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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
キャンベル伯爵家編

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58 死の接吻

 ララの失敗の始まりは、シドの忠告を無視して、顔が綺麗なことくらいしか取り柄がないような愚かな男を番にしたことだった。


 ララの番になったキルファは、族長であるシドの姉の伴侶になったことで、さも自分こそがシドよりも上の立場になったかのように振る舞っていて、何度も何度もシドをイラつかせた。


 こいつは死ななきゃ治らないと思っていたシドだったが、何度目かの無礼な態度の際に遂に堪忍袋の緒が切れてしまい、シドは思わずキルファを殺してしまった。


 番のキルファを心底愛していたララは、「キルファを殺したシドを絶対に許さない!」と啖呵を切って里から出て行ってしまった。


「俺はキルファを殺したお前を絶対に許さないからな!」


 あの時と同じセリフを吐いて怒り、悲しみの涙を流すララは、自分の身体にぶら下げている爆弾の導線に火をつけた。


「は、母上っ!」


 無茶苦茶な母親の行動に驚いたオルフェスが声を上げている。怪我で身動きの取れないまま慌てるオルフェスに、シドを逃さないようにと抱き付きながら視線だけ向けたララは、何か言おうとして結局何も言わず、シドを抱えて窓から飛び降りた。


「母上ーっ!」


 オルフェスの絶叫が耳から遠ざかっていった。


「『お前を巻き添えにしないために俺は行くぜ』とでも言ってやればよかったのにな」


 頬に涙の跡を残したままのララにシドが声をかける。


「うるせえ今更だよ畜生! あいつは俺がいなくても立派に生きてくはずだ!」


 会話の途中で地面に激突しかかるが、ララに抱えられる体勢ではなくて、逆にシドがララを抱えて最大限衝撃を受けないように着地したため、地面への衝突で爆弾が炸裂することはなかった。


「よせ、死ぬぞ」


 ところが、今度は隠し持っていた手榴弾を服の中から取り出したララが、ニヤリと笑って安全ピンを抜き手榴弾を起動させてしまう。


 爆発する前にシドがそれを奪って放り投げたことで二人は無傷だったが、手榴弾を何個も所持している様子のララは、ニヤニヤ笑いながら二つ目三つ目と手榴弾を取り出す始末で、おまけに、一つ目を投げて爆発した先の近くにキャスリンがいるのを嗅いで知ったシドは、チッと舌打ちをした。


 シドは仕方なく馬鹿姉ララを抱えて走り出した。


 次々とララが取り出す手榴弾を遠くへ投げたり、爆弾の導線についた火を指で消したりしながら、無言で魔の森まで帰るシドの耳に、ララの馬鹿みたいにキラキラして嬉しそうな声が響く。


「懐かしいな。こんな風にお前と一緒に森を駆けるのは、いつぶりだろうな」


「…………」


「死なば諸共だ、愛しき愚弟よ。お前のこれまでのすべての罪と共に一緒に死んでやるから、ありがたく思え」


 そう言って、ララは服の中から最後の手榴弾を取り出した。これで最後だと、油断してしまった部分がシドにもあった。


 安全ピンが抜かれた手榴弾をシドが掴んで放り投げる前に――――ララは、シドにキスをした。


 こちらを力強く抱きしめてくるララの、柔らかく甘い唇と舌の感触を感じたシドは、頭が真っ白になってしまって、自然と走りも止まった。


 永遠のような数瞬が過ぎ去った後に、ララが再び服の中に仕舞い込み心臓の辺りに置いていた、最後の手榴弾が炸裂した。


 ララが身体中に付けていた幾つもの爆弾を巻き込んで、轟音と共に凄まじい爆発がその場で起こった。


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