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誰も俺の番じゃない  作者: 鈴田在可
アギナルド&ミネルヴァ編

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51/62

50 罠

浮気発言注意、ヤンデレ注意


ミネルヴァ視点→三人称

「アル……」


 意識もなく全身包帯だらけになって横たわる息子アルベールを見つめながら、ミネルヴァは悄然と我が子の名を呼び絶句していた。


 アルベールは些細なことでシドから因縁を付けられて、頻回な暴力を受けていた。怪我をしていない時よりも、こうやって医療棟の寝台の上でズタボロになって廃人のように横たわっていることがほとんどだった。


 シドにとっては、ヴィクトリアに手を出していたアルベールに苦痛を与えられればそれで良くて、きっと殴る理由なんて何でも良いのだろう。


 このままではいつかアルベールが殺されてしまうとミネルヴァは思った。


 アルベールが、ヴィクトリアを文字通り傷付けてその血を吸っていたことは、ミネルヴァも知っていた。アギナルドと共に強くやめるように言ったが、アルベールは両親に従う素振りもなく、ミネルヴァもアギナルドも頭を抱えていた。


 しかし仕事が忙しかったとはいえ、止めるための有効な手立てのないままアルベールを放置していた結果がこれだ。


 ミネルヴァはヴィクトリアを傷付けていたアルベール対して、「自業自得」だと見放すことができなかった。昔から厄介な息子だったが、ミネルヴァにとってはそれでも大事な息子であり、切り離して見捨てることなど到底出来なかった。


 ミネルヴァはアルベールを守るために、シドに暴力をやめてほしいと何度かお願いをしに行った。


 その度に、シドはミネルヴァに身体を要求してきた。


 ミネルヴァはその度にゾッとしてしまい、衣服の下で鳥肌を立てていた。


 ミネルヴァにはアギナルドというれっきとした番がいるわけで、シドと肉体関係なんて持てるわけがなかった。


 それでもシドと寝ろと言われれば、鼻を焼いて、アギナルドを裏切るしかない。


 それに鼻を焼けば、きっと医師ではいられなくなる。


「医者を辞めろということですか?」と問えば、「お前が医者を引退してからで良い」などと、随分と執行を先延ばしにするような答えが返ってきたので、気の短いシドがそんなことを言うことに少し違和感は覚えた。


「……私は生涯現役でいるつもりですが?」


「お前の能力が劣り、他の若い者にお前の地位が取って代わられることになれば、俺が強制的に辞めさせてやる」


「…………医者を辞める頃には、私の年齢はかなり上がっていると思いますが、よろしいのですか?」


「俺は老女ババア幼女ガキもいける」


 守備範囲の広さに一瞬だけツッコミたくなったが耐えた。


「言っておくが、約束をしておきながら俺より先に死んで逃げ切れるなどとは思うなよ。もしお前が現役の医者のまま寿命や自殺で俺より先に死んだら、お前を✕姦するからな」


 この人なら本当にやるだろうなとミネルヴァは思った。


 ミネルヴァは、シドの要求への返答をずっと保留にしていた。シドに身体を差し出すなんて、想像するだけでおぞましすぎて、とても受け入れられなかったからだ。


 けれど、息子の痛々しい姿を見ながら涙を流すミネルヴァは、アルベールを救うにためには、将来的にアギナルドを裏切ることにはなるが、その打診を受けるしかないのではと思い始めていた。











「シド様……」


 ミネルヴァは思い詰めた表情でシドの私室まで来ていた。シドはミネルヴァの来訪を予期していたようで、優しげな微笑みすら浮かべて室内に招き入れ、自分がいるソファの隣に座るように促してきた。


「覚悟は決まったか?」


 ミネルヴァは視線を俯かせたまま頷いた。すると、シドが膝の上にあったミネルヴァの手を握り締めてくる。


 不快感でミネルヴァの全身が跳ねるようにビクリと反応した。


「シド様、駄目です。アギーに気付かれてしまいます」


「別に今はこれ以上何もしないさ。手を繋ぐくらい良いだろう。どうしても嫌なら、匂いを遮断すれば良い」


 言いながらシドが手の指を絡めてきて、恋人繋ぎにしてくる。




『僕以外の男とこんなことしちゃ駄目だよ、()()()()()




 性的に無理な相手との触れ合いに、心の奥底に長らく仕舞い込んでいたはずの記憶の断片が浮上してくる。


 咄嗟に吐き気まで込み上げて来そうになってしまったが、シドに逆らって、握られている手を振りほどくことも出来ず、ミネルヴァは言われるがまま嗅覚を完全遮断した。


 番アギナルドであれば、対象ごとに匂いを嗅ぎ取る・嗅ぎ取らないを選択できる能力を持っていて、他の匂いは通常通り嗅ぐこともできるが、ミネルヴァはそこまでは出来なかった。


 シドは宣言通りそれ以上はしてこなかった。


 匂いを消し去り目を閉じて少し時間を置けば、嫌悪感も消えてくる。


(もう大丈夫。不快感は感じない。いつもの自分に戻れたはず)


「シド様、一つお願いがあります」


 しばし無言の時間が過ぎた後、恋人繋ぎにされているシドの手を握り返しながら、ミネルヴァはそう言った。


「何だ?」


「シド様が私を抱けばアギーは錯乱するでしょう。医者としてはたぶん使い物にならなくなります。今彼は後進の育成にも力を入れていますし、医者を引退した後でも里にとって全く役立たない存在になるわけでもありません。その能力が失われるのは惜しいことだと思いませんか?」


「そうだな」


 ミネルヴァはそこで一呼吸置いた。


「これは、本当にお願いになってしまいますが………… できれば、その、私を抱くのは…………」






 ――――アギーが亡くなってからでも良いでしょうか?






 シドはそこで口の端をクッと歪めて笑いそうになっていたが、俯いたまま話しているミネルヴァは気付かない。


 アギナルドはミネルヴァよりも一回り年上で、寿命的に考えればアギナルドの方が先に死ぬのだろう。


「その場合、シド様に想定以上にお待ちいただく懸念も発生しますが、その代わり、以降私はシド様だけを唯一の番として、生涯愛し続けることを誓います」











******






「わかった」とシドが了解の意を伝えている部屋の外では――――


 ミネルヴァの発言に衝撃を受けつつも、怒りで血走らせた瞳を暗くよどませて、廊下側から閉じた扉の向こうの匂いを嗅ぎ、二人の様子を探っているアギナルドの姿があった。


 自分に触れた者どもを全て即死でもさせかねないような、邪悪な雰囲気を醸し出しているアギナルドは、中にいる二人に聞こえないくらいの小声で、同じ言葉をブツブツと繰り返していた。


()()()()()…… 許さないよミーネたん……」







この後ミネルヴァとアギナルドの過去話を挿話として入れる予定でしたが、書いていたら結構長くなってしまったため、そちらは連載作として別で投稿(完結済)しました。


「新生児に一目惚れした狂人、誘拐しようとして彼女に拒否られる…… からの逆転劇」

https://ncode.syosetu.com/n8072ih/


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