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今日の終わりは、明日の始まり

作者: 蒼和

はじめまして。初めての創作です。

某メーカーさんより、

「幸せが逃げて行く気がした」で始まり、「明日はどこに行こうか」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以上でお願いします。

というお題を頂いたので書きました。

幸せが逃げていく気がした。

肺から大きく吐き出した息は、少し冷たい立冬の朝の空気に溶けていく。

駅に向かう人波に流されるように進んでいた足を止めれば、まるで地面に縫い付けられるように動けなくなった。

──行きたくない。

毎日のように積み重なった願望を言葉にすれば、重力が何倍にもなったように感じる。

でも、行かなくちゃ……

そう小さく囁く良識の声から耳を塞ぐように踵を返した。


ふらふらと歩いた先にあったのは公園だった。

子どもの頃から同じ場所に合ったはずなのに、今まですっかり忘れていた。

懐かしい気持ちで、入口を抜ける。朝早いせいか誰もいない。

色褪せた落ち葉を踏みしめ、きしむブランコに腰掛けた。


こんなにブランコの位置は低かっただろうか。あの砂場は、あんなに狭かっただろうか。

しばらくぼんやりとしていたが、鞄が振動を伝えているのに気づき、スマホを取り出す。表示されたのは、やはり「会社」。

迷ったけれど、通話ボタンを押した。心配してくれた同僚に「電車で気分が悪くなり休んでいる。迷惑かけて申し訳ない」と伝えると、変わって出た上司からそのまま休暇を取って構わないと言われた。

何度も謝っているうちに、いつの間にか切れていた電話を耳から離し、大きくため息を吐く。

いけない、また幸せが逃げてしまう。スマホをしまおうとして、メール通知に気づく。

「お誕生日おめでとう」

たった一言のメッセージは好きだった人からのもので。もう長い間連絡を取っていなかったけれど、去年も同じように祝福の言葉を贈ってくれた。

スマホがじんわり熱を帯びたように感じて、ギュッと両手で胸に押し当てた。

覚えていてくれた。たった一言でも、どんな言葉より嬉しかった。自然と目頭が熱くなる。


いつもならそんなことは絶対に出来ない。でも。

勇気を振り絞って、通話ボタンを押す。多分出ないとわかっていた。でも今ならお礼を言うという理由があるからかけてもいいはずだ。

「はい」

懐かしい声に心臓が止まりかけた。

「わざわざありがとう、元気? 」

変わらず、優しい声で問いかけられ、涙が零れた。

それに気づいたのだろうか、こちらの近況は何も聞かずにいてくれた。

「明日会わない? 」「久しぶりに食事しない? 」

その誘いに、ただただ頷いた。


気づけば曇っていた空から秋の温かな日差しが零れ、どっさりと実ったピラカンサの赤い実を啄んでいた鳥が甲高く鳴いた。

急に世界に色がついたようだった。

明日、そうだ、明日のことを考えよう。パン!と両手で頬をはたくと、もう一度大きく深呼吸してからエイと勢いをつけて立ち上がる。

もう重力は感じない。見上げた空にはうろこ雲。いわし雲とも言うのだっけ。一体どこへ泳いでいくんだろう。きっと、どこまでも。


「明日はどこに行こうか」

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

1124文字、お題クリア!

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