恋旅路
思いを吐き出せない大学生のひろきは小学校の頃からずっとノートに文章を書いていた。卒業間近のある日、はるよがそのメモ書きを発見する。そこには彼のうちに秘める綺麗な文章があった。文章には彼女への密かな思いが込められていた。
そんな彼の元に全国の自由乗車券が届く。そして一枚の手紙。送り主の名前はない。手紙には「君と旅がしたい。自由な旅。気の赴くままに気軽に旅しよ♡」そう書かれていた。最初は気が進まなくて無視をした。それでも彼女はしつこく手紙を送ってきた。
「仕方ない。行ってみるか」
行ってみるとそこには小学校の同級生がいた。特に仲が良かったわけではないし、小6のときにクラスが一緒だった程度。それなのに彼女は明るく笑顔で「久しぶり。元気だった?」 って聞いてくる。なんでこんな僕にそんな笑顔で話すんだろう。不思議でたまらなかった。でも「こういう人って素敵だな」とは昔から思っていた。そういえば初恋の相手が彼女だった。でも、こんな性格だから相手に好意を伝えることもなく内に秘めていただけだった。急にどうしたのだろうか? しかもよりによって僕。
彼女との旅がスタートした。すべて彼女が連れてってくれた。始まってみるとどうも既視感がある。初めに行った場所は海が綺麗に見える公園。そこでボートに乗り、おしゃべりをしては笑い合った。次は景色がよく見える低山。海が見え、家の屋根が連なって見えてとても綺麗だった。最後は街中華。2人でビールを飲みながら、餃子・ラーメン・チャーハンを分け合って食べた。
すると、彼女が突然妙なことを言い始めた。
「今日のプラン全部私が考えたって思ってる?」
「え、そうじゃないの?」
「覚えてないの? 小学校の頃、ひろきくんずっと文章書いてたじゃない?」
「読んでたの? うわー、言ってよ! 恥ずっ」
「ぜーんぶ読んだよ。実はその文章、出版社に送っちゃったんだ」
「何やってんの? 僕、作家にならないよ」
「なーに言ってんの? 夢だったくせに」
彼女と別れた次の日、ふと本屋に行ってみると僕の本が並んでいた。しかも実名で。恥ずかしかったけれど、嬉しかった。
「やっぱり、はるよが好きだ」
本をめくって次のプランを思い出す。
「ここか! はるよもいるといいなぁ」
向かうと、はるよが目の前に立って一冊の本を握っていた。
「はい! これ読んでね。一生懸命書いたんだから」と渡された。
そこにははるよの目に映る僕の小学校時代の姿が描かれていた。
気づけば僕ははるよを抱きしめていた。
「愛してる」
「はるよも〜」
ひろきは草をちぎり、指輪を作ってはるよの左薬指にはめた。
「幸せにするね」
「大好き」
はるよは背伸びをしながら、ひろきの頬に手を当てキスをした。