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3年前

 今から約3年前のある日――。

 昼飯を秀明と一緒に、会社近くの定食屋で摂っているときのこと。

 三度の飯よりゲーム好きの英明がスマホを見ながら突然、「おい忍! めちゃ面白いオンラインゲームが今度リリースされて、事前登録していた初回版に当選したぞ!」

「あに? 今度はどんなの? ってかこの間のもうやめちゃうのか?」

「おう! 今度のはVRMMORPG BulletSっていってな、仮想現実内でシューティングができるやつなんだよ! しかもその初回版、もう一人とペアが組めるんだぜ。感謝しろよな」

「ペア? ってか、オレもやるのか? アズサちゃんはどうすんのよ?」

「ああ、あいつはゲームやらないからな。忍は前々からシューティングやりたいって言ってたろ?」

「うん、やっぱり銃で相手を倒すのって一度やってみたかったんだよな」

「そうだろそうだろ〜。で、初回版当選者は、何万ゴールドだか貰えて一定レベルのアバターと装備が選べるんだよ」

「ふ〜ん。じゃ、今度オレ女性アバター使おうかな……」

「わ、出た! 童貞の妄想!」

「うっさいな〜。銃をバリバリ撃つ女の子って格好良いんだぞ!」

「ま、そうだけどな……俺はそうだな……この体格と同じような近距離戦用のにしよう」

 と、スマホで事前登録をしていたらしいサイトのアバター一覧を見せてくれる。

「あ、英明ならこのT-9000が似合うんじゃね? 身長180センチの」

「お、そうだな……ならお前はこっちでいいんじゃね? 好みの長身・黒目・黒髪ロングだし」

「ん〜そうだな、身長165センチ……オレとおんなじじゃん。違和感なくていいかもな〜。あ、装備? 銃とかはどうすんの? オレ全然わからんし」

「ま、それは俺にまかせとけって。今度の土曜日の午前中にはギアが届くから昼過ぎ俺んちに来てくれ。忍もPC持ってくれば、一緒に設定できるからよ」



 そんなわけでその週の土曜日、英明の部屋で二人してアカウント設定から始める。

「お、これが自慢のゲーミングノートPCだな?」

「うん。今はこれで事足りるんだ」

「俺もこの馬鹿でかいでタワー型やめてノートにすっかな〜」

「ノートじゃ拡張性ないからそれでいいじゃん。第一持ち歩かないだろ?」

「まぁな」

「で、アズサちゃん今日は本当に一緒じゃなくていいのか?」

「ああ。ゲームはしないって言うから、遊ぶのは明日だ。今日はおまえにつきあってやるからな〜」

「はいはい」


「――アカウントできたか? 俺は『シューメイ』で登録したぞ」

「うん。オレも『シノブ』で登録した」

「なんだよ、そのまんまじゃん。ま、いっか。じゃLOGONしたら装備を選ぶぞ」

 まだギアは被らない状態で、ユーザーページで装備を選ぶ。

「英明はこのT-9000にするんだろ?」

「おう。忍はやっぱりこれ?」と女性タイプの長身・黒目・黒髪ロングのT-0814を指さす。

「うん。本当はこっちのTHX-1489ってのにしたいけど、めちゃくちゃ高い……」

「なんだ? このちっこい子……あ、レアスキル『天の秤目』持ちなんだな。スナイパー御用達だな。ま、ゴールド貯まったら買うんだな。その前にそれに見合った技術と銃も必要だな」

「そうだね……で、銃は?」

「予算的に最初はM16A3かな……重量は3.35キロ。有効射程は最大500メートルでフルオートモデルだしな。これなら近距離でもアサルトライフルとしても使える。弾丸は山ほど買っておかないと……」

「二人とも同じ銃なら弾丸も共通で使えるからいいね」

「だな。あと俺はこれも買うかな」と銃剣OKC-3Sを指す。

 メニューからアバターと、銃・装備他一式を選んで購入。余ったゴールドで銃弾5.56x45ミリNATO弾マガジン20発入りを山ほど買い込んだ。

「じゃ、ちょっとギア被ってダイブして、モンスター相手に練習するか……」

 英明はベッドに、オレは床に寝てギアのボタンを押してLOGONすると――VRMMORPG BulletSシステムのLOGONシークエンスアナウンスが聞こえてくる。


『最初に視覚と聴覚がVRMMORPG BulletS SYSTEM制御下に入ります――成功しました。次に四肢の触覚・味覚・嗅覚の身体感覚がアバターと同期します――成功しました。ようこそVRMMORPG BulletSの世界へ。コマンドはすべてメニューから操作が可能となりました。メニューは右手人差し指を上から下へスワイプすると表示できます。次回以降、このアナウンスをスキップするには、メニューでOFFを選択してください』

 時間は10数秒ほどだろうか、二人ともVRMMORPG BulletSの世界にダイブした。


 転送ポイントのゲートから降り、しばらく周囲を見渡したり手足を動かして身体の動きを確かめてみる。

 アバターとの一体感は素晴らしく、視覚、聴覚とそれに物を触ったときの手触りとかは現実世界と違和感はなく、ほとんど自分の身体といってもいい。

 サラサラとした長い髪も心地よい。

「お、シノブ〜その格好かわいいじゃん! 似合ってるぜ〜軍服姿」

「シューメイこそ、なかなか強面ですげーな」

 そして、ここはどうやら廃墟っぽいけど都市のようだ。

「ここって、いわゆる『始まりの街』なのか?」

「確かそうだったと思う。他にもいろいろあるらしいけど、転送場所はプレイヤーレベルで選択できるらしい。ま、メニューにマップもあるから迷子にはならないしな……んじゃ、ちょっくらここを離れて、郊外で射撃練習してみるか?」

 それが、オレがこのVRMMORPG BulletSにどっぷりハマった日だった――。


 近距離にいるスモール級のモンスターをマップで探し出し、狙って撃つ。

 が、なかなか弾が当たらない……というか、射撃なんて実は初めてなんで、撃ったときの反動で弾道が逸れるは、痛覚は無効らしいけど肩に響くんで大変だ。

 女性アバターだから、非力らしく銃も重く感じる。リアルすぎるなぁ……。

「誰だよ? M16A3は超低反動だっつったのは?」とオレ。

「おまえな、火薬使って『弾』を発射してるんだから反動はあるんだぞ。空気銃だって反動あるんだからな。反動がいやならレーザーガンしかないぜ」とシューメイ。

「レーザーガンじゃシューティング気分出ないだろ? それにPvPじゃ実弾の方が圧倒的に有利だし」と言い返すと、

「なにおまえ、PvPに興味あるんか?」と驚かれる。

「だって、やるならPvPだろ?」

「おまえ、意外に凶悪だな……」

「そ、そう?」

「でも今の腕じゃPvPどころかレイド戦で足手纏いになるだけだぞ……第一、銃の構え方がなってない。立って撃つとポジショニングも難しいし、相手から撃たれ放題になっちまうから、少しでも姿勢を低くして、片膝を地面について撃つ方法のニーリングと、地面に寝そべって撃つ姿勢のプローンを覚えた方がいいぞ」

 その日は何発か撃って『始まりの街』の転送ポイントに戻り、LOGOFFして終了。ま〜初日だからこんなもんかな――でもなぁ……。



 言われた事が悔しくて、シューメイがいない平日と土日の夜――たぶんアズサちゃんとの『デート』中――は一人でダイブ。

 都市部を離れた近郊で、ポジショニングの練習をかねてスモール級を片っ端から倒す。

 廃墟っぽいとはいえ都市部だと他のプレイヤーもいて女性アバター一人だけだから、ちょっかい出されるのがいやだったしね。

 少しずつだけど射撃の腕が上がり、ゴールドも貯まっていった。

 もっとも銃弾も補充しなけりゃいけなかったから、一気には増えなかったけどね。



 何週間か経ったある金曜の晩、シューメイと二人でダイブしてハンティングを始める――。

「そういえばシノブ、いつの間に射撃そんなに上達したんだ?」

「ああ、誰かさんと違って日々鍛錬してたのさ〜」

「なに〜? そういえばおまえってコツコツタイプだったな……」

「へへ〜ん」

「なら今日は都市部に戻って、そこらあたりにいる少人数のチームに参加してレイドに出てみるか?」

「う〜ん、どうだろう。ま、やってみるか!」

 このVRMMORPG BulletSは、よくある異世界ゲームとは違い、移動は徒歩やバイク等の車両しか手段がない。ここもリアルさを追及している仕様だ。

 銃弾やら装備は使用時に実体化させるんだけど、一旦実体化させるとLOGOFFするまではそのまま――ストレージに戻せない……こんなところもリアルだ――のため、郊外から都市部へ移動するには自力で運ばなきゃならない。

「あ〜銃重たい〜肩に食い込むぅ〜」とオレ。

「うるさいヤツだな。俺がお前の分の銃弾も持ってるんだから、もっと重たいんだぞ」

「だってオレ、今女の子だから力ないし〜」

「な〜にが女の子だよ。中身は童貞のおっさんのくせに!」

「あんだって? 童貞は余計だっつ〜の!」

 二人で言い合いながらながら、やっと都市部へ到着する。


 レイドパーティは、前衛二人、後衛二人の合計四人が多い。

 それ以外にも前衛一人、後衛二人とか、前衛二人、中衛一人と後衛二人とかもあるし、もっと大規模なレイド戦の場合はその数倍になるらしい。

 このゲームはサービス開始したばかりだからか仕様なのか、いわゆる『ギルド紹介所』なんてのは存在していない。あってせいぜい募集掲示板くらいなもんだ。これも銃と弾丸の世界を再現してるっぽい。

 だから三人以下のパーティやソロの連中が臨時メンバーを探しているはずだ。

 その中でオレたちみたいな凸凹コンビの二人組がいたので、シューメイがでかい方の男に声をかける。

「俺はシューメイ。前衛やるつもり。こっちは後衛予定のシノブってんだけど、俺たち今日が初めてのモンスター狩りなんだ。一緒に組ませてもらっていいか?」

「おーいいぜ! あ、俺はカイ。俺たちも今日初めてなんだ。前衛をする。こっちは後衛のユーサクだ」

「よろしく〜。じゃ、セオリー通りにいけそうだね!」とユーサク。

 彼らも同じ初回版当選組とのことで、息が合っているようだ。

「あ、よろしくです」とオレはあくまでも女の子を貫く。

 まぁだいたい女性アバターでも『中の人』のほとんどは男だけど、オンラインゲームでリアルのことを聞くのはご法度だ。ま、仕草とかでそのうちバレちゃうだろうけど。

「じゃ、カイにリーダーを任せる」とシューメイ。

「オッケー。じゃ、ルールを決めようか。ゴールドは四人で分配、アイテムは最終的に倒した者が獲得。で、どうだ?」

 全員異論はなく、臨時パーティが編成される。

「じゃまずはミドル級を狙ってみるか」マップでカイが獲物を探し始める。

「11時の方向、約1キロ――ミドル級が3体か……」

「近くには別パーティいないから、俺らで倒そうよ」とユーサク。

「了解!」全員で移動を始める。

 距離300メートル位まで近づき、まずは前衛のカイとシューメイの二人で先制攻撃。

 まず3体のうち1体を狙い、倒す。

 後衛の二人は援護射撃と、残りを狙う――。

 オレは最初プローンポジションで狙い、撃つ――フルオートでマガジンを使い切ったと同時に1体を倒せた!

「シノブ〜やるじゃん!」とシューメイ。

「日頃の訓練のおっかげ〜」とあくまでも女の子っぽく。

「ん〜負けてらんないな〜あっ、くっそ、外した……」とユーサク。

 マガジンを入れ替え、オレは残りの1体を今度はニーリングポジションでフルオート連射――ヒット!

 そこへすかさずシューメイがアタックし、倒す。

「イェーイ!」

「やったね〜シューメイ!」

 それからまた獲物を探し、約2時間ほどで合計7体を倒した。

 約束通りゴールドは四人で分配。すべてミドル級だったためか、アイテムはなかった。


「じゃ、今日はこれぐらいにしようか?」とカイ。

「ああ。じゃ、また今度会えたら一緒にやろうぜ! 俺らはペアではほとんど金曜22時くらいにダイブするけど、シノブはほぼ毎日ソロで都市部を離れた近郊でゴールド稼ぎしてるんだ。な?」とシューメイ。

「うん。早くゴールド貯めてもっと上級のレアスキル持ちのアバターと狙撃銃を手に入れたいんだよね~」

「目標があるんだ〜すげーな! 今日初めてなのに、あのヒット率だから凄腕のスナイパーを目指してるんだ?」とユーサク。

「うん、そうなんだ……」ちょっと照れるな〜。

「じゃ、またな! シューメイ、シノブ!」

「おう!」

「またレイドしようぜ〜シノブ〜」

「またよろしくです〜」

 シューメイと『始まりの街』の転送ポイントに戻り、LOGOFF――現実世界に。


「初レイド、大勝利だったな! 忍、ほんとすげーな!」

「うん、マジあんなにヒットするとは思わなかった〜。ん〜面白い! これこれ、こういうのをやりたかったんだよな〜!」

「忍よ、アバターに合わせてもうちょっと女の子っぽくしたほうがいいかもな〜」

「あ〜それな〜。でもいずれバレるだろうから、いいんじゃね〜?」

 それよりも早くあの『赤目金髪ロング』のTHX-1489を手に入れたい――。

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