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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
幕間

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55/62

シドが4歳くらいの頃の話です

「シド、また追い出されたの?」


 夜、幼いシドは寝床と飯を求め、少女だが子持ちの母でもある医師ミネルヴァに会いに、医療棟までやって来た。


 ミネルヴァはいつものようにシドが親と喧嘩して出来たかすり傷の手当てをしてくれて、医療従事者用の仮眠室を一つ押さえてから、入院患者用の食事をシドのために都合して持って来てくれた。


「今度は何をやったの?」


「別に」


 飯を食いながら問いかけられるが、シドは詳細は話さない。寝床や飯を用意してくれるのはいいが、ミネルヴァはこちらが話す内容によっては説教を始めたりするので、面倒見はいいが面倒くさい女でもあった。


 無言で食事をがっつくシドにミネルヴァは一つため息を吐いてから、手を伸ばして赤みのある茶色のシドの頭を撫でた。


「おい! 子供扱いをするな!」


「子供でしょうが……


 愛情が足りないのかしら……?」


 後半は独り言のように小声で言っているが、シドにはしっかりと聞こえていた。


「愛情ならオリヴィアからたっぷりもらってるぜ」


「でも、番になってほしいと言ったら断られたんでしょう?」


「うるせえ女だな! 飯の邪魔だから出ていけ!」


 シドはミネルヴァを威嚇して仮眠室から追い出してしまった。


 無音の室内、独りきりのシドは、このイライラの原因の一つに、まあ愛情不足もあるのかと、ミネルヴァの言葉を受け止めて子供らしくもなく自己分析をした。


 両親も、兄弟たちのほとんども、厄介な面倒ごとばかり起こすシドを持て余していて、親兄弟と衝突したシドが家から追い出されるなんてことは日常茶飯事だった。シドは生意気で尊大で暴力的な性格が災いし、母親からもあまり可愛がられなかった。


 何を考えたのか、母親ぶるミネルヴァが仮眠室でシドと添い寝をしようとしてきたこともあったが、その時は鬼の形相でやって来たアギナルドに阻止され、ちょっと期待していた「寝ながらおっぱい揉みまくりタイム」は実現しなかった。

 

 シドはゴロリと寝台に横になり寝てしまおうとしたが、医療棟に入ってくるとある人物の匂いに気付き、目を閉じずにその人物の訪れをじっと待った。


「シド」


 仮眠室の戸を叩かれる音と共に、ミネルヴァとは違う、もっと幼い少女の声が聞こえてきて、そのまま扉が開かれた。


 現れたのは、朱色の瞳と髪色を持つ、シドのすぐ上の姉ララだ。


「一緒に帰ろう」


 ララは家を追い出されたシドを探して迎えに来たようだった。


 シドはララの言葉がけに――――――素直にこくりと頷いた。











 シドは差し出されたララの柔らかな手を、ぎゅうっと握り締めていた。


 月が照らす夜道を、姉弟は並んで家まで歩いた。


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