新しい身体と狙撃銃
第3回VRMMORPG BulletS RECOIL総合3位入賞チームとして『チームS・S』の名前が記録された。
賞金が入った事をメニューで確認したオレは念願のTHX-1489と、それに見合った狙撃銃を買いに、行きつけの初回版のころからあるいわば老舗のガンショップへシューメイと足を運ぶ。
ガンショップのオヤジさんは、店に入るなり「よ〜! シューメイ隊長、シノブちゃん! 惜しかったな〜。でも3位入賞おめでとう!」と声をかけてくる。この人はNCPかゲーム会社の社員だ。ま、どっちにしてもゲーム内じゃ関係ないことだから聞いたことはないけど。
店にいた客も拍手をしてくれて、小っ恥ずかしい。
ま、VRMMORPG BulletS RECOILはVRMMORPG BulletSのメインイベントだし、その実況はこの店内でもそうだけど、VRMMORPG BulletS内のあらゆる所で映し出されている。しかもそのときピックアップされているプレイヤーの『視て』いる映像、つまりアバターの『眼』を通した映像もシステム経由で映し出されているから臨場感がある。
「おう」とそっけなく英明。
最近VRMMORPG BulletS内ではいつもこんな感じだ。
「ありがとう〜。10分前には見当たらなかった敵にやられちゃったよ……あいつらが優勝したんでしょ?」
相変わらずオレはVRMMORPG BulletS内ではできるだけ女の子っぽく振る舞うようにしている。
「そうなんだよ。あいつらの遠距離射撃は凄かったぞ〜」とショップのオヤジさん。
「そうなの~? あ、そうだ。わたし賞金でこのTHX-1489にアバターを変えたいんだ〜。これって在庫ある?」とメニューからカタログのホログラム映像を見せてオヤジさんに言う。
「ああ、一体ならあるぜ」
「良かったぁ〜。ね、THX-1489って『天の秤目』搭載してるんでるんでしょ?」
「お〜シノブちゃんよく知ってるね〜」
「だって、一番最初に目をつけたアバターだしね〜。スナイパーやりたかったからさ、『天の秤目』は欲しいスキルだよね〜」
「だろうな! THX-1489は一体しか制作されてないし、金髪で目立つから不人気で売れ残ってんだよ。だから安くしとくぜ」
「え〜赤目金髪で、かわいいじゃん!」
「まぁそれは好みだけどな……赤目なのは視覚系スキル搭載してりゃ共通だ。それ以外にもスキルがあるらしいんだ」
「え? なにそれ?」
「カタログには『天の秤目』しか公表されてないが、使用したヤツがまだ誰もいないから、これはあくまでも噂だ……」
「え〜教えて〜」
「通常、型番末尾は偶数だろ? THX-1489は……」
「そう言われてみれば奇数……。今のわたしT-0814で、シューメイもT-9000で偶数だ……なにかあんの? 焦らさないで教えてよ〜」
「まあまあ。末尾奇数番号って、ノーマル版をカスタマイズしてる。しかも『9』なんて最終バージョンなんじゃないかな。そして通常の型番は『T』からなのに『THX』で始まってる。『T』ハイパーなんちゃらって、完全オリジナルプログラムじゃないか? ってな」
「なんか都市伝説っぽいけど……それで、『天の秤目』以外にもスキルがって?」
「そう。噂じゃ『鷹の目』(Hawk Eye)なんじゃないかと……」
「『鷹の目』ぇ〜? なにそれ」
「簡単に言うと、『常に』空から地上を見下ろすように状況を把握するという異常空間把握のスキルらしい」
10分前には見当たらなかった敵……もしかしてヤツらの中にそのスキルを持ってるヤツがいたんだろうか?
そのことは黙っておいて「そ、それって10分ごとのマップ更新いらないじゃん! え〜絶対欲しい! 賞金と、このT-0814下取りで買える?」
「ああ。ちょっときついが……安くするといった手前、少しはお釣り出せるぜ? 他に欲しいもんあるか?」と早速商売っ気を出してくる。
「うん、少し重くてもいいから有効射程1,500メートルくらいの狙撃銃が欲しいかな〜って」
「狙撃銃か……ウィンチェスタ-M70とかレミントンM700、バレットM98Bとかあるが、1,500かぁ……オレの好みだけどASM338(AWSM)あたりかな。.338ラプアマグナム弾と合わせりゃベストだな。それにTHX-1489の『天の秤目』があればもう完璧ってなもんよ! だがそれはお釣りだけじゃ買えねぇなぁ……」
「じゃ、貯めたゴールドを追加して……これでなんとかして!」とゴールドの残高を10万ゴールド以下の端数は隠してオヤジさんに見せる。
「しょーがねぇなー。ま、3位入賞祝いってことでそれで手を打つか〜。それにお得意さんのシノブちゃんの頼みじゃしかたねぇしな〜」
速攻で購入しASM338(AWSM)を実体化させ手に持つ……。
「うっわ、重っ! M16A3の倍はあるね〜。これ持って歩けるかな〜。狙撃位置で実体化させればいいけど、PvPで移動するにはキツいよ……」
「シノブがキツけりゃ、移動時は俺が担いでやるからなんとかなる」
今まで黙っていたシューメイが口を開く。
「ひぃ〜お姫様だっこだけはやめて〜」
「『担ぐ』と言ったから、そんなことはしない。肩車してやる。そうすりゃ索敵もできるだろ?」
「あ〜それ名案だわ〜。あ、でもTHX-1489って45.3キロもあるよ?」
「銃と弾丸合計よりは軽い」
「あ、あははは~そ、そうだね〜」
「シューメイ隊長は何か欲しいもんあるか?」と、オヤジさんまたまた商売っけ出しまくりだ。
「俺は……そうだな、対戦車ライフルかロケットランチャーあたり……」
「おいおい、戦争でもおっ始める気か?」
「そ、そうだよ。なにもそんなもの……」
「いや、3位とはいえ入賞したからには、次回以降は必ずマークされる。それに車両で移動してくる相手には重火器が必要になる」
「最もだ……『AT4』だと使い捨てだし、PSRL-1あたりはどうかな……800メートルで90パーセントの命中率あるし、重量は6.35キロで、弾頭はSR-H1は3.82キロだけど、あんたなら軽々じゃないかな? こいつなら有効射程は500メートル、最大射程は800メートルだ」
「じゃ、それもらおうか。弾頭はとりあえず10発、それとシノブ用の弾、100発俺が買っとく。これで足りるか?」とゴールド残高を見せる。
「え、いいの〜? ありがとう〜」あっさりと決めるなぁ。
「おう、それこそ充分買えるぜ。他には……」とオヤジさん。
「今日は、これでいい」
「そ、そうかい……じゃ、シノブちゃんコンバートしようか?」
「はい。じゃ、シューメイ、ちょ〜っと待っててね〜」
「アバターのコンバートする人って多いの?」とコンバートブースに入りながらオヤジさんに聞いてみる。
「最近はアップデートで初心者向けのアバターも高性能化してるから、シノブちゃんみたいに初回版の人がアップグレードするくらいかな〜」
「そうなんだ〜。わたしこのTHX-1489って、一番最初に見たときから欲しかったんだよね〜。今まで売れ残ってくれて運命感じるわ〜」
「そりゃ良かった。じゃ、コンバートするよ」
コンバートが終わり、ブースから出る……お〜っと、素っ裸だ。
ゴールドも少しは残してたので急いでXSサイズのパンツとスポブラをメニューから購入して履く。
「え〜っと、この身長に合った服ってあるかな〜?」急に眼の高さが低くなりオヤジさんを見上げて訴える。
「わるい、忘れてた。US陸軍の迷彩服ならそのサイズがたしか……あ、あった。これはおまけだ。こんなちっさい服、それこそ誰も買ってくれないしな」
「ありがとう〜」
こうしてオレは、THX-1489とASM338(AWSM)を、シューメイはえ〜っとなんだったっけか……ロケットランチャーPSRL-1を手に入れた。