみのゾウさんのちっちゃんだ


「…よくわかったね…その通りだよ 俺は海から泳いできたんだ」


「だよね…僕はリーディング出来るから…鳩子ちゃんに言ってあげればいいのに

他の人にはきみの姿は見えないようにしてたってさ…」


え、ちょ、ちょっと待って!


他の人には見えないようにって…どーゆーこと??


「説明するべきだったね 俺はきみに拾われるまで誰にも姿を見られないように魔法をかけていたんだ」


「す、すごい…そんなこと…できるんだ…」


「ママが混乱して可哀想よ ちゃんとわかりやすく説明してあげて」


ピンクの羽根の可憐な鳩娘、ぽぽちゃんは私想いの優しい子なので心配してくれる


「喧嘩はダメよ みんな、仲良くね アタシはブーさんよ。皆のお母さん替わりって感じかしら

ふふっ よろしくね」


性別は♂だがオネエ言葉で話すブーさんはタイからお迎えしたタイシルクのピンクのゾウさんで面倒見がよく優しい皆のまとめ役である


「ああ、ブーさん、よろしくお願いします」


「ぼくはかなおだよ、よろしくね」


小さなパグ犬のかなちゃんは知的で物静かで優しい人格者なのだ


「私はミーコ ここでいちばんの年長者よ よろしくね」


妹が縫ってくれた猫のぬいぐるみのミーコちゃんもお兄ちゃんにご挨拶してくれる


よかった! お兄ちゃんが皆と仲良くやれそうで…


そうなのです


家族にも言えない秘密とは


私には小さい頃からぬいぐるみや犬や鳩の声が聞こえるのだ


自分の頭がおかしいのかと子供の頃はとても悩んだが唯一、私と同じ体質だったのがお兄ちゃんだけはわかってくれた



「俺もおんなじだよ


動物と植物、ぬいぐるみの声が聞こえるから皆と会話しているよ


誰も観ていないところでね(笑)」


「誰かに言ったところで理解してもらえないし悲しい想いをするだけだ


神様からいただいた特殊能力だって割り切れば案外と楽しいぞ」


兄に説得されてから私はこの生活を楽しんでいる


お迎えした子達は皆、親友のように私に寄り添ってくれていろいろと親身になって相談にものってくれる大切な家族なのだ



それにしても…捨てられたんじゃなく泳いできたって…


お兄ちゃん、あなたはいったいどこから来たの?




be continued





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