6 最初の番
惨殺表現注意
R15注意
シド視点→ユリア視点→シド視点
里を出たシドは国中を移動しオリヴィアを探し回った。
あの出血量だ。おそらく生きてはいまい。
けれど遺体がないことが気掛かりだった。シドはもしかしたらオリヴィアがどこかで無事に生きているという一縷の望みに賭けたかった。略奪を繰り返して糧を得ながら、シドは国中を当てもなく移動し、オリヴィアを捜す旅を続けた。
それは、自分自身を納得させるための旅でもあった。
******
オリヴィアが消えた襲撃の日から、一年が経過した。
ユリアは魔の森を一人で走り人間たちから逃げていた。
オリヴィアとシドと父親もいなくなり、心細さを感じていたユリアは、里に出入りしていた若い商人と仲良くなった。
ユリアはシドに✕✕をかけられていたために、身体にシドの匂いがまとわりついていた。そのせいでユリアを番にしたがる獣人の男はおらず、誰とも恋仲にはならなかった。
ユリア自身、番を選ぶことをそこまで急いでいたわけでもなかったので、自然な流れに任せようと思っていた。その若い商人から「誰にも聞かせたくない大事な話があるから、一人だけで魔の森まで来てほしい」と言われた時も、少し弾んだ気分になって、いよいよそういう話なのかなと思った程度で、まさか彼が自分を捕獲するために他の商人たちと拘束具を持って待ち構えていているなんて思っていなかった。
「君は可愛いから人間の愛玩動物になるんだよ」
商人が自分を捕まえて売るつもりだと気付いたユリアは走って逃げた。けれどいくらも経たないうちに後ろから銃声のような音がして、ユリアは前のめりに倒れた。
血は出なかったが、背中に細い筒状の物が刺さっていた。ユリアは麻酔銃で撃たれていた。
ガタガタ震えるユリアに男たちが近付いてくる。
「ユリちゃん……」
涙ぐんで怯えたように震える金髪美少女を見て商人の喉がごくりと鳴った。商人の手がユリアに伸びてくる。
が、次の瞬間、何の前触れもなくユリアの視界が真っ赤に染まった。
ユリアに伸ばされた手が弾け飛んだ。商人の二の腕の先からが、まるで風船が爆発したかのように粉々になって、肉片と血が周囲に飛び散った。商人の首から上は既に無く、ぐちゃぐちゃな切断面から血が勢い良く噴き上がっていた。
「シド君……」
商人の鮮血を浴びながらユリアは呆然と呟いていた。一年前の襲撃事件から行方不明になっていたシドが帰ってきた。シドは怒りの形相のまま、商人たちを血祭りに上げていった。
ものの数秒で商人たちは血に伏し、地上が血の色に染まった。
ユリアは震えて泣くばかりで言葉も出なかった。シドが帰ってきてくれたことは嬉しいが、自分を騙したとはいえ、商人の男が惨殺されたことは衝撃だった。
「何で他の男と番になろうとしてんだ?」
殺戮をして少し気が晴れたのか、シドの怒りは幾分和らいだ気がしたが、それでも眉を寄せて苛ついた表情のまま、ユリアにそんなことを言ってくる。
「何で待ってないんだ?」
ユリアは意味がわからなかった。シドが付き合っていたのはオリヴィアだ。シドとユリアは恋人ではなかった。別の相手と恋仲になろうとしたことを咎められる謂れは本当はなかった。
「ご、ごめ…… ごめんなさい」
それでもシドの威圧に負けてユリアは謝ってしまう。
シドが近付いてくる。シドは怯えるユリアの服を掴むと、力任せに引き裂いた。
「足を開け」
涙で濡れていたユリアの翠玉の瞳が見開かれ、さらに潤む。
「俺の番にしてやるよ」
その日、二人は番になった。
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木陰に座り、読書に耽る少女がいる。ユリアは本を読むのが好きだった。
ユリアはシドが現れたのに気付くと、本に落としていた視線を上げる。ユリアはシドへの愛情に満ちた、優しく慈しむような笑顔でこちらに笑いかけてきた。
「シド君」
シドはユリアの隣に並んで座り、彼女の肩を抱いた。シドが顔を寄せると、ユリアは恥ずかしそうにしながらも瞼を閉じて、口付けを受け入れた。
「やるよ、これ」
シドが無遠慮に差し出したのは、指輪だった。シドの左手の薬指には、お揃いの指輪が既に嵌っていた。
その指輪は商人たちから先程買ったばかりのものだ。
帰還後、新しく族長になっていた男を倒したシドは、強き者が族長になるという里の慣例に従い、異例の若さで族長になった。
そして、シドは里に出入りする商人を制限した。単純に商売をしに来た者たちだけに滞在を許し、少しでもおかしな動きをしようものならすぐに殺していた。もう少女が拐かされることはない。
「ありがとう! 大切にするね!」
ユリアは大喜びして、指輪を嵌めた指を陽に透かすように掲げ見ながら、嬉しそうにしていた。