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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
アギナルド&ミネルヴァ編

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51 すれ違う二人

R15注意、少し暴力注意、変態注意


ミネルヴァ視点

 シドの私室を辞した後、手のひらに残っていたシドの匂いを洗い流したくなったミネルヴァは、仕事も早めに終わりにして自宅に帰ってきていた。


「ミーネたん」


 シャワーを終え、脱衣所で身体を拭いていたミネルヴァは、久しぶりのその呼び声を聞き、罪悪感からか身体をビクリと反応させた。


「アギー……」


 振り向いたミネルヴァは心に燻るモヤモヤを悟らせないようにと、いつも通り振る舞おうとした。


 けれど笑顔がぎこちないのが自分でもわかった。アギナルドを誰よりも愛していたはずなのに、この人を裏切る約束を別の男としてきてしまった……


「そんな昔の呼び方をしてどうしたの?」


 言いながら、シドと繋いでいた方の手をそれとなくバスタオルの中に隠した。


 シャワーで流しても手のひらに付いたシドの匂いは完全には消えていない。愛しいアギナルドにこの匂いを嗅がれたくなかった。


「僕の愛のこもった呼び方を君は否定するの?」


「そんなこと――――」


 言葉は途中で途切れた。不穏な表情をしたままのアギナルドがミネルヴァのバスタオルを暴き、その下にあった手首を掴んでいたからだ。


 青褪めるミネルヴァの視線はアギナルドの紫眼に釘付けだった。アギナルドは身の内の感情を抑え込んでいるようではあったが、そこには確かに、執愛と怒りの色があった。


 ――――全部バレている。自分がシドの番になることを了承したことも、全部…………


 ミネルヴァは後ずさってアギナルドから距離を取ろうとしたが、骨が軋みそうになるほど強く手首を掴まれていて、動けなかった。


「何で手なんだろう。唇とか舌とかだったなら、全部もぎ取って君の浮気の痕跡を消し去ってやるのに」


 久方ぶりに番から感じるこの狂気に、悪寒が全身を駆け抜けた。


「これも全部()()()()()の計画だったとしか思えない。手がなくなったら医者は廃業するしかないからね。僕もそこまでは望んでいないよ」


「アギー! 痛いっ! 離して!」


 アギナルド掴まれている部分の血流が止まっているのか、手首から先が白っぽくなって血の気が失せていた。

 

 ミネルヴァはアギナルドの豹変に涙を流す。アギナルドはミネルヴァの嫌がることはしなかったし、ずっと優しくして大切にしてくれた。


 いや、正確には、ミネルヴァが初めてアギナルドを認識した日、里から誘拐されて✕✕された時以外は、だ。


 アギナルドは最初だけ、ミネルヴァの意志を無視して無理矢理彼女の身体を奪った。その後ミネルヴァが絆されたため仲の良い番になれたが、そもそもの最初は✕✕から始まっていた。


 アギナルドはミネルヴァに合意のない✕✕✕✕を持ちかけた前科のある男だ。


「僕はこれからは君のことを好きなように呼ぶよ。好きなようにする。君が僕を大切にしないなら僕だってそうする」


「そんな、大切にしてないなんてそんなことない」


「じゃあなんで僕が死ぬのを待ちわびてるようなこと言ったんだよっ! 僕が死んだら族長と番になるって一体どういうことだよォォォォォッッ!」


 アギナルドの怒号と共に、ミネルヴァの手首の骨が強く軋んだ。酷い怪我こそしなかったが、痣が確実に残りそうな強すぎる痛みからミネルヴァは絶叫し、ズルズルとその場に座り込んだ。


「ごめんなさい……」


 泣きながら謝るミネルヴァに、ようやくアギナルドが掴んでいた手を離すが、アギナルドの怒りは収まらない。


「謝るってことは少しでも族長に好意があったって認めるってことなんだね! 前からおかしいと思ってたんだよ! 昔からやたら気にかけて可愛がってたし、()()()が家族に相手にされてなくて可哀想だとか、いっつも言ってたしね!」


 アギナルド自身も興奮していて混乱しているのか、シドのことを族長になる前の昔の呼び方で呼んでいた。


「同情から? そうじゃないだろ? ミーネたんは本当は僕じゃなくてシド君が好きなんだよ!」


「違う!」


「じゃあなんで嫌がらなかったんだ! 胸を触られてもお尻触られても! キスされそうになっても! 子供のやることだからって笑って許してて、おかしいだろ! 普通嫌がるだろ! 僕という番がいるのに! 本当は僕じゃなくて若い男が良かったんじゃないのか!」


「違う! 私はあなただけを愛してるッ!」


 ミネルヴァは頭を振りながら許しを請うようにアギナルドの脚にしがみついた。それを受けたアギナルドの勢いが少しだけ削がれる。


「……思ってたんだよ。僕たちは始まりが始まりだったし、ミーネたんは僕のことを愛してなかったんじゃないかって。肉欲に溺れただけだったんじゃないかって。


 本当は、僕と結ばれた時に、番になる音が鳴っていなかったんじゃないかって」


「違うッ! 違うぅぅッ!」


 ミネルヴァは号泣しならアギナルドにしがみつき続けた。


 あの時確かに音は鳴ったのだと、ミネルヴァは確信している。


 ミネルヴァはそこだけは否定されたくなかったし、自分のアギナルドへの思いも否定されたくなかった。


「だって! シドの要求を受け入れないと! アルが死んじゃうじゃないッ!」


 ミネルヴァもミネルヴァで、シドを昔のように呼び捨てで呼んでいた。


「アル君は自業自得だろ! 何度も何度もやめるように言ったのに! あいつ僕の言う事なんて聞きやしないしさぁ!


 ミーネたんは僕じゃなくてアル君を選んだんだ! ミーネたんは僕が一番じゃなかったんだ! 僕はそれが腹立たしいくらいに悲しい!」


 突然、アギナルドはミネルヴァをその場に押し倒した。


「ミーネたん、償って。僕を愛していることを証明して」


 アギナルドの紫眼はどこまでも不穏だ。


 ミネルヴァはアギナルドの全てを受け入れるつもりだったが――――


「や、やめて……」


 アギナルドはお尻を触っていた。


「愛してるんだったら受け入れろ! 愛してるんだったら! 何でもできるだろうがよぉぉぉぉっ!」


「アギー! 落ち着いて!」


 ミネルヴァは誰かにアギナルドの暴走を止めてほしいと思った。


 けれど、アルベールは入院中だし、上の三人の子供たちも、番を得て既にこの家からは出ている。


 現在この家には、ミネルヴァとアギナルドの二人しかいない。


 ミネルヴァはアギナルドに上から伸し掛かられて押さえ込まれた。


「ミーネたん、君に最高のお仕置きをしなきゃね」


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